浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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ついでに五才ぐらい若返らせてやるか

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「そうですね、奪熱素材ケットシークールを使った避暑ですか」
暑くなると、熱を奪われたケットシーが、仰向けになり動けなくなるのが風物詩です。
「あれは仕掛けておいたら、猫とかも捕まりそう」
「捕まるだけじゃすまないんですよ」
「えっ?」
波里は語る。
「場所争いで一歩も引かなくなるので、大ケガするんですよね」
耳とか噛まれるのフツー、フツー。
「あと、人間だったら30℃、熱射病の危険性があるときに使った方がいいんですけども、ケットシーや猫は毛で覆われてますからね」
むしろごろんとしたときが使いごろ。
「あっ、遅れましたが、ケットシー純毛ありがとうございます、大変喜んでおりまして、こちらはお金とは別に先方からみなさんで召し上がってもらいますようにと」
赤銅カステラ
「それすごく甘いので、砂糖なしの飲み物と合わせることをおすすめします」
「カステラだから、長崎のお菓子かな?」
「カステラですからそれっぽいですが、違いますね、ただあちらに負けないほど甘いもの食べる地域なので」
赤銅がついているとわかるだろう、これはドワーフのお菓子である。
この物語で身近なドワーフは、東司の知己の河童山、今回のケットシー純毛はこちらの親戚に頼まれたものである。
「女王様のへの贈り物の依頼があったものでよ」
ケットシー純毛は主な用途として、旅人などが無事に帰るように、またそれを見るとどこの出身わかるように布地に印を刺繍した。
これだけだとただの鰯の頭なのだが、ドワーフはおもしろいなと、数百年前ぐらいに染色技術と合わせて、華やかでありながら、魔法や厄から実際に守れるような技術にまでしてしまった。
「東司のところのケットシーは、毛がとんでもなく細いのに艶があるんだ、王様みたいか生活しているんじゃないか」
王様ではないが専属のマッサージを毎日受けているせいで、その毛は気品があった。
「ガッサガサの毛でもしょうがないと思ったが、これならいいもの作れるぞってことで、染料もかなりこだわったそうだ」
その代わり値段が上がりまして、依頼人はかなり悩んだが。
「ドワーフがノリノリになっているものは後世に残りますよ、残るということはあなたの名前も残るということですよ」
囁いたものがいたという。
そこで!
「わかった、この金額からはあげるなよ!」
そこで話がまとまった。
「それじゃあ、金は残らないんじゃないか?」
「でも仕事終わりの酒は間違いなく旨いからな」
こういわれると、返す言葉はない。
手織りの純白生地に、ドワーフの職人が染色した糸で刺繍をしていく。
送り主の家の紋と、花が布の上に現れて。
「なるほど、これならば注目度は抜群だ」
とある王家から女公爵となるものへの贈り物。
(元々泡銭だったわけだし、これでご機嫌がとれれば問題はない)
ひそひそ
(泡銭ってなんです?)
(戦があってな、依頼人にも参加するように言われたんだが、戦場についたとききは終わってて、でもほら形だけは戦争に参加したから、なんか出さなきゃならないじゃんっていうお金)
(ぱ~と飲めばいいのに)
(そこまで悪党じゃないんだろ、それで買ったから領地をどうするかと、王子が子供二人いるから、その姉妹となると、そろそろ嫁ぎ先とか次の道を考えなきゃならないから)
(大変だな、俺は毎日寝て食って飲めればいいや)
(そうだが、仕事覚えるなら、こういう事情も知っておけよ、金を持っている間はお得意さんになるだろうからな)

『ここは浜薔薇の耳掃除です』

ベタベタする、今日は休みだ、浜薔薇に髭を剃ってもらおう。
そう思っている人が多いのか、待ち合いのソファーには無精髭のお客さん達が並んでいる。
(平日も多いんだよな)
休日はサラリーマン、平日はフリーランスなど比較的時間の都合がつきやすいので、休日の混みあう時間を避けているという形。
何しろ平日の人が少ないときには、蘆根ははりきる。
(まあ、うちの先生ほどではないが)
先生の一人は、腰痛や眼精疲労のお客さんが来ると。
「お前ら、その腰痛に愛着はあるのか!」
「ありません!」
「ないなら、ここでさようならするんだ、その覚悟はできているのか」
「はい、あります」
「よーし、よく言った、じゃあ、思い出せ、腰痛に苦しめられた日々を」
ううううう
みんな泣き出した。
「辛かったか?」
「はい、深夜バスで遠征しようとしても、響いて眠れなくなって」
「私は手術を薦められましたが、手術してもらまたなるからって、それが恐ろしくて」
「自分の腕で生きているので、右手と目と腰が悪くなったら俺は」
 ペチ
その音と共に始まった。
「眼精疲労がここまで来ているか、この緊張が悪循環を生んでいる、そして筋肉、バランスが悪い、こんな風に引っ張られていると、同じ姿勢は辛いだろう」
「はい…」
「それじゃあバイバイしよう!」
「あああああ」
そうして一発で治してしまう人であった。
「いいか、蘆根、腰痛でさえも執着してしまうようになるんだ、悪いのを全てそのせいにしてしまう、そうなる前にお別れさせるんだ」
こうやってね!
「ふっ」
「どうしました、先輩」
「先生、元気かなって」
先生は最近は作家の〆切缶詰プランのオプションマッサージの仕事ですんごい忙しくしてる。
「くぁぁぁ」
体をまるで何事もなかった状態にまで戻すんだもの。
「よし、ついでに五才ぐらい若返らせてやるか」
「えっ?」
こういう先生に習っていたら、そりゃあ蘆根の腕もとんでもない。

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