48 / 192
第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?
Episode 19
しおりを挟む--イベントフィールド 【決闘者の廃都】
■【食人鬼A】CNVL
試合の流れを見ているだけでも学ぶことは多くある。
馴染みのある【リッパー】や【ゲイン】などの戦いや、ほぼ見たことのない【ラミレス】や【ゲイシー】らしきプレイヤーの戦い方。
実際に対峙した際にはまた変わるだろうが、自分のやってこなかった戦闘スタイルを見れるだけでもかなりの収穫だ。
その中でもやはり目を惹くのは【ゲイシー】のプレイヤーだろうか。
「確か元ネタのジョン・ゲイシーは多重人格者とか言われてたっけ」
ハンリーと呼ばれる人格……ゲーム的に言えば固有バフだろうか。
それらを場面に合わせて切り替え、状況に対応していく姿は対面した時中々に面倒臭そうに感じるものだった。
今も【ゲイシー】のプレイヤーの近くにいる半透明な人型の何かが、遠距離から固定砲台のように相手プレイヤーを攻撃し続けている。
「うーん……近付いたらまた変わりそうだけど……それにも対応されるんだろうしなぁ。難しい」
そう言ってる間に相手側が削り切られ試合が終了する。
今観ていた試合が残っていた最後の試合だったのか、巨大な観戦ウィンドウが一度電源を切るようにプツンと消え、再びグリンゴッツが虚空から出現した。
『さて、続いて残っている君達の試合がこれから始まるわけだが……1つ他のグループから質問が来たため、答えを共有しておこう』
ゴホン、と尤もらしい咳払いをした後に彼?は話す。
『まず、敗者復活があるか否か。これに関してはルールに特に明記していなかった通りなかったのだが……今、運営のトップからゴーサインが出たため、敗者復活戦を後程行う事にする。そちらの方のルールに関してはまたこういった形で連絡するので、今はこのグループごとの試合に集中してくれると幸いだ』
……あぁ、あるんだ。敗者復活。
正直意識してすらなかったルールだ。
負ける気がしない、というわけではないが……それでも、敗者となった以上。
また這い上がって試合に挑んだとしても勝てるとは限らない。そもそも、一度負けている相手と再び戦う事になる可能性だってないわけじゃあない。
それこそ、劇的な変化がない限りは勝ち目がないといっても過言ではないのだ。
まだプレイを初めて少ない時間しか経っていないものの、私は対人コンテンツに関してはそう考えている。
どこまで行っても、このVRという没入型のゲームでは本人の素質というのも関わってくる。
それによって、どこまでいけるか決まってしまう。
戦術を考える頭や、それを実行する運動能力など……個人ごとの能力、素質によって変わってくるものが勝敗に最も関係しているのだ。
その差を埋めるためにスキルや装備といったものがあるのだろうが、それだって今のサービスが始まって間もない期間ではあまり他と大差ないようなもの。
そう、私は考えていた。
『では、もう一つ。優勝賞品があるのかどうかという話だ。……実を言えば、これに関して言えば運営のトップが今も頭を捻らせていてな。曰く、「賞品をあげるのは良いけどこっち側から一方的にアイテム渡すだけってのも味気ないよねぇ……」とのこと。恐らくはリストアップされたアイテムの中から欲しいものを選ばせる形式になるとは思うが、現状はまだ決まっていないという事にしておいてくれ』
彼?は嘆息した後にこう続ける。
『はぁ……何分、今回のイベントの本命はフィールドの方の限定モブでな。こちらは言ってしまえば、開発陣の息抜きで作っていたフィールドを見たトップが突然入れた余興なんだ。色々と準備が間に合っていないことを、責任者に変わってここに謝罪しよう。申し訳ない』
マスコットのような見た目のモノが頭をぺこりと下げて謝っている姿は、少しだけシュールだった。
まぁハロウには申し訳ないが、正直な話そんなものだろうとは思っていたのだ。
……だってハロウィン系のイベントなのに決闘とか全く絡んでないしね。
『失礼、脱線したな。まぁそういうわけなので、優勝賞品に関して言うならばある程度期待してもらっても構わない。というか、今私がこうして話していることは運営トップも知っている……というか、リアルタイムで聞いているため割と予想してなかったものが配られるかもしれないな。……さてさて。ではこれ以上待たせても悪いから、次の試合に行こう』
そう言って、グリンゴッツは何かしらのウィンドウを表示させた後にそのぬいぐるみのような手を使い、器用にそれを操作していく。
そしてターンと、よく漫画などであるエンターキーを勢いよく押すような動作をしたかと思えば。
瞬間、私の視界が再び歪んでいった。
私の試合が始まるのだろう。
少しだけ頬を緩むのを感じながら、私はまだ見ぬ対戦相手の事を考え始めていた。
視界が暗転する。
--イベントフィールド 【決闘者の廃都】 商店街エリア
視界の隅にそんな文字が浮かんだかと思えば、世界に色が付き始める。
周りはほぼほぼ最初に転移させられた所と変わらないが、強いていうならばどこか昔ながらの雰囲気が漂っているような、そんな場所だった。
シャッターの降りている店もあれば、降りておらず、しかしながら廃墟と化している店もある。
そんな終わりだけしかない商店街に、私以外にもう一人。
こちらへと近づいてきているプレイヤーがいた。
何故か上だけ白いシャツを、それ以外は囚人服の眼鏡をかけた男性プレイヤー。
