浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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とりあえず階段

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「ちょっと遠回りして行かないか?」
彼はそんなことをいきなり言い出した。
(なんかいつもそうなのよね)
そう思うし、ついでにそれをすると。
「キャー」
何かに巻き込まれて。
「ここで待っててくれ」
そのまま救援に回る。
よく見ると、…あっ、これは大丈夫な奴だ。河川ザメが見慣れてない人にサメが食べ物チョーダイしているやつだから。
間に入って無事に解決した、いつもこのぐらいで終わればいいんだけどもね。
この辺にいる戦える人というのは、彼、この人が常駐でいるぐらいだからしょうがないが。
今は彼が生まれも育ちも違う地方の赴任先ところにいる。地方に人を呼ぼうと、いいお金がついてもなかなか決まらないのだが、彼はさっきみたいに「ちょっと行ってくる」そんな感じで決めたようだ。
それで私はどうかというと、私は地方の生まれなので、えっ?なんでそんな奇特な事をするのだろうな、都会の方がシガラミもないし、便利じゃないかと思ってる。
ただこういう人はいる、というのだけはわかるが…そんな感じで彼はこちらでは大事にされているようだ。
「すまん、すまん、デートの最中で」
「構わないわよ」
そういうものだと思ってるし、言って変わるタイプではない、剣士だぞ、剣士は誰かが言っても考えと行動を曲げるはずがない。
「けど今日は離さないと決めていたのは本当だぞ」
「そういうことを真顔でいうな」
「どうして?」
不思議そうな顔をしている。
「遠回りしたいのは、この先にお店があって、あれ?」
「シャッターもおりているし、看板もないわね」
調べると連休までの営業で、たこ焼き屋さん以外はガラーンと何件も空いている状態であった。
「そういうこともあるわよ」
「そうか、でもちょっと残念だ」
本当に連れてきたかったんだろうな、落ち込んでいるのがよくわかるから、彼の腕をとって、自分の腕を絡めた。
「はい、落ち込まない、落ち込まない」
「…うん、じゃあ、たこ焼きでも買って」
「他にもメニューがあるよ」
「そうなのか、どれにする?」
こっちを見ながら言うのである。
「あっ、タコ飯もある」
「タコ飯、そういえば好きだったな」
「あれは山側に住んでいると食べる機会がないのよ」
それにすぐに食べないなら冷凍しておけばいい。
たこ焼きを外の屋根付きの座席でつまみながら。
「実はな、今日遊びに来てくれるとは思わなかったんだよ」
「なんで?」
ハフハフ、たこ焼き、熱!でも美味し!
ゴクゴクンと冷たい水を飲んだ後に聞くと。
「いや、だって赴任先は結構遠いからな」
「そういう仕事では?」
「そうかもしれないが、奇特って言われたからな」
「地方に独身で赴任することをですか?」
「そう、それ」
この人はKCJの戦闘許可証と赴任前にサクッと取ってきたり、訓練としても一人でも結構色んな対処を受けてきている。
「こちらでいい人見つかりましたか?」
「それは冗談でも言わないでくれよ」
「見合いだけは勧められましたか…」
「ああ、そうだよ、彼女がいるからって断ったが」
「別に受けるならば受けてもいいんじゃないですかね?」
「なんでだよ」
「そういう人っているじゃないですか、玉の輿、逆玉とか、おめでとうございます」
「あのな、その冗談は傷つくぞ」
「じゃあ、あなたの理想は?」
「都会でも地方でもお前が隣にいてくれることだ」
「へぇ」
「俺は真面目にだな」
「それはわかってますから、驚きなんですよ、今のあなた、この地域の人からすると、カモネギというか、カモが鍋とか材料とか一式持ってやってきたみたいなもんですからね」
「だろうな、仕事以外の付き合いの方が忙しくなりそうでな…」
「あれ?なってないんですか?」
「人が減ってきてるからな、さっきのサメも見ただろう?人に慣れているサメならば、サメに慣れている人の前に行くが、そうも言ってられないから、ああやって行けそうな人間の前に出てきてしまう」
「近いうちに偉いサメにでも話をつけた方がいいのかもしれませんね」
「偉いサメか、群れによって、若干変わるからな、知っているサメたちみたいに、頭に蓮とかかぶっていればわかりやすいのだが」
蓮をかぶっているのは、川の神官みたいな役を持っている。
「人手が足りないならば、サメの力を、サメ出も上手く活用することになりそうですよね。川回りとか」
「あっ、川回りがあったな、川回りが出てくれれば、それだけでいいんだろうが、話をつけれるならばつけたいな」
川回り、見回りするサメのこと、自分達の縄張りを起きている間はぐるぐる回っていたりする。
