浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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任されている奴が好き勝手やってるだけのただのbar

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「先生、おろしは?」
「いただきます」
「ミツさん、おろしの準備お願い」
「わかりました」
「こういうのを見ると、ここって何屋さんだっけかな?って思うよね」
「barですが?」
「その答えって哲学的だよ」
「でもいつもこういうものがあるわけではありませんからね、僕が気まぐれで出しているわけだし」
「その気まぐれで美味しいもの出してくれたらこっちは満足だよ」
「それはありがとうございます」
「水芭(みずば)さんは道場の差し入れで有名になっちゃったからな、道場には顔を出さない方がいいかも」
「なんでです?」
「学生のお母さんたちの間で噂にね」
このいなり寿司作った人、かなり美形らしいのよ。
「じゃあ俺は顔を出すことはないです」
笑顔で返されました。
「それがいいだろうね、あれはたぶん俺らでは止めにくいし、いや、止めるけどもさ、期待しないで」
さすがに門下のご家族なので難しいらしい。
「おろしましたよ」
「はい、それでは熱いうちにお召し上がりください」
一人鍋が出てきた。
大根おろしを投入する前に、まずは一口。
「出汁がうまい」
「時間があったので、水から取りましたから」
「つみれもさ、何なのこれ」
新鮮な魚からでないと出ない旨味。
「ちょっとさ、これはおろしを入れるタイミング迷っちゃうよね、そのままでも美味しいし、入れても絶対に美味しいわけでしょ」
そういいながらどんどん食べていった。
「さっき聞かれたここはbarですか?の問いに対して一つ思ったことがあります」
「なんです?」
「はい、傘目(かさめ)先生、うちの事務所は上の人たちがわりと好き勝手やっているわけですよ、だから俺もメニューだけは好き勝手やってやろうかなって」
「何その反抗期な理由」
「あ~でも、水芭さんのこれを見ると、意外と有効かなって思っちゃいますね」
ワイワイガヤガヤと賑やかすぎるとき。
「静かにしませんと、作りませんっていうと、みんなシーンとするんですよね、そこから水芭さんが作りはじめて、提供されると、その時ごめんねっていうとか」
「みんな胃袋捕まれているじゃん」
「ですよね」
「けどもさ、この鍋も、ワンコインで出していいものじゃないじゃん」
「そこは俺が一人でほとんど作ってますから」
「そんなことされたら通っちゃうよねって話だよね」
「あっ、それなら先生、食べたものとかは写真撮影しておくといいですよ」
「あれ?いいの?」
「水芭さんあまりにも作りすぎちゃって、前に食べたこれが美味しかったですっていっても、どれだろうって顔をするので」
そのまま話していくと、ああ、あれねと思い出す。
「色々作りすぎちゃうとね、そうなっていくんだよ」
「だから水芭さんにこれが美味しかったとか、この盛り付けはきれいですっていう話をするために写真を撮影しているんですよ」
「実際に写真の枚数見たら驚いたよ、こんなに作っていたかって」
「こういうところがあるので、傘目先生も写真を撮影して、あれ美味しかったとかそういう話をしてあげてくださいよ」
「わかった、でもさ、確かに同じメニューでもバリエーション多いよね、鳥からも、醤油とショウガ効いたやつと塩もあったな」
「差し入れでは出せないんですけども、油淋鶏もありますよ」
「あああああ、食べたくなるじゃん」
「いい肉が入ったら作りますよ」
「お願い、なんで食べているのにお腹がすくの、これがメシテロなの?」
「そんなつもりもないんですがね」
「でもさ、この値段でやってくれているから無理はしないでね」
「そうですね、でもメニューはある程度オーダーしてくれると迷わないこともあります」
「ああ、それってこの間の焼きそばの時ですか?」
「そう、差し入れの焼きそばに決まる前に、青果で野菜を見に行って、その時に悩んだんだよね」
今日、玉葱とじゃがいもが同じぐらいの値段で出てる。
「それって一袋とかじゃないでしょ、何キロ?」
「20キロですかね、玉葱は一箱です、悩んでいたら、豚肉が安く出たよ、どうするって聞かれて、じゃあ焼きそばかなって、あれがベーコンとかだとじゃがいもなのかもしれませんね」
「どっちも食べてみたいと思った俺をお許しください」
「それはこっちも迷ってたりしますから、大丈夫ですよ、焼きそばも今度作りますよ、ここで出している時は、目玉焼きつけるんですよ、胡椒かけて」
「うわ~腹が減ってくる、追加で頼んでいいですか?」
「どうぞ、どうぞ、何します?」
本日のメニューが出てくる。
よく食べる笠目でさえも、全部頼みたいが、だがしかしと迷い。
「鯛めし、鯛めしでお願いします」
「わかりました」
「先生、これおにぎりにして持ち帰りもできますよ」
「それも頼めるかな」
「明日食べるなら、すぐに冷凍してくださいね、お茶漬けにしても美味しいと思いますよ」
「やっぱりここはbarなのだろうか」
「barですよ、任されている奴が好き勝手やってるだけのただのbarですから」
(こういうときの水芭さんすごいイキイキしているんだよな)
そりゃあ、気兼ねなく話せる相手しかいないからだと思うよ。






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