十中八九、私の対戦相手だろう。
「……君が私の対戦相手かな?」
「あぁ、よろしく頼む……っと言っても今はまだインターバルだがな」
「まぁ30秒だけだしすぐさ。名前は?」
「ツバメ。そっちは?」
「CNVLさ。短い間だけどよろしくねツバメくん」
そんな風に挨拶をした後に、お互い自らの得物を取り出すために後ろへと下がる。
私達の間に10から始まるカウントダウンが表示された。
私は【菜切・偽】を。
彼は長槍を構え、それぞれへと視線を向ける。
そしてカウントが0になった瞬間、私は地面を勢いよく蹴り距離を詰めるために走り出した。
彼はと言えば。
「【マルチプルラメント-アグレッシブ】」
静かに、歌うようにそう言った。
瞬間、ツバメの近くに半透明の人型の何かが出現する。
それを見た瞬間、自分でも分かるほどに顔を歪めてしまった。
先程まで見ていた試合でも使われていたスキル。
それを使う【犯罪者】は一つしかないだろう。
「【ゲイシー】かぁ面倒臭いなぁ!もう!」
「分かりやすすぎるというのも難点だな。だが、分かっていたとしても近づくには勇気がいるぞ?さぁハンリー、行こうか」
私の第一試合が始まった。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
Free Emblem On-line
ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。
VRMMO『Free Emblem Online』
通称『F.E.O』
自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。
ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。
そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。
なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。
Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷
くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。
怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。
最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。
その要因は手に持つ箱。
ゲーム、Anotherfantasia
体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。
「このゲームがなんぼのもんよ!!!」
怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。
「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」
ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。
それは、翠の想像を上回った。
「これが………ゲーム………?」
現実離れした世界観。
でも、確かに感じるのは現実だった。
初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。
楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。
【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】
翠は、柔らかく笑うのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
CombatWorldOnline~落ちこぼれ空手青年のアオハルがここに~
ゆる弥
SF
ある空手少年は周りに期待されながらもなかなか試合に勝てない日々が続いていた。
そんな時に親友から進められフルダイブ型のVRMMOゲームに誘われる。
そのゲームを通して知り合ったお爺さんから指導を受けるようになり、現実での成績も向上していく成り上がりストーリー!
これはある空手少年の成長していく青春の一ページ。
ワイルド・ソルジャー
アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。
世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。
主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。
旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。
ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。
世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。
他の小説サイトにも投稿しています。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる