Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?

Episode 19

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--イベントフィールド 【決闘者の廃都】
■【食人鬼A】CNVL

試合の流れを見ているだけでも学ぶことは多くある。
馴染みのある【リッパー】や【ゲイン】などの戦いや、ほぼ見たことのない【ラミレス】や【ゲイシー】らしきプレイヤーの戦い方。
実際に対峙した際にはまた変わるだろうが、自分のやってこなかった戦闘スタイルを見れるだけでもかなりの収穫だ。

その中でもやはり目を惹くのは【ゲイシー】のプレイヤーだろうか。

「確か元ネタのジョン・ゲイシーは多重人格者とか言われてたっけ」

ハンリーと呼ばれる人格……ゲーム的に言えば固有バフだろうか。
それらを場面に合わせて切り替え、状況に対応していく姿は対面した時中々に面倒臭そうに感じるものだった。

今も【ゲイシー】のプレイヤーの近くにいる半透明な人型の何かが、遠距離から固定砲台のように相手プレイヤーを攻撃し続けている。

「うーん……近付いたらまた変わりそうだけど……それにも対応されるんだろうしなぁ。難しい」

そう言ってる間に相手側が削り切られ試合が終了する。
今観ていた試合が残っていた最後の試合だったのか、巨大な観戦ウィンドウが一度電源を切るようにプツンと消え、再びグリンゴッツが虚空から出現した。

『さて、続いて残っている君達の試合がこれから始まるわけだが……1つ他のグループから質問が来たため、答えを共有しておこう』

ゴホン、と尤もらしい咳払いをした後に彼?は話す。

『まず、敗者復活があるか否か。これに関してはルールに特に明記していなかった通りなかったのだが……今、運営のトップからゴーサインが出たため、敗者復活戦を後程行う事にする。そちらの方のルールに関してはまたこういった形で連絡するので、今はこのグループごとの試合に集中してくれると幸いだ』

……あぁ、あるんだ。敗者復活。
正直意識してすらなかったルールだ。
負ける気がしない、というわけではないが……それでも、敗者となった以上。
また這い上がって試合に挑んだとしても勝てるとは限らない。そもそも、一度負けている相手と再び戦う事になる可能性だってないわけじゃあない。

それこそ、劇的な変化がない限りは勝ち目がないといっても過言ではないのだ。
まだプレイを初めて少ない時間しか経っていないものの、私は対人コンテンツに関してはそう考えている。
どこまで行っても、このVRという没入型のゲームでは本人の素質というのも関わってくる。
それによって、どこまでいけるか決まってしまう。

戦術を考える頭や、それを実行する運動能力など……個人ごとの能力、素質によって変わってくるものが勝敗に最も関係しているのだ。
その差を埋めるためにスキルや装備といったものがあるのだろうが、それだって今のサービスが始まって間もない期間ではあまり他と大差ないようなもの。
そう、私は考えていた。

『では、もう一つ。優勝賞品があるのかどうかという話だ。……実を言えば、これに関して言えば運営のトップが今も頭を捻らせていてな。曰く、「賞品をあげるのは良いけどこっち側から一方的にアイテム渡すだけってのも味気ないよねぇ……」とのこと。恐らくはリストアップされたアイテムの中から欲しいものを選ばせる形式になるとは思うが、現状はまだ決まっていないという事にしておいてくれ』

彼?は嘆息した後にこう続ける。

『はぁ……何分、今回のイベントの本命はフィールドの方の限定モブでな。こちらは言ってしまえば、開発陣の息抜きで作っていたフィールドを見たトップが突然入れた余興なんだ。色々と準備が間に合っていないことを、責任者に変わってここに謝罪しよう。申し訳ない』

マスコットのような見た目のモノが頭をぺこりと下げて謝っている姿は、少しだけシュールだった。
まぁハロウには申し訳ないが、正直な話そんなものだろうとは思っていたのだ。
……だってハロウィン系のイベントなのに決闘とか全く絡んでないしね。

『失礼、脱線したな。まぁそういうわけなので、優勝賞品に関して言うならばある程度期待してもらっても構わない。というか、今私がこうして話していることは運営トップも知っている……というか、リアルタイムで聞いているため割と予想してなかったものが配られるかもしれないな。……さてさて。ではこれ以上待たせても悪いから、次の試合に行こう』

そう言って、グリンゴッツは何かしらのウィンドウを表示させた後にそのぬいぐるみのような手を使い、器用にそれを操作していく。
そしてターンと、よく漫画などであるエンターキーを勢いよく押すような動作をしたかと思えば。
瞬間、私の視界が再び歪んでいった。
私の試合が始まるのだろう。
少しだけ頬を緩むのを感じながら、私はまだ見ぬ対戦相手の事を考え始めていた。
視界が暗転する。


--イベントフィールド 【決闘者の廃都】 商店街エリア

視界の隅にそんな文字が浮かんだかと思えば、世界に色が付き始める。
周りはほぼほぼ最初に転移させられた所と変わらないが、強いていうならばどこか昔ながらの雰囲気が漂っているような、そんな場所だった。
シャッターの降りている店もあれば、降りておらず、しかしながら廃墟と化している店もある。

そんな終わりだけしかない商店街に、私以外にもう一人。
こちらへと近づいてきているプレイヤーがいた。
何故か上だけ白いシャツを、それ以外は囚人服の眼鏡をかけた男性プレイヤー。
十中八九、私の対戦相手だろう。

「……君が私の対戦相手かな?」
「あぁ、よろしく頼む……っと言っても今はまだインターバルだがな」
「まぁ30秒だけだしすぐさ。名前は?」
「ツバメ。そっちは?」
「CNVLさ。短い間だけどよろしくねツバメくん」

そんな風に挨拶をした後に、お互い自らの得物を取り出すために後ろへと下がる。
私達の間に10から始まるカウントダウンが表示された。

私は【菜切・偽】を。
彼は長槍を構え、それぞれへと視線を向ける。
そしてカウントが0になった瞬間、私は地面を勢いよく蹴り距離を詰めるために走り出した。
彼はと言えば。

「【マルチプルラメント-アグレッシブ】」

静かに、歌うようにそう言った。
瞬間、ツバメの近くに半透明の人型の何かが出現する。
それを見た瞬間、自分でも分かるほどに顔を歪めてしまった。

先程まで見ていた試合でも使われていたスキル。
それを使う【犯罪者】は一つしかないだろう。

「【ゲイシー】かぁ面倒臭いなぁ!もう!」
「分かりやすすぎるというのも難点だな。だが、分かっていたとしても近づくには勇気がいるぞ?さぁハンリー、行こうか」

私の第一試合が始まった。
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