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なんだ、ただの強盗か。
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資料は定期的に目を通す必要があるのだが、どうも疲れていたらしく、いつの間にか眠り目を覚ました。
「事件が起こりましたのはこちらのビルの一角で、ビルはこのbarのみの営業となっていることと、店主が高齢であったために狙われたようです」
テレビはつけっぱなしだ。
水がほしいと、そのまま起きあがりコップを求める。
「店主のミズバさんは、この辺りでも顔と言っていいぐらい長らく営業をしていますが」
「一人しかいないと思ったんで、いけると思ったんでしょうね、でもこちらからすれば、なんだ、ただの強盗かですし」
被害者のインタビューらしい。水芭はごくりと水を飲んだ。
(バカだな、そんな連中は…)
『これまで通りに返り討ちですよ』
インタビューと心の声が重なった。
そこで急いでテレビを見に行くが、そもそも電源が入れられていない。
慌てて確認をするが。
「これさえあれば部屋の隅々まですっきり」
通販の番組がいくつかしか流れていない。
先ほどまでの番組にはたどり着かず。
「白万(はくまん)さん、今の俺、魔法はかかってます?」
「魔法?かかっていないわよ、何かあったの?」
「いえ、何も」
事務所の魔法の部分で大きな協力者である白万の腕は知ってる、その彼女が見ても首を捻るだけである。
「ではあなたにだけしか知られたくないこと、忠告、もしくはアドバイス、いや、この場合はメッセージかしらね、深くは聞かないけども、あなたが見たそれは、今とはどう違うのかしら、そちら側から見たら、今のあなたはどう見えるかしらってところね」
「なるほど、そう見ればいいんですか」
「この間の悪魔と比べるのはなんだけども、あいつらは痕跡を隠さないじゃない?痕跡がないということはよっぱど誰かに知られたくはないということだから、そのまま受け止めるのが一番いいわよ」
「わかりました」
「まあ、ただあなたは相談しないタイプだから、気を付けなさいよ」
「それは知ってます」
「なんだかんだであの三人の代わりはあなたにはいないのだから」
「それもわかっているつもりなんですがね」
その言い方で、白万は思うのだ。
たぶん三人がいなくなったら、無茶をするだろう、そして自分には止められないだろうな。
(もちろん先生でもダメね、あの人とは生き方が違いすぎて、腕力では止めれるかもしれないけども、水芭さんの心は救われないだろうから)
と思ってると。
「ただいま」
瀬旭(せきょく)が戻ってきた。
「お帰りなさい」
「お邪魔しているわよ」
「白万さんさ、今回のMVPだと思うよ、もしかしたら悪魔被害の対応について情報は有償で公開かもしれないっていうの、あれ当たりだったもん」
「一昔前は、安全のために当たり前のように無償で公開されてましたからね、そういう意味では怖い時代ですよ」
事務所は白万の分析と対策をいち早くKCJに渡した。
「水芭」
「なんです?」
「お前、どっか悪い?いや、機嫌かな、悪いの」
「なんですか?急に」
「たまにそういうときあるからな」
「ありませんよ、気のせいですよ」
「いや、気のせいじゃないよ、俺の目にはそう見える!」
「それじゃあ、もっと資料に目を通すとかしてくださいよ」
「してはいるけども、頭に入ってこない、いや、入っては来るんだけども、眠くなるというか、今は秋だし」
「眠そうにしているのは年がら年中ですよね」
「そうかもしれないが、そうでないかもしれない」
「瀬旭さんって、現場だとすごい頼りになるのに」
「よく言われる」
「誉めてないですよ」
「頭は使ってないわけではないけども」
「本当ですか?」
「なんで確認されるんだよ」
「確認したくなりません?」
「う~ん」
「そこで悩んじゃうんだ」
「昔は色々考えてたよ、でも覆木(おおうき)と組むようになって、人増えたら、俺より考えるの上手い人間がいっぱいいるから、その人たちに任せた方がうまく行くかなっては思ったんだよね、それに考えてみ?下手にさ、俺がわがまま言い出したら大変だよ」
あれをやれ!
