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本編
ギルドマスターと ロイside
しおりを挟む真夜中。ようやく帰ってきたコイツ......... この街の冒険者ギルドのギルドマスターであるリアードは 目の前に置かれた物を見て 固まった。
「.........どうしたんだ、これ」
仕事中とは違い、素の話し方で問いかけてくる。
「飯だな、お前の分の」
「しばらく会わない間に随分と上手になったな」
「俺じゃねぇよ。マリアが作った」
「..................お前、子供に飯を作らせているのか?」
少しの間のあと、クズを見るかのような目で睨んでくる。
「言っとくけど、作るって言い出したのはマリアの方からだからな」
まぁ、それでも俺もどうかとは思ったこともあったが。
屋台は当たり外れがあるから仕方ないとして、街の宿の飯ですら 微妙な顔をする時が少なからずあるような奴だったんだぞ、出会った当初から。
俺の料理とも言えない飯.........ただ焼いただけの肉とか.........なんか いまさら食わないし 、そもそも俺に作らせもしない気がする。
食材の無駄になるからやめて とか言われそうだ。
いや、言われるだけならまだいい。精神的ダメージがないとは言わないが。
仮に反対を押し切って俺が作ったとして、出来上がったものに手をつけてくれるかどうか、そこからさえも怪しい気さえする。
.........そうなった時の精神的ダメージの方が大きそうだ。
「美味そうだな。食っていいのか?」
「あぁ。食って、明日会ったときにでも感想言ってやってくれ」
「わかった」
◇ ◇ ◇
「ファーナから、俺にのみしたい情報提供があるって言っていたと報告があった。それはあの子が関係しているんだろう」
「あぁ」
飯も食い終わり、ひと息ついたところで 切り出したのはリアードの方だった。
「1日で迷宮を攻略したというのは本当なのか? お前1人ならともかく、子供と まだ幼体の魔獣を連れて」
「想定外なことが起こりすぎた結果、気づいたら迷宮攻略していた」
「........気づいたら、で攻略できるほど難易度の低い迷宮じゃないはずなんだが」
意味がわからない、という顔をする。
そりゃそうだ。俺だって意味がわからない。
「ここの迷宮、転移の罠があるのは15階層からだったよな」
「? あぁ、そうだが」
「それより浅い階層に出たという報告は?」
「あるわけないだろう」
「だよなぁ.........」
思わずため息がもれる。
「.........まさか、転移の罠にかかったのか!?
何階層だ!? それは!!」
「10階層」
「...............冗談、だよな?」
「冗談だったら良かったんだがなぁ.........。
転移した先は一本道。進めば進むほど退路は消えていき、待っていたのは魔物部屋だった」
「魔物部屋、だと? .........ここの迷宮で、魔物部屋が出たという報告は一度も上がっていないんだが」
「ちなみにいたのは オークとオーガがそれぞれ20匹以上の混成部隊だった。
で、倒し終わって宝箱がでてきて、現れた扉の転移先がボス部屋のすぐ手前の部屋」
「.........は?」
「ついでに言うと あるはずの上の階からの階段は影も形もなかったな」
「...........................」
話せば話すほど、リアードの眉間には皺がよっていき、とうとう最後には頭を抱えだした挙句、何やらぶつぶつ言っている。
まぁ、それはそうだろう。俺がリアードでもそうなるだろうからな。
「迷宮が、急にそんな大きな変化を起こすわけが.........ない」
しばらくするとようやく落ち着いたのか、そう声をもらした。
「あぁ、それは俺も同意見だ」
「だとしたら、何故」
「マリアだから、だろうな」
「.........わかるように、説明しろ」
「マリアだから、起こった。
マリアじゃなかったら、起こらなかった。
俺はそう思っている」
「たいして言ってることは変わってない。説明になっていない」
少しイラだった様子のリアードに睨まれる。
まぁ、わからないだろうな。
俺も今はまだちゃんと説明する気はない。
「マリアと俺の関係性は? どう見える」
「.........獣人でなければ、親子に見える程度には一緒にいることが当たり前に見えた」
「そうか。 それ以外に何か、感じるものはないか?」
「そう、だな.........。リル、という従魔。あれが気になる」
「他は?」
「随分と聡い子のようだ。 急に年相応の子供のような振る舞いを始めたのも、何か考えがあってのことのように思えた」
「他」
「ロイの言動が完全に娘を心配しすぎる父親」
「.........俺のことは、聞いていない」
「ロイが随分と、穏やかな顔をするようになった」
「だから、俺のことは聞いていない」
「まさかお前が騎士をやめて、冒険者に戻っているとは思わなかった。エミリーから連絡をもらってなかったら、気にも止めなかっただろうな。
..................冒険者に戻ったのは、あの子が理由か」
「だから、俺のことは....「あの子が、大事か」
「...............」
俺は答えなかった。
しかし沈黙こそ、答えだと思ったのだろう。リアードは愉しそうに笑った。
「何が、お前をそうさせた?
あの子の何が、お前を変えたんだ」
「初めは単に、ガキの癖にガキじゃないところがおもしろいと思っただけだった。
だが知れば知るほど、ほっといたらダメだと思った」
「お前、まさか手を出したとか言わないだろうな?」
「言わねぇよ。ルイスと同じこと言うんじゃねぇよ.........」
またそれかよ。 揃いも揃って、なんで俺を犯罪者にしようとする。
心底うんざりする、という顔を見せるとリアードが笑う。
「ふっ......... ルイスにも言われたのか」
「あぁ」
「で、実際どうなんだ?」
「ほっとけねぇのは確かだが、それとこれは別だろ」
「子供から大人へと至る成長を間近で見ておいて、他の男にやれるとも思えんが」
「.........るせぇ」
「まぁそれはどうだっていい。早まって犯罪者にだけはなるなよ。街にいる時は店なりなんなりで発散させるといい。聡い子だ。適度になら 気づいても気づかないフリをしてくれるだろ」
「どうでもいいなら聞くんじゃねぇよ.........」
再び うんざりした顔をして見せ、この話は終わりだ、と手を振り払う仕草をする。
すると、
「結局、俺だけにしたい情報提供とは何だったのかがまるでわからないんだが。
お前の言い方が悪いんじゃないか?」
リアードは偉そうにそう言い放った。
.........理解、してねぇのかよ。
お前こそ耄碌したんじゃねえの。
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