浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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時間が止まってくれないかな

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「最近、お仕事どうですか?」
浜薔薇のお客さんとしては結構長い歴を持つ、そんな人がカーテンの奥では着替えていて、蘆根は話しかけた。
「忙しいから、無理に休んでここに来たんだよね」
声の調子からも疲れが見える。
ベットに座った状態で、クリームを塗られていくが。
「…思ったよりも疲れていたわ」
「そうですか?」
「クリーム塗られただけで気持ちいいって、相当だよね」
「ああ、それは、かなりですね」
「結構気をつけて、限界が来る前には何とかしてたと思っても、ダメだったか」
「でも浜薔薇に来てからわかったんだったら、いいじゃないですか」
「なんだけどもね、ほら、自分じゃ見えてないのが困るから、目安を自分の感覚にしないって大事でさ」
「今回の目安は?」
「だんだんこうなって、自力じゃ動けなくなったり、ぼぉっとしたりするだろうから、その前の段階で切り上げたつもりでも、そこからまたなんかあったからな」
左足にクリームを塗られていく。
「筋肉も結構落ちているんじゃないですか?」
「ああ、そうなんだ、ちょっと軽く筋トレしたら、疲れて、…これか、無理してたか」
「そうですね、いつもの習慣ができなくなってきたら、切り替えたり、助けを求めたり」
「助けを求めれる人がいればいいんだけども、今日のこれでゆっくり時間とれるから、探そうかな」
「それもいいと思いますよ」
「あぁ」
頭の中がいっぱいだ。
予算と時間には限りがあって、その中で結果出していかないと、部署が解散とか、下手すりゃ赤字出して会社がとか、本当に嫌なことばかりが頭に浮かんでくるな。
「時間止まってくれないかな」
「重症ですね」
そしたらしばらくずっと蘆根さんのマッサージを受けて、気持ちいいを味わい続けられるのにな。
「マッサージ、お任せにしますか?」
「あれ?そんなにいつもと違う?」
「そうですね、気にはなりますが、まあ、俺の悪い癖ですからね」
「それならお願いするよ、蘆根さんの見立ては間違えたことないじゃん」
「そういわれると、本気出せます」
「あんまり痛くしたいでくれれば、ちょっとさ、リラックスしたい」
「わかりました」
適度な刺激、強さというのがマッサージでは大事である、そこのりも負担が少ないとどうしても回復の時間が長くなったりする。
「お湯です」
「ありがとう」
老廃物を流すためにお湯を飲む。
水でももちろんいいのだが、体温が低めの冷え性というやつなので、お湯がいいそうだ。
座りながら仕事もしているので、足もあまりよろしくない。
「歩いても、筋肉のバランスが大事なので」
そういって蘆根はツボを刺激する。
でもあくまで前の段階、準備というやつだ。
「股関節も固くなってますね」
「筋トレというか、自分の体と向き合う時間ほしいかもしれない」
仕事の生産性をあげれば行けるのかな?