これをやってこい。
「確かにそれはあるかも」
「人に指示出して、反論を受け付けない状態に座るのは心地よくないのがあるし、ほら、組合で見るんだよ、俺より年下のやつがそういう体制敷いてふんぞりかえってさ」
「それは今の組合の…」
「まあ、そういうこと、あれは見てていい気分にすらならない、あれで満足してるやつらの気持ちはわかりそうもない、覆木なんて嫌悪感だしちゃってるしね、でもあいつってそういう嫌いなタイプでも無難に話をまとめれるでしょう」
「そこは上手いですね」
「私にはできませんわ」
「協力してくれる人たちが増えるたびに、やれないことは増えてく、その人たちが嫌だということをうちはやらないからね」
「本当に馬鹿げてますよ、他のところならば俺はクビになってますよ」
水芭は妄執を受けているので、他の人に被害が出る前にやめてくれといわれるのが当たり前のように考えられる。
「そんかことじゃやめてもらわないよ、ただまあ、逆にやめられることはあるかもしれないけども」
(あっ、それは心配してるんだ)
「ただでさえ少ない水芭の愛想が尽きる日がくるんじゃないかと思ってる」
「それなら直しましょうよ」
「そこが難しい問題なんだよね」
賑やかなところに、覆木と螺殻(らがら)ミツが戻ってきた。
「じゃあ、私は帰るわね」
「白万さんもう帰っちゃうんですか?」
「さすがに休みたいわ」
「お疲れ様です」
「ちょっと待って、食べるものとか飲み物渡すから」
水芭は、白万のことだから、このまましばらく家から出られないで寝込むものとして、飲食物を渡した。
「ありがとう、じゃあね」
「また来てくださいね」
バタン
扉がしまる。
ああ、そうか。
(俺にとってはこれが幸せなのか)
欠けないでずっと長らく続いてほしいこと、そしておそらくニュースで見たのは、三人を失った後の自分ではないだろうか。
この時をなぞるように、barを続けている自分、そしてインタビューなんて柄ではないのに答えたのは…
(そうすればどこで聞いてくれているんじゃないかって信じたのか)
それは実に水芭らしいというか、たぶん三人がそれを知ったら、すごく困った顔で笑うだろうね。
「事件が起こりましたのはこちらのビルの一角で、ビルはこのbarのみの営業となっていることと、店主が高齢であったために狙われたようです」
テレビはつけっぱなしだ。
水がほしいと、そのまま起きあがりコップを求める。
「店主のミズバさんは、この辺りでも顔と言っていいぐらい長らく営業をしていますが」
「一人しかいないと思ったんで、いけると思ったんでしょうね、でもこちらからすれば、なんだ、ただの強盗かですし」
被害者のインタビューらしい。水芭はごくりと水を飲んだ。
(バカだな、そんな連中は…)
『これまで通りに返り討ちですよ』
インタビューと心の声が重なった。
そこで急いでテレビを見に行くが、そもそも電源が入れられていない。
慌てて確認をするが。
「これさえあれば部屋の隅々まですっきり」
通販の番組がいくつかしか流れていない。
先ほどまでの番組にはたどり着かず。
「白万(はくまん)さん、今の俺、魔法はかかってます?」
「魔法?かかっていないわよ、何かあったの?」
「いえ、何も」
事務所の魔法の部分で大きな協力者である白万の腕は知ってる、その彼女が見ても首を捻るだけである。
「ではあなたにだけしか知られたくないこと、忠告、もしくはアドバイス、いや、この場合はメッセージかしらね、深くは聞かないけども、あなたが見たそれは、今とはどう違うのかしら、そちら側から見たら、今のあなたはどう見えるかしらってところね」
「なるほど、そう見ればいいんですか」
「この間の悪魔と比べるのはなんだけども、あいつらは痕跡を隠さないじゃない?痕跡がないということはよっぱど誰かに知られたくはないということだから、そのまま受け止めるのが一番いいわよ」
「わかりました」
「まあ、ただあなたは相談しないタイプだから、気を付けなさいよ」
「それは知ってます」
「なんだかんだであの三人の代わりはあなたにはいないのだから」
「それもわかっているつもりなんですがね」
その言い方で、白万は思うのだ。
