Festival in Crime -犯罪の祭典-

柿の種

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第二章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?

Episode 3

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--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 Hard 2F
■【食人鬼A】CNVL

2Fに着いた瞬間、そこが私の知る【劇場作家の洋館】ではないことがはっきりとわかった。
全体的に漂う雰囲気というべきか。見た目自体はあまりノーマルと変わりがないはずなのに、それでも何かが違う。
そう感じてしまう何かがこの階層には存在していた。

「再確認するわよ。……ほら、あそこ。あれみたいに今までの階層ではオブジェクトの段階で種類が把握できていた死体が、全部同じものに変わってるのよ」
「あぁ、アレが言ってた擬態とかそんなのかい?近づいたり敵対行動をとると本来の姿で襲い掛かってくるんだっけか」
「そうね。どうせだし一回やってみましょうか。準備はいい?」

ハロウの問いかけに対し、私達は首を縦に振って肯定した。
準備、といっても私の方の準備といえば1Fで全て終わらせてしまったし、他の2人に至ってはほぼほぼ戦闘行動すらしていないため、傷を回復させるなどといった行動が必要ないのも大きいだろう。

一撃目、というよりも誰が初めに敵対行動をとるのかという問題もあったが、それについてはナイトであっても近接戦闘である程度対応ができるハロウが務める事となった。
ハロウ含め、私達の誰もがこの階層で出現する敵モブをナイトゾンビ以外知らないためだ。

「じゃあ行くわよ……【虚言癖】」

瞬間、私達から見て一番近くに倒れているように設置されていたゾンビのオブジェクトがビクン!とその身体を跳ねさせる。
まるで私のスキルかのように、虚空から剣と盾……そして甲冑が出現し、そのゾンビへと装備されていく。
ただ、それを見ているだけの私達ではない。

ソルジャーゾンビの腕をコストに、【祖の身を我に】を発動させ剣を右手に出現させつつ。
今なお立ち上がろうとしているナイトゾンビへと斬りかかる。
まずは上段から一撃加え、瞬間手の中の剣が光へと変わる。
そのままの動きで、自分の出刃包丁を素早く左手で下から上へと切り上げるようにしてもう一撃。
もう一度腕を喰らい、スキルを発動させて剣を出現させて後ろに下がりながら薙ぐように三撃目。

入れ替わるようにして、ハロウが後ろから【HL・スニッパー】を持ちながら近づいていく所で。
ナイトがやっとこちらへと向き直った。

「大丈夫かーい?」
「もう慣れたわ!」

そう言いながら。彼女は手に持つ大きなハサミを器用に使い、ナイトからの攻撃を防いでいく。
私も私でどこかのタイミングでその戦いに入ろうかと思っていたのだが。
視界の隅に何かが動いているのを確認したため、そちらは後方の2人に任せることにした。
……残りのコストは3本。一応ナイト相手でもなんとか出来る、かな。

『ごめん、ナイトの方任せた。なんか動いてるのがいるからそっち牽制しにいくよ。そっちの援護頼んだぜ』
『りょ!('ω')』

出刃包丁を構え、そちらへと走り出しながらパーティチャットにて後方の2人に伝えておく。
動いた何かの大きさは、どこかで見たようなピンク色をしていて。
ぶよぶよなその身体は、それを食んだ時の微妙な味を思い出させた。

「……げぇ、ゾンビスポーナー……」

区画順位戦、その特殊モブとして登場していた敵モブがそこにはいた。

「こっちゾンビスポーナー居た!とりあえず何とかはしてみるけど、アクターゾンビ沢山出るかも!」
『支援いりますか?先輩』
「いらない、よっと!」

音声入力でチャットを送りつつ。
ソルジャーゾンビの腕を使わずに出刃包丁の腹を使い、打ち付けるようにしてダメージを与えていく。
切らず、叩く。そして近づいた瞬間に、口で喰らう。
……うん、やっぱり味がしない。不味いねこれは。

視界の端に映る【食中毒】の文字を無視しつつ。
そのまま蹴りを加えて強制的に距離をとる。
ちらりと周囲を見てみれば、肉を喰らった時に肉が飛び散ったのかアクターゾンビが2体ほど生まれてきていた。

