浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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この道、ちょっとは諦めていたんだぜ。

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「山宮さん、今いいですか?」
「どうしましたか?」
支部にいた山宮の顔を見たとき、管理部はホッとしたという。
「すいません、急なんですけども」
空豆を見てほしいという。
「安くてもいいから買ってくれって感じで」
なんでも急にキャンセルが入ったので、困っているという。
「それは…」
「向こうには伝えてませんが、品物が山宮さんの目から見ていいなら、向こうの表示額で買いますから」
「あっ、そういうことですか」
それならば幾分気が楽である。
(これで生きるの死ぬのになるとな)
実際にあるし、山宮もそういうのは直接知っている。
「ええっとですね、今、調理の責任者を呼んで参りますのでってことかんてますけども、山宮さんにしてもらいたいのは空豆の良し悪しと、後でそれを活かしたメニューを、まあ、これは買うと決まってからですかね、警備も付き添いますから」
「その方大丈夫なんですか?」
「この取引が成功に終わったも、失敗に終わっても、うちの医療部門に血圧とか見てもらいますから」
そのままじゃ返すことはしないらしい。
「それでですね、今、管理の方も動いてまして、はい、金銭的にお困りのようでしたら、お金も少しばかり色をつけて渡すという話でしたし」
「本当に、公益というか、それ大丈夫なんですか?お金くれって言われたりしません?」
「ああ、ご挨拶の名刺から、すぐにどういう仕事をしてきたのかわかる範囲のことだけでも、真面目なところとわかりましたからね」
(KCJって本当にこういうところ怖いよな)
お金には強くはないけどもしっかりと働いてくれているから、山宮を呼ぶと決めたらしい。
「あなたが責任者さんですか?」
自分の父親ぐらいの方が、こちらの顔を見たときに明るくなったのである。
つい先日、KCJに拾われた身としては、できれば何とかしてやりたいと思った。
しかし空豆見たとき。
(こんなにいい空豆見たことないんですけども)
プリっプリである。
「うちの空豆、他のところより収穫時期が遅いので、これから旬になるんですよ、茹でて食べたらそりゃあ、旨いんですよ」
日に焼けた顔で笑顔を見せる。
グッ
管理部に山宮はサインを送る、これは買いだというやつだ。
「それではこちらの空豆は買わせていただきたのですか」
「ありがとうございます、月末〆で翌月末払いですかね?」
「いえ、前金で全額」
「えっ?」
とっつぁん、これがKCJだよ。
「あと、よろしければ、ご自宅でどうやって食べているのか、色々な空豆のレシピなどを教えていただければ」
「ああ、それも」
「取材費などは支払わせていただきます、こちらも前金で」
「えっ?」
「ええっと、僕がいうのはなんですか、ここってそういうところなんですよ」
「それでいい仕事してくれたら、文句は言いませんよ」
「か、家族に電話してもいいですか」
「どうぞ、冷たい麦茶もいれましょう」
「羊羮食べます?作ったんですよ」
とりあえず前金に慣れてないので、大騒ぎになりました。
「ええっと、ご不安でしたら、そちらのメインバンク、担当の方同席してもらったほうがよろしいですかね」
「あっ、それなら、信用金庫に電話しても」
「かまいませんし、こちらから担当者のものとも、是非ともそちらの空豆を使わせていただきたいのでと連絡しますが」
(銀行が中に入ったら、さすがに夢じゃないってわかるよな)
冷やかしが絶対にきかないところを中に入れることに躊躇いがないのが恐ろしい。
「では本日、車に乗せている分の空豆は全部引き取りと、お車代もつけますので」
明らかに今までの引き取り価格よりも高い値段で空豆は買われた。
ごくごくごく
もうわけがわからないので、麦茶もそりゃあ一気飲みである。
「羊羮もおかわりありますので」
「実は甘いものが好きで」
「農家さんはおやつが一日に二回ありますからね」
そう対応した管理部門がチラリと山宮を見た。
(焼き菓子とあんパンとこの羊羮もお見送りの際に持たせますよ)
「すいません、麦茶をとってきますので」
さすがに本当のことは言えないので、お代わりの麦茶という理由で厨房に戻ってきた。
KCJには食品通販も可能な設備が一式あるので。
急に先方さんにお伺いしなければならないときのお土産用の焼き菓子とあんパン、そしてさっきの羊羮は明日の日付なのでペロリと食べてくれるだろう。
「僕も何でも作れるって喜んで、色んなものを作るようになったよな」
食の利益はとんとんでいい、後は他が回すからと言われて、材料もいいものを使えるようにはなっているが。
「この道、ちょっとは諦めていたんだぜ」
挑戦できるとは思わなかった。
空豆の代金とお車代、そして帰りにお土産を渡したら、何度も何度もこちらに頭を下げて、帰っていった。
そして数日後、金融機関を挟んで、契約は無事に結ばれた。
「やっぱり金銭的にギリギリだったみたいですね」
「それは、この一回だけの取引でなんとかなります?」
「その分を取材という形で埋めますし」
職員が取材のために農家を訪れて、そのまま焼かれて皮が焦げて、その中から光輝く豆の写真が送られてきた。
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