「忍ジャメでしたっけ、あそこはその効果が出ているみたいですし」
検索して記事を見せる。
安全への嘱託契約を忍ジャメと行うことを契約したもので。
「先日も登下校時間に見回りしてくれたら、事故を未然に防ぎましたというニュースが」
人間の反射神経よりサメの方が早いので、下校している小学生に、変な動きをしている車が!って言うときに、忍ジャメがサッ!と小学生を確保し、自分の身を使って、ゴロンポヨン、小学生は無傷でした。
小学生の方からすると、なんかいきなりサメに抱き締められたみたいな感じだったという。
「その後に大きい音がした」
車の衝突音というのは、思った以上に人の心をえぐるのだが、忍ジャメはそこも完璧対応、事故に合いそうになった小学生男子にそこは見せない、聞かせない。
「サッ」
大丈夫?
抱き締めたヒレをハズシテ、目を見てそういうと。
「…」
「?」
あれ?どうしたんだろうなって顔を忍ジャメはした。
「お名前なんていうんですか?僕の名前はですね…」
あっ、これはサメに心を奪われてしまいましたね、今日から彼はサメ愛好家になってしまいましたか。
その後、近くにいた大人たちが駆けつけて、通報、学校、保護者へ連絡をすることになったのだが。
「サメと離れるのは嫌だ」
「いい加減に、ごめんなさいね」
「サッ」
いいえ、いいえ、じゃあね、事故は怖いからね、気を付けるんだよ。
「サメ!サメ!」
ずっとその子はサメー!サメー!といっていた。
「その子の気持ちはわからなくもない、自分の命の危機を救ったのがサメ、頼りがいもあったらな、もう惚れてしまうというか、しょうがないというか」
「そんなにチョロいものなの」
「男は意外とそういうものだよ」
そう彼は笑っていた。
「あっ」
時間を見て。
「そろそろ余熱通ったと思うから」
「もうこんな時間か」
朝から彼の家にやって来たのは、鍋で料理を作ったからだ。
「これ、簡単に出きると思うんだけどもね」
沸騰したら火を止めて、余熱の力で調理するというやり方を使えば、台所に立つ時間というのはかなり減る。
「仕事とか、色んなことがあったとしても、両立出来たりするものなのよ」
そういって笑うが。
「それでも、その味付けとな、後、君がいてくれると、やっぱり違うものなんだよ」
「面白いことを言うわね」
「本当のことじゃないか、というか、だんだん料理が上手くなっているというか、いや、前から上手かったが、手際がものすごく良くなっているというか」
「人によっては新しい、便利な調理方法を手に入れると、作るのが止まらなくなってしまうということがあるのです」
特に食材が高騰していることもあり、いかにして安く、新鮮にと考えると、箱で買えばいいんじゃない?に至る。
「やっとね、玉ねぎが安くなったんです、それでも例年よりは高めですが、年始年末のあの価格よりは安くなりました」
「そうか」
「一人で食べるだけだから、冷蔵庫の中身をパズルゲームのように整理しなければならなくて大変よ、だから悪いけども、犠牲になってくれると嬉しいわ」
「料理きちんと出きるのに、なんでそんな言い方なんだろうな」
「地方出身だと覚えさせられたりせるし、下手に旨いもの作ると、作らされるから嫌よ」
「そんなところ捨てて正解だよ」
「そうだよ、それは知ってるんだけどもね」
「なんだ?」
「思うところはあったのよ。あっ、そういえば小豆買うの忘れた」
「えっ?なんで小豆?」
「さっきのは安かったのと、最近餡を自分で炊いているんだよ」
「お菓子職人にでもなるつもりなのか?」
「まさか、あくまで自分で食べるぶんだよ、焦がさないで炊ける方法にまさかあんなのがあったとはね」
「なんだと」
「世の中は今日も歩みを止めてはいないんですよ、人間は銅の鍋が無くても、餡を自宅で作れるそんな時代が来てしまったんですよ!フッハハハハ」
餡というのは銅の鍋で三時間ぐらい加熱するというやり方がとられるので、自分のところで作っているとなるとそれだけですごい。
「やっぱり君といると楽しいな」
「あら?そうなの?もっとおとなしくしてなさいって言われてたわよ、まっ、女は黙って、言うことを聞けばいいという考えの人たちは多い地域だからね」
「そこから出ようとしなければ会えなかった」
「まあ、うちの地元も破綻しているからな、それこそあなたみたいな帯刀資格持ちがいないわけではないが、熱心に介入や干渉をして揉め事をおさめるというタイプの人はいなかった、だからどうしても都会というか、向こうから呼ばなければならなかったからね」
元々そうやって来た人の地元協力者から、業界が始まったタイプ。
「今でもその関係でお仕事が来てくれるから助かってるわね」
「そりゃあ、君がさ、恩あるところに何かしようとした奴がいたら、さっと止めに入って凄味きかせたあの話を聞いたら、信頼されるよね」

