浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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お父さん

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ホラーなので、苦手な方はスキップしてください。





気がついたら真っ暗で、いや、目がだんだん慣れてきた、起き上がろうとしたら。
「痛っ」
体が響くような痛さである。
スっ
そこに誰かが…いや、これは、サメである。
そういえば先日フィギュアスケートサメシングル見たばかりなので、あの種類のサメだとは思うが。
大丈夫?
と言わんばかりに手を、いや、ヒレを差し出し、差し出したヒレを借りて立ち上がった。
「なんだここ?」
見渡すと階段でありがちな夜の学校といったところか、ここでサメのヒレの温かさを頼もしく感じた。
パチ
サメが自分が羽織っているマント?を脱いで、こっちに渡してきた。
「サッサッ」
羽織れというのだ。
「寒くないの?」
「サッサッ!」
平気だよらしいが。
ペト
触って確認、もしも冷えるようなら、休憩し、サメとマントの中にいよう、膝に抱えればいけなくもないだろう。
子供のサメではないが、なんとなく子供っぽい気がする。
小学生時代を思い出すというか…
あれ?
小学生時代?
思い出そうとするとモヤがかかる。

「サッサッ」
階段を見つけたようだ。
「えっ?ここは何階なのだろうか?」
窓はある、ここから見えるか?
と思ったら、サメが強く握った。
「ああ、ごめんよ、今行くよ」
もしも彼が窓に近づいていたら聞こえていただろうか、窓越しにあの声を。

なんでなの

なんでなの?

なんで

なんで

なんでなの?

この建物が現世との接点でもあるし、向こう側とも繋がっていた。

もしも彼が一人ならば、恐怖に心が負けていただろう、そうなれば向こう側はしめたもの、恐怖で心を縛り、犠牲者となっていただろう。

モーター音

「サッ!」
サメの顔が輝いた。
「あれ?もしかしてお迎え?」
「サッサッ」
「そう、じゃあ僕もなんでここにいるのか、家まで帰り道を…」
あれ?家?僕の家?
「メヅー!!!!メヅー!!!!」
「サッ!サッ!」
サメの名前が遠くから読んでいるのか、その言葉にサメが反応してる。
「メヅル!」
なかなかのイケおじさんが血相変えて洗われた。
「サッサッ」
「よかった、無事か」
「あの~」
「君もつれてかれそうになったのかな」
「連れてかれそうになった?」
「一言でいうと、誘拐」
「うち身代金出さない親ですよ」
「労働力としての誘拐」
「うわ~」
「最近ちょっと増えていて、こうして警備はしているんだけども、後手に回ることが多くて、さっ、家まで送るから」
「あの~」
「なんだい?」
「僕の家はどこですか?」
「安心したまえ、KCJはそんな子にもばっちり対応だよ」
この子の身元はすぐにわかるだろうが、普段から忘れたいもの現実逃避したいものというのは、転移のショックで人の心から抜け落ちることがあるのだ。
「君が覚えておけばいいのは、誰かを思いやる優しい心や、これからの幸せということだね」
そっか、それでいいのか。
「さぁ、こんなところから出ようじゃないか、まずは暖かい食事を食べよう」
「サッ!」
「メヅルダメだぞ、豆腐を加熱しすぎて熱の塊になった汁物はごめんだよ!」
「熱いの好きなんですか?」
「このサメは、豆腐を熱々にして食べると、体の中をどこが通っているのかわかるから好きみたいなことをするんだ」
「舌火傷しちゃいますよ」
「お兄ちゃんにも言われたぞ」
玄関から出ると、大型のサイドカーがポンと置いてある。
「すまないがメヅルと一緒に乗ってくれるか?」
「はい、わかりました」
メヅルは風を感じるのも好きだが、誰かと一緒なのも好き。
「多少エンジンがうるさいが、そこは了承してくれよ」
ボッボッボッボボボボボボ
このエンジン音がうるさくて良かったと思う。
何しろ、あの声はずっと恨みを口にしていたのだから。

ねえ、なんであいつは助けられるの?

ずるいよ

ずるいよ

ずるいと思う

ねえなんで?

私は助けてもらえなかったよ。


それでもそこまであいつらが追ってこなかった理由は、メヅルがいるからとかじゃなく…

すごい

すごい

辛いんだ…

救出された彼の心、闇がポトリと置き去りにされていたからなんだよ。

彼が幸せになれば、闇は滲むように消えるだろう。

でもそうじゃなければ?

また彼はここに訪れる。

(闇というのは元来心地がいいものだ、心の傷があればあるほど、優しい)
メヅルパパと呼ばれる職員は、闇から出る前に、「お父さん!」と声を聞いたが…

「もうちょっとで明るいところに出るよ」

少し動揺したようだが、その声に返事をすることはなかった。
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