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番外編
番外編 「叔父さんの回想」
しおりを挟む俺が死んだら悠一は泣くというのをきいたとき俺のなかで何かが変わった
俺はずっといつ死んでもいいって思って生きてきた
だから好き勝手にいろんな人と付き合ったり、不誠実にふらふらとした生き方をしていた
嫌われようと恨まれようと、それでも俺にはなんの支障もなかったからだ
逆にそうされることで自分の存在価値を見いだしていたのかもしれない
だけど、悠一のあの何気ない、自然な一言で今までずっと埋まらなかった俺の穴は簡単にストンと埋まった
悠一は俺がいなくなったら泣く
こんな俺でもいなくなったら寂しいと思ってくれるんだ
いままでに関わってきた人も泣く人はたくさんいるだろう
でも、その人たちが泣くのと悠一が泣くのでなんだか意味が違う気がした
そういえば…と、ふと昔のことを思い出した
○○○○○○
俺が高校卒業したぐらいだったか、兄貴が家を出て行方をくらませた
「そんじゃあ、俺も」
と家を出て、それ以降実家には一度も帰っていない
元から俺は家にいなかったからそんなに生活が変わることもなく、適当に寄ってくる女の家を転々とした
たまにモデルの仕事を受けたり知人に頼まれた仕事をしたりと勝手気ままに生きていた
そして数年たったあるとき、兄貴を知る知人から兄貴を見たと聞かされた
その時は「へぇ兄貴生きてたんだ」くらいにしか思わなかったのだが
なんと兄貴は嫁と子どもと一緒にいたらしい
それを聞いたとき俺は椅子からひっくり返るほどびっくりした
あの兄貴が??あの堅物で人を寄せつけないあの兄貴が??
ありえない
兄貴は絶対に結婚できないと思っていた
だってあの人は誰一人信用しないし、今まで誰一人として兄貴と信頼関係をきずけた人はいなかったはずだ
そんな兄貴が結婚?それに子ども…?
…うん、ありえない
そう思ったが、その知人に兄貴とその嫁と子供が写ってる写真をみせられ
俺はまた椅子から転げ落ちたのだった
…あの兄貴が笑ってる
衝撃の事実だった
それからはまた俺は変わらない日々
特に兄貴のことを気にすることもなく、相変わらず転々とする生活をおくっていた
それからまた数年がたった
いつも通りそこら辺で出会った女の部屋に転がり込んでいたとき、近所のスーパーで兄貴を見たのだ
まさか近所だったのかと思い、なんとなく兄貴の様子が気になった俺は後をつけた
兄貴は一軒のわりと立派な家へと入っていった
「へぇーいいとこ住んでんじゃん?」
おもしろくなった俺はピンポンとならしていた
出てきた兄貴は俺を見た瞬間苦虫を噛み潰したような顔をしてすぐに追い返された
それでもなんだか気になった俺はそれから何度も訪ねた
嫁さんは夜の勤務なのだろうか見ることは一度もなかった
そんなある日、いつものようにピンポーンと呼び鈴を押すと家の中から、たたたたっと軽い足音が聞こえてきた
ガチャ
「あり?」
「あ、知らないおじちゃん!こんばんわー!」
ドアを開けたのは兄貴ではなくこどもだった
「知らないおじちゃんって…少しは見たことあるでしょ?お父さんの弟だよ?
まぁ会ったことないけどさぁ
って、本当に知らないおじちゃんだったら、こんな簡単に玄関開けたらダメだぞ?」
「じゃあ知ってるおじちゃん!お家はいる?」
「は、入っていいの?…ってだから!そう簡単にお家にもあげちゃダメだからな!」
「じゃあ、おじちゃんお家いれちゃダメ?」
「う、うーーん、俺はお家入れてもいい、かな?」
「やったーー!!おじちゃんいらっしゃい!!」
この子大丈夫だろうか…とさすがの俺でも心配に思ったのは覚えている
悠一に連れられてはじめてこの家へ入った
いろいろと散らかっているが、まぁそんなもんだろう
「あれ?兄貴はいないの?それに嫁さんは?」
てっきり兄貴か嫁さんが中にいるんだろうと思っていたのだが、どこにも姿がみえない
すると、突然「うっ」と悠一が声を出した
「?」
「お、お父さんまだ帰ってこないの」
そういったとたんに大粒の涙を流して泣きはじめてしまった
「えっえっど、どうしよ?!」
子どもに触れる機会が少なかった俺はどうしていいかわからずにオロオロとする
「うわーーーーんっっおどーさんがえってごないのぉぉー!!」
「うわわっ!な、泣くなよぉっ」
どうしていいかわからなくて、とりあえず悠一をぎゅっと抱きしめて頭をよしよし撫でた
そしたら何でか俺も急に奥の方から込み上げてくるものがあって
気がついたらポロリと涙がこぼれていた
「うぇ…?」
慰めようとしてなぜか泣き出した俺を、悠一はびっくりした顔して見ていた
俺も自分が涙を流していることに驚いていた
「なんだ…これ?」
「おじさんどうしたの?」
すると、抱きしめていた悠一が逆に俺をぎゅーっと力いっぱい抱きしめてくれたのだ
「おじさんも寂しいの?」
「うぇ…?」
「大丈夫!寂しくないよ僕がいるよ!」
さっきまで大泣きしていたのに、いまはもう泣く気配すらなく、よしよしと鼻水を滴ながら頭を撫でてくれたのだ
本当は俺がそうしてあげなきゃいけないのに、逆に慰められてしまってる
なにやってんだ俺
てかなんで俺泣いてんだ…?