同郷の人が、あやかろうとしたのか、明らかに大したことがないものを片手に話を持ってきたので。
『この人たちに、それはダメ』
低く、静かに、淡々と、いつもの彼女とは違うトーンだったので、向こうも手を引っ込めた。

「あれはダメだよ」
(思い出してもまだそれか、許してないんだな)
「なんでそういうことするのかわからないな、どうしてかなって本当は白状させたかったぐらいだよ」
「どうせ、そういう奴等のことだ、自分達の保身しか考えてないさ」
「それ以外があるのって、珍しいし、それ以外の理由を持っている人は好ましいと思うわよ」
「ふぅん」
「あら、何、面白くない?」
「そりゃあね、君が他の人を誉めるんだもの」
「その人は…」
誰の身に起こったのかと名前をあげたら。
「あっ、あの人か、その人にやったら、まずいな」
「不味いというか、なんというか、信頼を一番に大事にしているところなんだよ、だからこそ、なんだけどもさ」
「紆余曲折あった末に、立身出世した方だ、ああいう人はそのポストに座り続けてもらいたいし、やっぱりそうなると誘惑は多いのだな」
「大変だね」
「他人事か、君はそういうのはどうなんだ?」
「出世ね、地方から出てきた私がしたら、それこそ立身出世の物語になりそうだよね、でも私がいなくても似たような話は最近出たから気にしないわ、そっちはシンデレラストーリーだけども」
「なんだ求婚でもされたのか?」
「契約ね、それこそ、その実力が認められてってやつ、これの良かった点はその地域では役職についてなかったことよ、これでついていたら引抜き扱いになっていたから、もめてたと思う」
「そろそろ、ポップコーン作ってもいいか?」
「やっぱり映画にはポップコーンよね、けども、すごいわね、赴任先にシアタールームあるというか、作れたというか」
「映画館がないからな、公民館上映はあるんだけども」
「そりゃあ、配信待ちになるわ」
そこで笑った後に。
「でも、なんでソファータイプにしたの?しかも一人がけじゃないよね」
「映画を見るのは君とって決めているからな」
「そんなの決めちゃうと、苦労しますよ」
「君を思いながらの苦労は、苦労ではないんだよ、こっちに来てからは残業はないし、お金にも余裕はあるが、君だけはいないならな」
(なんか今日はいつもと違うというか、なんというか)
守秘義務があって話せないこともあるだろうが、仕事で何か嫌なこと、ストレス溜まることがあったんだろうな、そのぐらいいつもと違いすぎた。
映画はミステリーものだったんだけども、推理よりも人間関係がドロドロのやつだった。
「やっぱり映画はいいな、この時間だけは自由になれる」
「全く、自分で何とかできないほど、ストレスを背負うんじゃありません」
「本当にそうだね」
ああ、これは溜まってますね。いいじゃねえか、このストレス、全部休みの間にそぎ落としてやんよ!
火がついた私はそこから大掃除を開始した、とりあえず階段、まずはお前からだ!!!!!!!


このお休みはどうしでしたか?どう過ごされましたか?
「彼女が来てくれて一緒に過ごしましたが良かったです、廊下を歩くと空気が違ってて、掃除しているつもりでも、汚れが残っていたんだなって」
そうでしたか、ただ想像とは違う過ごし方にはなったようだが、幸せそうな顔を男はしていた。




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