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58:ベツレヘムの星盗難事件 中編

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 十分後。



「ない……どこにもない。もう、誰かが持ち去ったのか? ああっ、あのゴールデンベツレヘムの星がなくなったら、私はもう……」
「それは大丈夫です、館長。犯人は外に出ていません。入り口は職員が見張っていましたが、誰も出ていません。裏口は……」
「風紀委員と職員が作業をしていて、誰も裏口から出ていない事と僕と正道で確認しました」
「警備員、それはおかしくないか? 館内を探したが、誰もいなかったぞ?」
「館長、警備員はこう言いたいんですよ。犯人は館内にいた僕と正道、伊藤さん、サンタ役の富岡さん、館長の誰かだと。警備員は入り口で職員と一緒でしたのでアリバイがありますね」
「そ、そんな! 僕じゃないよ! 僕はただ、お菓子とジュースを運んできただけだよ! 後、サンタの衣装合わせにね!」
「わ、私だって違います! クリスマス会の手伝いに来ただけですから!」

「伊藤、落ち着け。警備員さん。とりあえず、ゴールデンベツレヘムの星がなくなったときの状況を確認してみませんか?」
「そうだな、藤堂君。ゴールデンベツレヘムの星がいつなくなったのか、そこから犯人を絞ることにしよう」
「なら、俺から説明します。俺と伊藤はこの部屋でクリスマスツリーの飾り付けをしていました。その途中で左近に呼ばれ、俺は部屋を出ました。このときはまだ、ゴールデンベツレヘムの星はこの部屋にありました」
「先輩が出ていった後、私、先輩を待っていたんですけど、なかなか戻ってこなかったので、化粧室に行きました。その途中で館長さんとすれ違って、化粧室に行ってから、部屋に戻りました。もちろん、そのときはありましたよ、ベツレヘムの星は」
「つまり、伊藤さんが部屋を出て、藤堂君が部屋に戻るまでに盗まれたってわけか。藤堂君はその後、どうした?」
「俺と左近は入り口に止めてあった車からお菓子とジュースを下ろして、玄関前に移動させました。そのとき、警備員さんも一緒にいましたよね?」
「ああっ、そうだったな」

「それは本当かね、警備員?」
「はい、館長。藤堂君の言うとおり、彼らが作業していたことは私と職員が確認しています。そのとき、藤堂君はゴールデンベツレヘムの星を持っていなかった。橘君も玄関から先に入っていないので、この二人は犯人じゃない。富岡さんがここに来たのは、車でお菓子とジュースを運んできたからですね?」
「そうです。あっ、公民館にあるサンタの衣装を確認する理由もありますが。橘君にお菓子とジュースを持ってきた事を伝えたあと、ここの職員に会って、中に入ったわけです。衣装のある部屋でサンタの服に着替えて、そのあと、館内を歩いて館長を探していました」
「確かに、サンタ姿の富岡さんと俺達はすれ違って少し話をしました。富岡さんが中に入ってから俺達とすれ違うまでに、ゴールデンベツレヘムの星を盗んでからサンタの衣装に着替える時間はなかったと思いますが……それに衣装のサンタの袋にもゴールデンベツレヘムの星はなかった」
「藤堂君の言うとおりだ。そうなると……」

「わ、私ですか? 違います! 館長さん! 私とすれ違ったとき、ベツレヘムの星を持ってませんでしたよね!」
「う、ううん……すれ違ったかな?」
「ええっ! すれ違いましたよ! 嘘をつかないでください!」
「伊藤、落ち着け。ちなみに館長はゴールデンベツレヘムの星がなくなったとき、何をしていたのですか?」
「わ、私を疑うのか? 私はずっと部屋で仕事をしていた。た、確かに気分転換にツリーを見にいって部屋に入ったが……その……」
「何かあったのですか?」
「じ、実はね、警備員。私が部屋に入ったとき、すでにゴールデンベツレヘムの星はなかったんだよ」
「なんですって! どうして、言ってくれなかったんですか!」
「そ、そのときは盗まれたとは思っていなかったんだ! 飾り付けとか、何か理由があって見当たらないと思ったから、藤堂君達を探していたんだ!」
「……そうですね。俺達が部屋に戻ったあと、すぐに館長がやってきて、ゴールデンベツレヘムの星の在処を聞いてきました。そのとき、館長はゴールデンベツレヘムの星を持っていませんでした」
「そうなると、犯人は……」
「待ってください、警備員さん! 私じゃないって言っているじゃないですか!」
「だが、キミしか持ち出すチャンスはない。どこに隠したんだ?」
「だから、隠してませんから!」