わけがわからなかった
「僕がいるから大丈夫だよ」
その言葉の温かさと抱きしめている子どもの温かさに俺の心は耐えられなくなって、なにもできずただただボロボロ泣いたのだった
○○○○○○
俺はずっと寂しかったのだろう
あの時俺は悠一に救われた
小さなこどもに僕がいるから大丈夫だよと言われてボロ泣きするほどあの時俺は限界だったのだろう
あの時悠一に救われていなければ、俺はもうとっくに死んでいたと思う
そしてまた悠一に救われた
こんな俺でも死んだら悠一は泣くんだって
聞いた瞬間ものすごく嬉しいと思った
でも、悠一を泣かせたくないと思う
ずっと笑顔で生きていてほしいし、それを俺は見ていたい
だから、俺は決心した
今まで好き勝手やってたことへ向き合って生きようと
「よっしゃ、じゃあ悠一行ってくる!夕飯には帰ってくるからな!」
「はいはい、いってらっしゃい」
ぶっきらぼうに言う悠一の頭をぐしゃぐしゃとかき回してニッと笑う
「あーーー!!もう髪の毛があぁ!!」
「へへっじゃーな!」
そうして今日も悠一の夕飯を食べるために頑張ろうと歩きだした
俺はずっといつ死んでもいいって思って生きてきた
だから好き勝手にいろんな人と付き合ったり、不誠実にふらふらとした生き方をしていた
嫌われようと恨まれようと、それでも俺にはなんの支障もなかったからだ
逆にそうされることで自分の存在価値を見いだしていたのかもしれない
だけど、悠一のあの何気ない、自然な一言で今までずっと埋まらなかった俺の穴は簡単にストンと埋まった
悠一は俺がいなくなったら泣く
こんな俺でもいなくなったら寂しいと思ってくれるんだ
いままでに関わってきた人も泣く人はたくさんいるだろう
でも、その人たちが泣くのと悠一が泣くのでなんだか意味が違う気がした
そういえば…と、ふと昔のことを思い出した
○○○○○○
俺が高校卒業したぐらいだったか、兄貴が家を出て行方をくらませた
「そんじゃあ、俺も」
と家を出て、それ以降実家には一度も帰っていない
元から俺は家にいなかったからそんなに生活が変わることもなく、適当に寄ってくる女の家を転々とした
たまにモデルの仕事を受けたり知人に頼まれた仕事をしたりと勝手気ままに生きていた
そして数年たったあるとき、兄貴を知る知人から兄貴を見たと聞かされた
その時は「へぇ兄貴生きてたんだ」くらいにしか思わなかったのだが
なんと兄貴は嫁と子どもと一緒にいたらしい
それを聞いたとき俺は椅子からひっくり返るほどびっくりした
あの兄貴が??あの堅物で人を寄せつけないあの兄貴が??
ありえない
兄貴は絶対に結婚できないと思っていた
だってあの人は誰一人信用しないし、今まで誰一人として兄貴と信頼関係をきずけた人はいなかったはずだ
そんな兄貴が結婚?それに子ども…?
