Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?

Episode 20

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--イベントフィールド 【決闘者の廃都】 商店街エリア
■【食人鬼A】CNVL

こちらへと迫ってくる光弾を避けながら、私はツバメへと近づいていく。
【ゲイシー】のスキルである【マルチプルラメント】。恐らくは今もツバメの近くから私へと向かって光弾を撃ってきているような人型のモブを召喚するスキル……だろうか。
それがこちらへと一定間隔で光弾を撃ってきているために、近づこうにもタイミングが掴めずに攻めあぐねているのが現状だった。
今もある程度までは近づけたものの、光弾によって進行方向を潰され泣く泣く再度距離をとっている。

たまに何とか近づけそうなタイミングもあるのだが、ツバメの持つ長槍によって牽制されてしまい、結局のところ近づけない。
私がそんな状況だからといって、対戦相手の彼がこちらへ長槍が届く範囲まで近づけるかというとそうでもない。

近づこうとすれば自身の現在出しているハンリー……遠距離攻撃特化型なのだろう。
それを消し、近距離戦向きのモノに変えなければならない。
しかしそれを消せば、私の行動を制限しているものもなくなって、攻撃するチャンス自体も減ってしまう。

まだ彼には見せてはいないものの、【解体丸】というマグロ包丁もあるのだ。
それに私はまだスキルを使っていない。
彼も同じだろう。見える範囲で使われたスキルは【マルチプルラメント】のみ。自己強化を行っているようには見えず、もし使っていてこれならば面白くない。
……よし、長引かせてもアレだし動かしていこう。

こちらに飛んでくる光弾を避けながら、私は空いている左手にソルジャーゾンビの腕をインベントリ内から取り出した。
突然虚空から何かの腕を取り出した私に驚いたのか、目を見開くツバメを放置し、私はそれを喰らう。更に目を見開いているが、それは隙だらけにも程がある。

瞬間、私の身体からは青と赤黒いオーラが溢れ出し。
それに呼応するように空中から剣が出現した。
それを再び空いた左手で受け取ると同時、力強く地面を蹴った。

「あははっ!」
「嘘だろう!?」

先程までとは比べ物にならない速度で光弾の間を駆け抜ける私に恐怖心を抱いたのか。
彼は手に持つ長槍を横に払うように振るうが、【菜切・偽】によって逸らすように防ぎながら私は更に近づいていく。
途中ハンリーが光弾を連射してきたため何発か当たってしまったものの、そこまで多いダメージ量ではなく。これくらいならば私の戦闘スタイルならば取り戻せると無理を押して相手の懐へと潜り込む。

一瞬、再度目が合うが、彼の瞳は恐怖に染まっているように見えた。

「いただきますッ!」

そのままの勢いで、私は【菜切・偽】をツバメの横腹へと切りつけるように振るいながら。
彼の左腕へと噛みつき、その肉を歯で引き千々る。
むせ返るような血の匂いが口内に広がるが、関係ないと嚥下すれば先程受けていたダメージが回復していくのが目の端で見えた。
次は左手に持つ剣で、と攻撃を加えようとした瞬間。ツバメが無理やり後ろへと跳び再び距離を取られてしまった。

「精神的にアレなタイプか!【マルチプルラメント-ディフェンシブ】!」
「おや、今度は名前的に防御系かい?手数多いねぇ……」

にやにやと、口の端から垂れてきていた血を手で拭いながら彼の方を見る。
先程まで彼の近くにいた半透明の人型モブは消えており、代わりに彼の身体から青色のオーラのような何かが立ち昇っていた。
恐らく防御に適したハンリーを呼び出したのだろう。よくよく見てみれば、そのオーラが人型をしているのが分かった。

……ここまで出てきたのは遠距離系の攻撃型と、自身を覆うタイプの防御型か。ふむ。
私のように近づかなければ攻撃ができないタイプのプレイヤーにとって、身体に密着するように存在する防具は相性が悪いといっても過言ではない。
というのも、投げ物……マギの使うような薬品や、貫通力のあるメアリーのボルトなどのようなものがない場合、いつかのナイトゾンビのように地道に叩くしかなくなるからだ。

ただ、そんなことになった時はその時対策を考えればいいと。
そう思いながら再度足に力を入れて飛び出した。

再度同じような流れが起こりそうになるものの、今度は長槍を逸らすことはせずにその場にしゃがみ込むようにしてそれを避けた。
それによって腕の伸びきった状態を晒した彼を見ながら、私は彼に見えるように大きく口を歪ませた。
狙うは、長槍を持つ方の右腕。

上へ打ち払うように右腕へと向かって剣を振るえば、彼の纏うオーラへと剣がぶつかり甲高い音を立てる。
しかしながら、手応えはその音のように固いものではなく、何か粘力の強い液体へと沈み込んでいっているようなそんな感触。
……勢いを殺すタイプか、面倒だね。

単純な硬度ではなく、相手の攻撃の勢いを殺し、ダメージを無くすタイプの防御。
対策自体はもちろんあるものの。

「こういうのはごり押していきたいよ、ねッ!」
「ぐっ!?」

実際に攻略するならば、力押しの方が単純かつ最適だ。
少なくとも私のような所謂脳筋プレイヤーにとっては、だが。

押し上げるように下から上へと力を入れ。
ツバメはそれに抗うように下へ押し戻すように腕に力を入れる。
彼は気付いていないのだろうか。いやもしかしたら気が付いていても、この状態になったために仕方なく抗うように力を込めているのかもしれない。

どちらにしても都合が良いと、頰が緩むのを感じながら。
最近ハマっている【祖の身を我に】の自己解除を行った。

瞬間、今まで左手で使っていた剣は光となって消えていき。
下へと力を入れていたツバメの腕は勢い良く下へと振り下ろされる。

苦しそうな顔をしながら私を見ている事から、やはりこうなる事は予想出来ていたのだろう。
前のめりに倒れていく彼の身体を、私は笑顔で右手に持つ出刃包丁で迎える事にした。

先程と同じ様な、ゆっくりと沈んでいく様な感触の中。
フッと、突然抵抗が無くなり彼の身体へずぶりと刃が沈んでいく。
見れば彼の纏っていた青いオーラが消えている。
……ダメージ量で解けちゃう系のスキルだったのかな。

それを捻るようにぐちゃぐちゃと掻き回してやると、すぐにHPがなくなったのかそのままツバメは光となって消えていった。
時間がかかった割に、あっけない最期だったなと一瞬だけ頭に過ってしまった。

--System Message 『CNVL選手の勝利です。転移しますので今暫くその場でお待ちください』
「うーん、何だかんだで消化不良というか。……いや、私風に言うなら食べ足りないが正解かな」

システムメッセージを流し読みつつ、そう呟いた。
次の試合からはもっと敵が手強くなるのだろう。それが少しだけ楽しみだった。
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