たぶん三人がいなくなったら、無茶をするだろう、そして自分には止められないだろうな。
(もちろん先生でもダメね、あの人とは生き方が違いすぎて、腕力では止めれるかもしれないけども、水芭さんの心は救われないだろうから)
と思ってると。
「ただいま」
瀬旭(せきょく)が戻ってきた。
「お帰りなさい」
「お邪魔しているわよ」
「白万さんさ、今回のMVPだと思うよ、もしかしたら悪魔被害の対応について情報は有償で公開かもしれないっていうの、あれ当たりだったもん」
「一昔前は、安全のために当たり前のように無償で公開されてましたからね、そういう意味では怖い時代ですよ」
事務所は白万の分析と対策をいち早くKCJに渡した。
「水芭」
「なんです?」
「お前、どっか悪い?いや、機嫌かな、悪いの」
「なんですか?急に」
「たまにそういうときあるからな」
「ありませんよ、気のせいですよ」
「いや、気のせいじゃないよ、俺の目にはそう見える!」
「それじゃあ、もっと資料に目を通すとかしてくださいよ」
「してはいるけども、頭に入ってこない、いや、入っては来るんだけども、眠くなるというか、今は秋だし」
「眠そうにしているのは年がら年中ですよね」
「そうかもしれないが、そうでないかもしれない」
「瀬旭さんって、現場だとすごい頼りになるのに」
「よく言われる」
「誉めてないですよ」
「頭は使ってないわけではないけども」
「本当ですか?」
「なんで確認されるんだよ」
「確認したくなりません?」
「う~ん」
「そこで悩んじゃうんだ」
「昔は色々考えてたよ、でも覆木(おおうき)と組むようになって、人増えたら、俺より考えるの上手い人間がいっぱいいるから、その人たちに任せた方がうまく行くかなっては思ったんだよね、それに考えてみ?下手にさ、俺がわがまま言い出したら大変だよ」
あれをやれ!
これをやってこい。
「確かにそれはあるかも」
「人に指示出して、反論を受け付けない状態に座るのは心地よくないのがあるし、ほら、組合で見るんだよ、俺より年下のやつがそういう体制敷いてふんぞりかえってさ」
「それは今の組合の…」
「まあ、そういうこと、あれは見てていい気分にすらならない、あれで満足してるやつらの気持ちはわかりそうもない、覆木なんて嫌悪感だしちゃってるしね、でもあいつってそういう嫌いなタイプでも無難に話をまとめれるでしょう」
「そこは上手いですね」
「私にはできませんわ」
「協力してくれる人たちが増えるたびに、やれないことは増えてく、その人たちが嫌だということをうちはやらないからね」
「本当に馬鹿げてますよ、他のところならば俺はクビになってますよ」
水芭は妄執を受けているので、他の人に被害が出る前にやめてくれといわれるのが当たり前のように考えられる。
「そんかことじゃやめてもらわないよ、ただまあ、逆にやめられることはあるかもしれないけども」
(あっ、それは心配してるんだ)
「ただでさえ少ない水芭の愛想が尽きる日がくるんじゃないかと思ってる」
「それなら直しましょうよ」
「そこが難しい問題なんだよね」
賑やかなところに、覆木と螺殻(らがら)ミツが戻ってきた。
「じゃあ、私は帰るわね」
「白万さんもう帰っちゃうんですか?」
「さすがに休みたいわ」
「お疲れ様です」
「ちょっと待って、食べるものとか飲み物渡すから」
水芭は、白万のことだから、このまましばらく家から出られないで寝込むものとして、飲食物を渡した。
「ありがとう、じゃあね」
「また来てくださいね」
バタン
扉がしまる。
ああ、そうか。
(俺にとってはこれが幸せなのか)
欠けないでずっと長らく続いてほしいこと、そしておそらくニュースで見たのは、三人を失った後の自分ではないだろうか。
この時をなぞるように、barを続けている自分、そしてインタビューなんて柄ではないのに答えたのは…
(そうすればどこで聞いてくれているんじゃないかって信じたのか)
それは実に水芭らしいというか、たぶん三人がそれを知ったら、すごく困った顔で笑うだろうね。
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