浜薔薇の耳掃除

Toki Jijyaku 時 自若

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20話 悪魔が作った耳かき

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「それでは失礼します」
「じゃあ、お願い、後でその耳かき貰って帰るから」
傑が言った通り、使った耳かきを差し上げますと書いたところ。
「そうなんですか?では是非に!」
などお待ち帰りになるお客さんが多かった。
そしてある時。
「それでさ、この店に来られない遠方の友達にお土産としてほしいんだよね」
別に一本欲しいといわれると。
(集合!)
ヒソヒソ
(もう一本って言われたんだけども)
(今まで欲しがっていた人っていうのはいたんですが?)
(いたはずだが)
そういう人もいた、それぐらい前の話である。
(傑、どうすればいい?)
(…そうですね)
生産本数から、千円(箱つき)かなと傑は割り出した。
(それで買うのかな?)
(何をいっているんですか、言ってたじゃないですか!)
この耳かきは初代のタモツが職人に注文し、今の形になるためには改良に改良を重ねた
「そうだな、やっぱり十年ぐらいはかかっているんじゃねえか?」
という話は前に聞いていた。
「それに蘆根先輩だって、これじゃないと耳垢のくり抜き(ドーナッツホール状)は上手くいかないなって」
「そうなんだよな、他のやつでも出来なくはないが、決まるのはやっぱりこれじゃなくちゃ」
待合の椅子に耳かき好きが並んで座っているとき、蘆根が耳かきのくり抜きをやると冷静を装うっているが、そわそわしだすのを傑は知っている。
(さすがは蘆根さんやで)
(見事なくり抜き、写真撮影したい)
(みんな網膜に焼き付けるんだ)
耳掃除のS席のお客さん達は今日も熱狂的な物を心に秘めて盛り上がっています。

ピンポン!
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「それでさ、この間買ったじゃん、耳かき」
「ああ、どうでしたか?」
耳かきは好きだが、遠方のため、まだ浜薔薇に行ったことがない相手に届けられました。
「これが例の…」
ギフトボックスに入れられて、高級感漂う。
これは普通に開封してはいけない!
普通に開封したら失礼に当たる!
そういって彼はまずシャワーを浴び身を清め、全ての服を新しいものに変えた。
「さて…」
そういって箱の前に。
するりとタイを解き、ドキドキしながら蓋をあけると、すす竹の耳かきが一本入っていた。
「確かにこれはさじの部分があんまり見ない形だね」
よくある薄いタイプではない。
ただ薄いタイプの耳かきを初めて経験したときの気持ちを思い出した。
そんなに気持ちがいいものなのか?
少しばかりそんな気持ちで、耳かきをした時、これは戻れないと思ったものだ。
果たして、これはそれを上書きするか、新しい思い出を作ってくれるものなんだろうか。
「いざ!」
そういって彼は耳掃除を始める。
「ん~」
ガサゴソガソゴソと耳の中を掘り進んでみるが。
「ん?」
なんだろう、よくわからない。
もう一度ガサゴソガソゴソとやってみる。
「ん~」
そしてわかった。
「耳の中が見えなくても、他の耳かきよりわかるのか、これ」
カメラ付きの耳かきがそれこそ、目がついているように。
この耳かきは自分の感覚の延長にあるのだ。
「感触と音が、独特なのか、これ」
わ~い、楽しいとつい耳かきを堪能していると。
「おおっう!」
なんだろうか、今のは。
脳髄に響く何かが起きた。
ピリピリと来るような、いやいやまさか、そんなまさか。
ともう一度その辺りをごそごそすると。
「おおっう!」
気のせいではなかった。
「この耳かき、悪魔が作ったのかよ!よく、あいつ耳掃除に行っているっては聞いていたけども、これは人類が使っていい代物じゃないな」
おおっと、危ない、危ない魔の手に引っ掛かるところだったぜ。
けどもな、耳かきは好きだが、その手には引っ掛からなんだからね!
チラッ
しかしさ、耳かきには罪はないわけじゃない?じゃあ、せめてこいつだけは全うして使わなきゃダメじゃないか!
俺の耳かき新生活が始まった。
週に二回ぐらいの耳かきが、薔薇色になる。
何しろこんなに、もう人には見せれないぐらいエグいのが取れたりするわけですよ!

その耳かきを送った相手から…
>あのさ、メッセージ読んだ?あの件で返事ほしいんだけども。
と来たが、返信がまったく帰ってこなかった。
体でも悪くしたんだろうか?と気になっていたが、しばらくしてから返事が来た。
>悪い、返事出せなくて
>入院でもしてたの?
>交通事故に巻き込まれて。
>ああ、それは、それで無事だったの?
>それがな、免許取り立ての女子の運転に巻き込まれて、俺は、俺は無事だったんだよ!
>ご家族か誰かがお怪我でも?
>前にもらった耳かきが、首の辺りからメキッて折れたの。
>はっ? 
本人は無事、それでも地面に倒れたので、持ち物などに破損がないか調べたとき。
愛用の耳かきが、ケースから飛び出て、その時細い部分からメキッ、その姿を見たとき。
彼は…
「大丈夫ですか?」
穏便に事を納めようとする、運転手達に腹が立ったのだという。
(絶対許さない)

(まさかあいつがそこまであの耳かきにドはまりしていたとは…)
新しいのを贈ろうか?と言ったら、今はそんな気になれないんだ。
耳かきとの思い出を反芻して今を生きている彼を。
>そのうち蘆根さんを差し向けてくれるわ!じゃあ、元気になったらまた連絡くれ。
と話を終わらせようとしたら。
>なんだと!金ならあるから呼んでいいなら呼ぶかんな、こんちくしょ!
軽口で返されたので。
「なんだ、元気じゃんよ」
モニター見ながら、つい笑いってしまった。

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