浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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カメラ目線、やはりプロ!

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浜薔薇の周囲というのは平穏そのものであって、どれぐらい平穏かというと、東司さんが趣味の茶器を広げれるぐらいなのです。
「蘆根さんお聞きしたいんですけども、お茶、このイベントは私でも行けますかね?」
なんでもこの地域の茶道の流派が公民館で日替わりでお茶を出す。
「気軽に参加して来たらいいんじゃないですかね」
東司の趣味が紅茶だけではなくお茶全般になりそうであった。
「じゃあ、一回やりましょうよ、浜薔薇で!」
主婦の方が言い出したら。
「それはいいですね」
そこに東司はのった。
「気楽な野点ってやつね」
「NODATE」
波里かやすると、東司のお茶というのは、戦国武将がお茶を趣味にするのと同じようなものなのではないかと思っている。
現代の戦闘職である東司燭、彼が同僚になる前にKCJの他の支部で印象的だったことがある。
詳しい中身は説明しようにも、守秘義務が発生しているために言えないが、その緊急事態は後に、修羅場の手当て、危険手当て、長期休養を言い渡されるようなとんでもない状態であり、あの時支部はバタバタしていたなか、一人だけそこで茶を用意して、それをゴクリと飲んでから、スタスタと現場に向かったその姿を見たとき、あれはただ者ではないと、波里もそうだが、そこにいた人たちはみんな思ったという。
町内会の人で、お茶を習っていた人や他に免状をお持ちの方にも聞いたところ。
「じゃあ、野点る?」
とそのまま話はサクサクと進み。
駐車場に風流な場所が現れたのである。
ぴょん
そこに猫が腹を出して寝ることがあっても、それはそれでいいので。
「むしろ、撮影のチャンス」
波里と傑は広報用の写真を撮影しにいった。
赤い布、いわゆる緋毛氈(ひもうせん)というのだが、猫毛ついちゃったよ。
「この子はこの辺の子ですか?」
「あっ、たまにイツモと一緒にいるからこの辺の子です」
この辺の子じゃない場合はイツモと一緒にいることはない。
「赤い傘と緋毛氈の間に、サバトラ、この子はプロですね、写真というものを」
「あっこっち見た」
「カメラ目線、やはりプロ!」
そしてお茶にはお菓子もつきものだが。
「まだ生きてたのか」
「そりゃあこっちの台詞よ」
タモツと同年齢の元職人である。店はとっくの昔にやめていましたが、野点のためにやってくれないかの話はこちらにまず行きました。
しかし…
「もう俺はやめたんだ!」
と断ったのですが、そこにお孫さんがどうしたの?と来ました。
「じいちゃんのお菓子食べてみたいな」
お店が無くなってから生れたお孫さんなので、今まで一度も食べたことはなかったものですから、その何気なく言ったことに。
「そうだな、考えてみるか」
久しぶりに菓子を作ることになりました。
「…えっ?和菓子」
それは季節の花を模したもので。
「それは見せるだけだ、ちょっと手遊びみたいなもんよ」
出されるお菓子は木型から抜いたものですが。
「木型からお菓子を抜くって難しいんじゃ?」
蘆根の持っている知識総動員。
パコ!パコ!
お菓子が割れずにリズミカルに抜いていく。
「まだ現役やれるんじゃ」
「いやいや無理だな、昔と同じようには行かねえもんだ」
この時蘆根が思ったこと、自分が分裂して、こういう職人芸を継げないものかと思ったという。
「あっ、着物だ」
東司が着物で現れる。
「燭ちゃんは背が高いから、合うものなかなか見つからなくて、あっ、波里さんも着ます?」
「すいません、さすがにこれで職場から連絡来たときにスーツじゃないと」
「ああそうね、でも着たくなったらいつでも言ってね」
「そうします」

野点終了後、スーツに着替えた東司。
「楽しかった?」
「楽しかった、本当さ、平穏ってありがたいと」
「そりゃあそうさ」
東司はどうかはわからないが、波里は能力の相性から出来れば浜薔薇出張所にずっといたかった。
(オンとオフがはっきりしているのがありがたいんだよね)
常時警戒状態ではない、これが本当に大きかった。
ここに波里が居続けるとしたら、今の食料支援や防犯などのコストパフォーマンスをもうちょっとあげることが必要かなと、そういうのは漠然に考えていた。
波里は身体能力、サバイバルスキルというのは後付けで取得したぐらいなので、波風が立つ前に動くか、関わるか、撤退を決めなければならない。
少なくともこの状態は自分からの撤退の理由はない。
「東司が異動したいっていうなら、私は私で構いませんから」
「なんだよ、いきなり…」
妙な間である。
ため息を一つ東司がついた後に。
「確かに戦闘には抵抗がないけども、ずっと戦いっぱなしというほど、好きというわけではないんだがな」
身近な人間にそう見られていたかのため息だったようだ。
「俺は考えるのがあまり得意ではないが、少なくとも波里と提案はいつも悪くはないと思っている」
「私も支部からリスク計算してもらわなかったら、何をすればいいかわからない人間ですよ」
「でもまあ、いきなり喧嘩を売るって訳ではないからな、そういう人間なら組むのは嫌だ、知らないところで恨みをかっているからな、長生きできないよ」
「そうですね、八方美人じゃないですけども、基本的にはみなと仲良くやりたいですから」
「お前さんはそれでいいさ、それでも変なのがいた場合は俺ら戦闘職がなんとかするぐらいで」
「ええ、そんなこといったら、ずっとそういうことさせちゃいますよ」
「今の職場と環境は気に入っているからな、永遠じゃないにしろ、できるだけ長くいたいって感じだな」
「じゃあ、何かあったらよろしくお願いしますよ」
「むしろ頼らない方が嫌なんだけども」
「そうですか?」
「そうだよ」
波里は出来るだけ負担が少ない方法を選ぶ、だからこそ戦闘職によっては、自分が信用されてないような気がして不安になるという。
いやはや、人間というのは気を使ってもなかなか上手くはいかないものである。
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