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第二章 名もなき古話の神々は、漂泊の歌姫に祝福を与ふ

尾の長すぎる怪鳥は、眠れぬ恋を啄み呪う(7)女皇帝の予言

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「お夜食を、ご用意してまいりマシタ」


 扉の外からセバスティアヌスの声がした。


──おお、入れ。

 扉が開いた次の瞬間、花氈の前に背の低い食台が現れ、料理を盛った皿が載せられた。

「始祖魔鳥の酒蒸しの魔香草添えと、鬼魔樹の木の実の焼き菓子でゴザイマス」

──なんとも旨そうな肴じゃ! して、この赤みを帯びたものは?

「こちらの森の野葡萄を漬け込みマシタお酒でゴザイマス」

──ほう。なかなかの香じゃな。セバスティアヌスよ、良きもてなしに感謝する。

 セバスティアヌスが礼をすると同時に、壁際に天蓋つきの寝台が音もなく現れた。

「御用の際には、名をお呼びいただければ、参りマス」

──分かった。のちほど呼ぼう。

 
 用意された料理と酒をうれしそうに味わいながら、女皇帝は話を続けた。

──ところでサラよ。汝は歌を読み解く仕事とは別に、武人としても働いておるようだな。

「はい。神殿…社の建て直しなどの資金が足りず、傭兵のような仕事をしております…」

──苦労をしておったのだな。しかしこれからは、あの朴念仁の教授とやらの庇護もあるし、こうして我もついておる。社の再建の心配などはいらぬぞ。

「え、いや、しかし…」

 甘えることの苦手なサラの逡巡に構うことなく、女皇帝の話は意外な方向へ進んで行った。

──が、それはそれとしてじゃ。遠からず、戦仕事に呼ばれることになるであろう。だがサラ、それは罠だ。

「え?」

──これまで汝と共に戦ってきた親しき者たちが、声を限りに助けを求めてくるかもしれぬし、まつりごとで勢いある者どもから、そうせよと強く命じられるかもしれぬ。しかし、決して応じるな。

「さらら様、それは一体…」

──教授とやら…ヒギンズと言ったか、あの者は、この城にサラを籠めて守るつもりだろうが、度し難き悪心を持つ輩は、容易にあれの隙をつくであろう……と占ったものが、我のところにおってな。


「占い、ですか」

──うむ。汝らも巫女として行うことがあろう?

「ええ…」

 占いは巫術師の仕事の一つだが、サラはあまり得意ではないことが知られているため、依頼されたことは一度もない。

 それが巫術師組合で蔑まれる理由の一つだったことを思い出し、サラの胸に苦い思いが湧いた。

──我のところにも巫女がおる。また、巫女とは違うやり方で、先読みをする者たちもおるのだ。単なる勘なのかもしれぬが、良くないことほど良く当てる。

「良くないこと……私が戦仕事に呼ばれることでしょうか」

──うむ。サラに何かあっては堪らぬので、何とかして知らせようと思って、我は頑張ったのじゃ。まさか、我自ら飛ぶことになるとは思わなかったがな。はははは。

「さらら様…」



+-+-+-+-+-+-+-+-


いにしえの巫女

大君おおきみが、あのように諭されても…あの若き巫女は、死地に呼ばれてしまいそうです」

女皇帝の夫

「俺にはさらちゃんが大荒れしてる未来が見えるな……おい、そこの若いもん、占いとか得意なんだろ? 打開できないかどうか、見てみろよ」


単身赴任中の悩める男

「と言われましても、私は妻との恋路くらいしか占ったことがなくて…(なんで僕、こんな高貴な方々ばかりの所に呼ばれちゃったかな)」


女皇帝の夫

「さらちゃんの『未来の宴』に、最愛の奥方も呼んでやるからさ」


単身赴任中の悩める男

「ほんとですか!? ならやって見ます。ええと…海行かば水漬く屍、山行かば草生す屍…」

女皇帝の夫

「死んでんだろ、それ…」



+-+-+-+-+-+-



*いにしえの巫女…額田王。

*女皇帝の夫…天武天皇

*単身赴任に悩める男…大伴家持。

*「海行かば」…大伴家持の長歌の一部(万葉集 巻18  4094)






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