…うん、ありえない
そう思ったが、その知人に兄貴とその嫁と子供が写ってる写真をみせられ
俺はまた椅子から転げ落ちたのだった
…あの兄貴が笑ってる
衝撃の事実だった
それからはまた俺は変わらない日々
特に兄貴のことを気にすることもなく、相変わらず転々とする生活をおくっていた
それからまた数年がたった
いつも通りそこら辺で出会った女の部屋に転がり込んでいたとき、近所のスーパーで兄貴を見たのだ
まさか近所だったのかと思い、なんとなく兄貴の様子が気になった俺は後をつけた
兄貴は一軒のわりと立派な家へと入っていった
「へぇーいいとこ住んでんじゃん?」
おもしろくなった俺はピンポンとならしていた
出てきた兄貴は俺を見た瞬間苦虫を噛み潰したような顔をしてすぐに追い返された
それでもなんだか気になった俺はそれから何度も訪ねた
嫁さんは夜の勤務なのだろうか見ることは一度もなかった
そんなある日、いつものようにピンポーンと呼び鈴を押すと家の中から、たたたたっと軽い足音が聞こえてきた
ガチャ
「あり?」
「あ、知らないおじちゃん!こんばんわー!」
ドアを開けたのは兄貴ではなくこどもだった
「知らないおじちゃんって…少しは見たことあるでしょ?お父さんの弟だよ?
まぁ会ったことないけどさぁ
って、本当に知らないおじちゃんだったら、こんな簡単に玄関開けたらダメだぞ?」
「じゃあ知ってるおじちゃん!お家はいる?」
「は、入っていいの?…ってだから!そう簡単にお家にもあげちゃダメだからな!」
「じゃあ、おじちゃんお家いれちゃダメ?」
「う、うーーん、俺はお家入れてもいい、かな?」
「やったーー!!おじちゃんいらっしゃい!!」
この子大丈夫だろうか…とさすがの俺でも心配に思ったのは覚えている
悠一に連れられてはじめてこの家へ入った
いろいろと散らかっているが、まぁそんなもんだろう
「あれ?兄貴はいないの?それに嫁さんは?」
てっきり兄貴か嫁さんが中にいるんだろうと思っていたのだが、どこにも姿がみえない
すると、突然「うっ」と悠一が声を出した
「?」
「お、お父さんまだ帰ってこないの」
そういったとたんに大粒の涙を流して泣きはじめてしまった
「えっえっど、どうしよ?!」
子どもに触れる機会が少なかった俺はどうしていいかわからずにオロオロとする
「うわーーーーんっっおどーさんがえってごないのぉぉー!!」
「うわわっ!な、泣くなよぉっ」
どうしていいかわからなくて、とりあえず悠一をぎゅっと抱きしめて頭をよしよし撫でた
そしたら何でか俺も急に奥の方から込み上げてくるものがあって
気がついたらポロリと涙がこぼれていた
「うぇ…?」
慰めようとしてなぜか泣き出した俺を、悠一はびっくりした顔して見ていた
俺も自分が涙を流していることに驚いていた
「なんだ…これ?」
「おじさんどうしたの?」
すると、抱きしめていた悠一が逆に俺をぎゅーっと力いっぱい抱きしめてくれたのだ
「おじさんも寂しいの?」
「うぇ…?」
「大丈夫!寂しくないよ僕がいるよ!」
さっきまで大泣きしていたのに、いまはもう泣く気配すらなく、よしよしと鼻水を滴ながら頭を撫でてくれたのだ
本当は俺がそうしてあげなきゃいけないのに、逆に慰められてしまってる
なにやってんだ俺
てかなんで俺泣いてんだ…?
わけがわからなかった
「僕がいるから大丈夫だよ」
その言葉の温かさと抱きしめている子どもの温かさに俺の心は耐えられなくなって、なにもできずただただボロボロ泣いたのだった
○○○○○○
俺はずっと寂しかったのだろう
あの時俺は悠一に救われた
小さなこどもに僕がいるから大丈夫だよと言われてボロ泣きするほどあの時俺は限界だったのだろう
あの時悠一に救われていなければ、俺はもうとっくに死んでいたと思う
そしてまた悠一に救われた
こんな俺でも死んだら悠一は泣くんだって
聞いた瞬間ものすごく嬉しいと思った
でも、悠一を泣かせたくないと思う
ずっと笑顔で生きていてほしいし、それを俺は見ていたい
だから、俺は決心した
今まで好き勝手やってたことへ向き合って生きようと
「よっしゃ、じゃあ悠一行ってくる!夕飯には帰ってくるからな!」
「はいはい、いってらっしゃい」
ぶっきらぼうに言う悠一の頭をぐしゃぐしゃとかき回してニッと笑う
「あーーー!!もう髪の毛があぁ!!」
「へへっじゃーな!」
そうして今日も悠一の夕飯を食べるために頑張ろうと歩きだした
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