回復するための行動すらも、相手が増えるかもしれない。
但し、その増えた相手を使えば安全な回復自体は行える。
となれば、だ。

「その身体、一部だけ貰おうかな」

手数を増やして、先に削りきるしかないだろう。
幸い、ゾンビスポーナーのドロップを使っての【祖の身を我に】の効果は分かっている。
区画順位戦のナイトゾンビ戦で一度使ったその効果。

『一定時間、自動で周囲の敵モブを攻撃するNPCを出現させる』という、ゾンビスポーナーの能力をプレイヤー向けにアジャストしたその効果は、恐らく今現在で私が手に入る範囲での最高のものだろう。
イベント限定のものだと思っていたため、ここの階層で手に入れる事が出来るのならばこの後の戦闘も有利に進める事ができるだろう。

再度ゾンビスポーナーに近づき。
今度は出刃包丁を使って、左腕らしきものを上から下へ切りつける。
そしてそのままの勢いで、右斜め上へと切りつけていく。
私のその動きに、周囲のアクターゾンビ含めゾンビスポーナーが反応しようと必死に身体を動かしてきているが、そこは支援効果のないゾンビだからか。
ゆっくりとした動きであるためか、見てから避ける事が簡単に行えた。

アクターゾンビの腕を避け、噛みつきを避け、蹴りを避け。
ゾンビスポーナーの肉の塊を避け。避け避け。避け避け避け避けて。
お返しと言わんばかりに切りつけていく。
出来る限り大きく部位がドロップするように。【祖の身を我に】のコストとして使いやすいように切り分けていく。

「おっと、集中してたらダメージ受けちゃったよ。……いただきます!」

近くに居たアクターゾンビの腕を掴み。
すぐさま噛みつき、歯で肉を千切る。
そのまま腕を離し、近づいてきていた他のアクターゾンビにぶつかるように胴を蹴った。
周囲を見れば、私が攻撃方法を変えたからか先程よりも多い数のアクターゾンビに囲まれ始めていた。
戦闘はまだまだ長引きそうだった。



「よし、これでラスト!」

私の振るった出刃包丁が、ゾンビスポナーの頭らしき部分をかち割るように振り下ろされ。
防御も特に取れないゾンビスポナーはそのままHPバーが底をつき、光となって消えていった。
周囲にはある程度アクターゾンビがいるが、私にとっては歩く回復アイテムのようなものだ。
脅威ですらない。

『先輩、今こっち終わりました。そっちはどうですか?』
「こっちも終わったよ。後はアクターゾンビだけ。収穫はゾンビスポナーの肉塊2個だぜ、やったね」
『……そうですか……一応ハロウさんが腕を何とか断ち切ってましたけど、ドロップの方には入ってます?』
「んー?……入ってるねぇ。ありがとう」
『気にしないでいいわ。とりあえず適当にそこの回復アイテム達片付けてからこっちいらっしゃい。一度合流しましょう』
「了解了解ー」

私のスキルの為に頑張ってくれていたのか、ドロップ品の中には【人の腕-ナイトゾンビ】というアイテムが2個分入っていた。
これを消費することで、ナイトゾンビの能力か装備を得ることができるだろう。
そういう意味では、ここの階層は私にとっては宝の山のようなものだろう。
いずれ1人でアイテム回収に来てもいいかもしれない。

来た道を戻り、合流すると。
激しめの戦闘があったのか、少しばかり疲弊しているハロウを中心に周囲を警戒している2人の姿があった。

「ただいま。大丈夫だった?」
「えぇ、問題ないわ。少しだけ腕切るのに手間取ったくらいかしらね」
『割と余裕はあったよー(゜д゜)多分CNVLさんがいたらもっと早く終わってたかも(;´Д`)』
「おや、それはすまない。敵モブが増える系との戦い方がまだ安定してなくてねぇ……一度に複数攻撃できるようなものがあればいいんだけど」

マギから回復薬を受け取りつつ、周囲の警戒役を変わる。
索敵範囲はマギの方が広いが、対処能力は私の方が高いからだ。
この後はハロウの体力が回復した後に、下への階層……ノーマルモードではボスの階層であった3Fへと繋がる階段を探すために移動を開始する。
少しだけ自分の装備について考えながら、私は時間が経つのを待っていた。
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