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視察 3
しおりを挟む瓶の中身はやっぱり苺だった。苺の形を崩さないように砂糖で煮たジャムのようなもの。苺は栢木に訊くと希少な植物で、モールドレ原産だとか。
「あー…アキのとこの眷属が頑張っちゃったのかあ」
「えっ、なに?知り合い?」
「っていうか幼馴染?兄弟?」
「あー、じゃあこの苺の苗って地球産…」
「多分な?」
果物しか食べないアキのために眷属が父さんたちにおねだりしたんだろう。余りを売るとか抜け目ないなゴブリンども。
メインストリートをテクテク歩くと剣と杖を×印にした看板の建物の前で止まる。
「ここが冒険者ギルド。クロ様はエールでも飲みながら待ってるか?」
「エール美味い?」
「フツーにまずい」
「じゃあイラネ」
西部劇みたいな扉を開けるとが一斉にこっち見た。……俺じゃない、栢木を注視してるのか?
「……おいおいお嬢ちゃん、ここはお嬢ちゃんがくる場所じゃあな……ほげっ!?」
立ち塞がった大男が一瞬で転がされた。あ、大丈夫なやつだこれ。俺は空気に徹して隅っこの椅子に座る。
「だぁれが『お嬢ちゃん』だ、カスが」
栢木はカウンターのほうにずんずん歩いて、懐から小さなカードを取り出した。
「『ファントム』のアレだ。預金を全額下ろして冒険者登録を抹消したい。あと預けておいた装備品をこちらに転送してくれ」
「はひぃっ!?」
「早く仕事しろ受付嬢」
光る板の上にカードを置くと情報が読み取れるらしい。何気にハイテクだね冒険者ギルド。
「えっ、え…『ファントム』?本物!?ええ…と……Sランクの『ファントム』は5ヶ月前に死亡したと…」
「生きてんだよ。だからさっさと手続きしろ」
「はっ、はいぃ!」
完全にテンパってる受付嬢の後ろで「誰かギルマス呼んでこい!」とか「マジで!?伝説かよ!」とか騒がしい。そういやあいつ有名人だっけ?二つ名とかカッケー(棒読み)。
「……えっ………あっ、あのう……」
「なんだ?」
「『ファントムのアレ』の口座は抹消されております。装備品も本人死亡で処分が終わっていますが…」
「………は…?」
「はあああ!!??」
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