「厄介な事になったな、左近」
「マズイね、このままだと、伊藤さんが犯人にされてしまう」
「この際、犯人はおいといて、ゴールデンベツレヘムの星がどこにいったのかを考えてみるか。ゴールデンベツレヘムの星さえあれば伊藤の無実もはれるかもしれない」
「なら、時系列をまとめてみよう。

 正道と伊藤さんがツリーを飾っていた。そのとき、ゴールデンベツレヘムの星が箱にあったことを二人で確認している。
 僕が正道を呼んで、部屋には伊藤さんだけになった。
 伊藤さんが部屋を出たときはゴールデンベツレヘムの星はまだ部屋に残っていた。
 伊藤さんが館長とすれ違い、館長は部屋に入った。
 館長はゴールデンベツレヘムの星がなくなったことに気づき、僕達を探していた。
 僕達が作業を終えて、部屋に戻る最中に富岡さんとすれ違った。
 僕達が部屋に入って、ゴールデンベツレヘムの星がないことに気づき、警備員に連絡した。

 以上だね」
「そうなると、伊藤が部屋を出て、館長が部屋に入る間に盗まれたって事か? だが、そんなことが可能なのか? この部屋からトイレまで一分あるかないかだぞ? その間にゴールデンベツレヘムの星を盗んでどこかに隠すことなんて、出来るのか? しかも、どこに隠したんだ? ゴールデンベツレヘムの星は全長二十センチはある。黄金で出来ているから、折りたたんだりするのは不可能だぞ。しかも、星形だ。箱に入れて隠す場合でも、それなりに大きな箱が必要だ。館内を隅々まで探したが、どこにもなかったぞ」
「ねえ、正道。何か気づいたことはない? 正道が部屋を出て、戻ってきたとき、部屋の様子が変わったこととかある?」

「……そういえば……ちりとりとホウキが動いている」
「えっ?」
「ツリーを飾ったあと、飾りに使った紙くずやゴミを掃除するため、部屋の左隅にホウキとちりとりを置いておいたんだ。だが、今は右端に置いてある。なぜだ? 誰かが使ったのか?」
「右端ってことは、ゴールデンベツレヘムの星があったところだね。伊藤さんに聞いてみよう。伊藤さん」
「なんですか! 今、この石頭に私が犯人じゃないって説明するのに忙しいんですけど!」
「なんだと!」
「警備員さん、すみません。少し、伊藤さんに確認したいことがあるんです」
「確認? なんですか、橘先輩?」
「この部屋にあったちりとりとホウキ、使った?」
「いえ。使ってませんけど……あれ? ちりとりとホウキってあそこにありましたっけ? 先輩が左端に置いていたと思うんですけど」

「今、分かったことは、正道の勘違いじゃなくて、本当にちりとりとホウキは移動していたってことだね。そうなると、館長さんが使ったのかな?」
「い、いえ。私は使ってない。ちりとりとホウキがあったことなんて気がつかなかった。それどころじゃなかったからね。それに橘君。ちりとりとホウキが移動したことなんて事件に関係ないと思うのだが」
「いえ、重要な事かもしれません。誰も使っていないとなると、ちりとりとホウキは犯人が使ったってことになりますから」

「左近。見てくれ。ホウキの毛の部分に細かくて丸い物がついている。なんか、金色っぽくないか?」
「なんだろう? ただのプラスチックみたいだけど……金じゃないね。ただ着色されているだけだ」
「ホウキに黄金色っぽい欠片……ゴールデンベツレヘムの星……どこにも見当たらない……まさか……」

「伊藤、どうした? 飾りの残りをあさりだして」
「……なるほど。そういうことでしたか……先輩、橘先輩! 私、分かったんです! 犯人が誰か! それと、ベツレヘムの星のありかも」
「ほ、本当か、伊藤?」
「はい! 分かっちゃいました! ゴールデンベツレヘムの星、盗難難事件の解くカギは以下の通りです!

 なぜ、ちりとりとホウキが移動したのか?
 どうして、ゴールデンベツレヘムの星はどこにも見当たらないのか?
 そもそも、ゴールデンベツレヘムの星なんてあったのか?

以上です」
「おいおい、どういうことだ? 犯人がこの中にいるだと? 誰もゴールデンベツレヘムの星を持っていないぞ? それに……」
「では、みなさん。推理してみてくださいね。答えは次のお話で……」
「「「おい!」」」
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