浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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何時もより優しい

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「髪を切ってください」
「おっ、ばっさり行っちゃう!」
泣きそうなお客さんに、ここまで言えるのが蘆根の強みとはいえる。
「えっ?はっ?」
ほら、戸惑ってる。
「ええ、はい、それならばお願い、すればいいのかな」
混乱しちゃったよ。
「どうしたの?」
「色々あって」
「色々って?」
「色々は‥色々です」
「そっか」
「で?今日はどうする」
「気分を変えたいです」
「じゃあ、どうしようか」
そういって髪にブラシをかけていく。
「男の人って、可愛い子好きなんですかね」
「人による」
「そっか、そういう人だったのかな」
「俺なんてどう?」
「ええ、よく知らないし」
おおなんかすごい、キャキャ言わせてる。
「すごい」
「あれが蘆根のすごいところだな」
そしてここも浜薔薇にお客さんが来たくなるポイントである。
「えっ、だって蘆根さんは髪を切ってもらうとすごい気分がよくなるんですよ」
そういうのは波里だ。
「最初は付き合いかなって思ってました、一回ぐらいかなって」
「人見知りが珍しいよな」
「そうですね、こっちに赴任してから、お店が決まってませんでしたからね」
東司も蘆根に髪を切ってもらってる。


『ここは浜薔薇の耳掃除です』


「それでは耳掃除を始めさせていただきます」
タモツは耳掃除をする際は一礼して、耳掃除を始める。
ここで耳かきのファンはおお!と思うのだ。
なんという紳士。
シュル
やはりタモツの手には、竹の耳かきがよく似合う。
がさっ
浅いところから大きな垢がおちてくる。
「結構汚いですか?」
「お疲れなんでしょう、こういうときはリラックス、リラックス」
人に耳の中を見られるというのは、抵抗ある人は抵抗あるもので、自分では耳かきはする、耳かきは好きであるが、気になると見られたらどうしようの狭間で安心させるのも、技術である。
ここで。
「ビックリするほど汚いですよ」
なんて言おうもんなら‥浜薔薇の客層なら喜ぶ人たちいるわ、大勢!
「そう?汚かった?ちょっとしっかり掃除してもらおうと思って、我慢してたんだけども」
こういう人たちに、モリモリですよ。なんて言ったら、モリモリ!最高じゃない?なんて気分がよくなることだろう。
奥に色が変わっているものが見える、それを狙って、すくいあげるときの気持ち良さといったら。
(はう!)
顎が上がってしまうぐらいである。
なんか入っているっぽいな、入っているぽいんだけどもの焦らしの後に、ガサリ!
もちろん乗るのは大物、こんな大物出てきちゃっていいんですか?知りませんよ、知りませんよ?これが癖になっちゃって、週に一回は浜薔薇に来ないと、生きてる気がしないになっても!
あっ、いるはそんなお客さんたち。
浜薔薇に通いやすい距離に住んでいる人たちはわりと気軽に、やって来ては髪よりもシェービングや耳かきを頼む。
遠方に住んでいる人に至っては発作的である。
あ~明日は必ず浜薔薇に行かないと、死ぬ!ぐらいの気持ちで決めていたスケジュールみんな投げ出して来る人もいた。
「仕事さ、もう限界なんだよ、なんで仕事増えているんだよ」
そんな強制的な気分転換には浜薔薇が一番らしい。
「浜薔薇はいいぞ、だって癒しの塊じゃん」
この方は前の季節からずっと仕事に追われている。
「もういつの間にか暑い!」
そういうぐらいだからよっぽどだ。
「また忙しくなっているんですか?」
「なってるよ、蘆根さん、だから潰れる前に来ちゃった」
揉んでおくれよ、揉んでおくれよ、明日からまたきちんと働くから俺の肩や腰を揉んでおくれ!
(重症だな、こりゃあ)
「う~ん、確かに貼りがありますね」
「だって疲れているもん」
「ですね、リラックスも出来てない、お風呂は?」
「シャワーだけ」
「じゃあ、後でベストフレンドの湯の入浴券出しますから、よっていってください」
「あそこさ、牛乳美味しいよね」
「美味しい産地を季節ごとに選んでいるんですよ、今だと近所の珈琲や紅茶好きの人が、牛乳だけ買い求めに来ることも多いみたいですよ」
出張所の二人も牛乳はベストフレンドの湯で買っています。
「あっ、そういう買い方もありなのか、クーラーボックスとか持ってくれば良かったな」
「最近は暑いですからね」
「そうなんだよ、家には帰ってはいるんだけども、ご飯食べて寝て、洗濯して、部屋干しして、仕事いってみたいな、本当、仕事いつ終わるんだろうな、もうそろそろって思っても、大分経過しているような気がする」
こういうときは数えてはいけない。
「嶋原さんのおかげで助かっている人もいると思うんですよね」
「だといいな、これで役立たずとか言われたら、やっぱりイヤかも」
「そんなことないでしょ」
「いや、なんでやっているのかわからなくなるぐらいなんだや、だから浜薔薇に来たの、蘆根さんは迷うことない?」
「う~ん、迷うということは未熟なんで仕方がないかなって」
「蘆根さんらしいわ」
「でも同僚なら嫌でしょ?」
「かもな、あっ、かもなっていっちゃったよ」
「はっはっはっ」
自虐もいれつつ笑いをとるこのコードな話術を披露したそんな日の終わりには。
ポフ!
なんでかイツモが何時もより優しい。
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