「ということは最近ご自分ではマッサージはしてない」
「出来てないや、乾燥肌だから、前に蘆根さんが教えてくれたもち肌生活のクリーム塗ってたんだけどもさ」
塗って刷り込むように使うタイプのものなんで、それが自然とマッサージになる。
「言われるまで自分が乾燥肌だって気づかなくてさ」
そんなもなんだろうなって思っていたら、たまたまだ、たまたま、あ~疲れたな、マッサージか、マッサージいいな、この値段なら試してもいいなという形で浜薔薇の店内に入ったところ。
(当たりだ)
店内に入り、お客さん達が満足している姿を見たら、この店は間違いないと思ったのである。
そして自分の番が来る。
そこから疲れたら浜薔薇に任せようが始まった。
「昔から人には頼るな、全部自分でやれとか言われていたけども、もう蘆根さんのマッサージ知ったらダメだわ、もうね、任せれる人に任せるよ、もちろんある程度は自分でやるけどもね」
リラックスしてきているせいか、自然と言いたいことを口にしだす。
「資格もって、経験者じゃないと現場は勤まらないけども、でもさ、もっと負担を軽くする方法ないと、やっぱりダメだと思うんだよね、蘆根さんって何か工夫してる?」
「俺ですか?そうですね、マッサージも、日々進化というか、ポイントは抑えるようにはしてますね」
「へぇ~」
「時間がない人もいるじゃないですか、そういうお客さんをどうするかって思ってて」
「えっ?そうなの?浜薔薇って時間作ってだらだら楽しむもんじゃないの?」
「そういうお客さんも多いですけども、急ぎのごめん、行ける!とかのお客さんもいますし」
そういう緊急の場合は他のお客さん達が、急がないからこの人やってあげてという話になることが多い。
「葬式とかもそうですし、家族が倒れたから、身なり!って感じですね」
そのまま自分のことが出来ない時間が始まるので、先に髪などは切っておくというやつである。
「まあ、そういう人にもちょこっとでも癒しをって感じなので」
「気持ち焦るしか…」
「そうですね、だから浜薔薇の他のお客さんも、家族にそういうことがあったりした場合は、しばらく忙しくなるからって、浜薔薇で髪とか、マッサージしてから向かうって感じにはなってますね」
これをワンクッション入れるといいことはいろいろある。
「なんか実家戻ったら揉めそうで」
「兄ちゃん、それなら、あそこ行くといいぞ」お客さんが困ったときはあそこ行けなど、アドバイスしてくれたりするのだが。
「あのアドバイスがなかったら、泣かされていたかと思うと…」
そこで葬式トラブルなどのマニュアルを渡され、実家に戻るまでそれを読んでいた、ほぼ全パターンのトラブルに対してのフローチャートがあり。
「世の中何も知らないととんでもないことをやらかす人たちっているんだなと」
これで予習をしていたので、各種行政などに連絡して、あっけなくトラブルは終わる。
「というか、なんなんですか、浜薔薇の人脈というかなんというか」
「ああ、基本的にこの辺の人たちは商売人多いから、自衛手段みたいな感じでマニュアル作るの好きなんだよ」
それが一番金かからんという理由で、そういったものを編纂してきた、商人の町らしい金の使い方を地域でしていた。
「自分からトラブル起こさない限り、真面目にやっている限りは世話焼く感じだな」
そこらへんが店を守るということにも繋がるためである。
「えっ?なんでそれで寂れるんですか?」
「ああ、それな」
真面目にやるという人たちが出るが、楽したいに負けてしまう人たちもいる。
確かにだ、楽をしたいその気持ちもわかるのだが。
「ちまちまして面倒くさいっていって本業やめてしまったってタイプが多いのかな」
不労所得方面に移行したらしい。
「そしたらこの辺民家ばっかりになったから、人通りも少なくなったって感じで」
そこから慌てたけども、もうそれぞれの本業が時代に合わなくなったり、下積みのやり方失われていたりと、復活できない状態になってしまった。
「まあ、景気も良かった時代にそうしたせいもあるから、さて、今からもう一回っていってもな、まず人がいねえだろ?」
タモツはそういうのに興味がなかったので、そのまま来てしまい、蘆根にバトンを渡せたのである。
「蘆根は変わり者だ、弟子入り志願してきっちり覚えますっていうタイプは、今の時代いねえから」
だからそうやって仕事を覚えてきた人たちからすれば、蘆根は可愛くてしょうがない、カレー食べる?大盛りでいいのよと言われるような状態も頷ける。
「まっ、逆にそういう下積みとか毛嫌いしているような奴からすれば、蘆根が何しても面白くねえわけだ」
あいつまたいい人ぶってんだぜ。
「そこは相容れないだろうな」
これから何もねえといいがまではタモツは口にしなかった。
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