浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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うちの事務所の切り札

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「おはようございます」
「本日はすいません、無理をいってしまって」
傘目(かさめ)はKCJから話があり、本日は現場に同行することになった。
「私は自分一人では何かあっても逃げるしかありませんし、件の魔法使いは、傘目先生ともお知り合いとのことでしたので」
「ただ付き合いが長いといったところですが」
「お話は車中で、それでは移動してもよろしいでしょうか?」
「はい」
大きな魔法が使われたということなので、同系統の魔法を使う職員が、特殊清掃が行われる前にみたいというのだ。
「この先だとの話ですが、…話聞いてましたが、すごいですね」
真っ白な壁にしか見えない場所を見て、まるで名画を干渉するように職員はあちこちに視線を動かす。
「ああ、すいません」
「いえいえ、構いませんよ」
「話には聞いてはおりましたが、ここまでだとは思いませんでした、己の未熟を感じ、これからはもっと精進しなければと…」
堅苦しくなったので。
「でもこれって魔法というよりかは、儀式では?」
「……」
瞼を閉じて、考えてから。
「あっ!」
気づいた。
「そうですね、えっ?魔法?儀式とは聞いてたいんだけども、儀式って簡単にできるものなの?」
「できないですね」
それこそ精進潔斎や行う場所を清めたりするために結界などを用意したり、やることがたくさんあるくせに、成功率は低い。
「儀式といえば、儀式だが、現代様式で儀式って可能なのかな」
職員は混乱している。
「勢いでやったんじゃないかな」
傘目は笑うが。
「儀式、勢いで、儀式?」
さらに混乱したようだ。
「落ちついください、ゆっくりと考えていきましょう」
「ゆっくりと…」
「今は何が起きてますか?」
「今は…ですか?」
さすがは教職である、上手いこと誘導をする。
「名前の知られた魔法使いが大きな魔法を使って、特殊清掃が必要になった。変な話してますが、その魔法使いのお名前を昔知ったとき、面白い人がいるもんだなって思ったんですよね。さすがにあれほどすごい人には自分はなれないかもしれませんが、それでも練習してみたりして、懐かしい話です」
「魔法使いの家柄なのですか?」
「いえ、一般人です、夏休みに入ってすぐに異世界転移して、終わる前に戻ってくることができたんですが、家族には家出って間違われて、異世界転移証明書とか持ってても、なんだこれ?ってやつですね」
「いきなり異世界に連れてかれたは信用されませんからね」
「魔法もあんまり才能がね、なかったから、すぐには覚えれなくて、たぶんその頃なら今見ているこの魔法の痕跡が、とんでもないことなんてわかりもしなかったし」
「俺は魔法は使えませんが、そんなにすごいんですか?」
「傘目先生ってそうでしたっけ?魔法にご興味は?」
「ないわけではありませんが」
「魔法は様々な習得方法がありますからね、こちらの世界に伝わっているもので覚える人もいるし、それが合わない人もいますから、逆に合わない場合は、他の才能が優れすぎているという説を私は推しますよ」


「それでさっきまで出張だったと」
「そうです、そうです、だからお腹すいちゃって」
水芭(みずば)の作った焼き飯をガツガツと傘目は食べている。
「名前を知られている魔法使いは大変ですね、イメージを背負わなくちゃいけない」
「そうでしょうね、大きいところはそのイメージを守るために偉大さを強調したりなんかして、でも実際はなんて話もありますから」
「それは…まっ、ありますね」
「逆にこちらにいる白万(はくまん)さんみたいに、限られた人からの仕事をするという方が魔法使いとして賢い生き方かもしれません」
「傘目先生には念を押しますが…」
「わかってます、その名前は他では出しません」
「そうしてあげてください、というか、うちの事務所の切り札なので」
「切り札は何枚持っててもいいですから」
「はっはっ」
水芭は笑ってごまかすが、結構傘目はグイグイと言葉で詰めたのだ。
「俺は旨い飯を食えて、そこそこ稼いで、剣士として全うできたらそれでいいかな」
「おや、ずいぶんと欲がない」
「欲がないんじゃなくて、俺の欲を満たすものがそこだったんですよ」
その言葉はおそらく正確である。
「傘目先生は正直な人なのか、なんなのか話しているとわからなくなるな」
「そうですかね?」
「そうですよ、剣士というのはもった実直だと思ってました、偏見かもしれませんが」
「俺も実直ですよ」
「ご冗談を」
「ちょっとユーモアはありますが。真面目な話をしますと、こういうのを教える側に立とうとすると授業がありますから」
スピーチとかそんなの。
「後ね、話が面白いとそれだけで聞いてくれたりするんで、その程度のものです。すいません、おかわりってありますか?」
「ありますよ、お水のおかわりは?野菜サラダもどうでしょうか?」
「至れり尽くせりじゃないですか?」
いいの?という顔をすると、お品書きが出てきた。
「本日の分です、まだ他のお客さんがおりませんので、全部出せますが」
「…水芭さん、メニュー数増えてません?」
「ただし数量限定、品切の際はご容赦くださいスタイルなので」
「シェフの気まぐれにもほどがありますね」
「そうじゃなかったら、ずっとbarの仕事になるじゃないですか」
水芭はもちろん本業は事務所所属のガンナーである。
「ええっと…、なんで本日焼いたパンとかもあるんですか?」
「オーブンをね…買ってしまったんですよね」
同時に使わないともったいないですよねという意味が、傘目には聞こえたという。


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