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閑話:サヴァレーゼ聖者オズワルド
しおりを挟むやばい、と思う。
あの笑顔を見た瞬間に体温は急上昇するし、得体の知れない多幸感が脳内を襲った。
ウワアアアアアアアってなって、走って部屋を出て、もうなりふり構わずテオの手を握りに行った。
「……っ!?オズ!?どうした!?」
フーッと大きく息を吐く。
…………よし!大丈夫!大丈夫!!俺はテオが好き俺はテオが好き俺はテオが好き!!
ゴツゴツした大きな手を握ったり撫でたりすると、さっきの感情が少しずつ収まっていく。
これは……そこらの《魅了》スキルよりずっとタチが悪いんじゃないか!?
「オズ…?」
「あ…」
「………」
向かい合うナイトレイ公とテオの前にはチェスと飲み物が置いてある。……しまった!!歓談中だったのか…!
そうっと手を離すと、クツクツと喉の奥でナイトレイ公が笑っていた。
「とんでもないだろう、アレは」
「あ……え…は、はい…」
ああ~…この様子じゃあ俺が初めてでもないな……。
首を捻るテオに、グレン様が可愛すぎてよろめいたと言うとギュッと手を握り返してきた。うんうん、そうやってて。まだ思い出すとヤバいから。
「普段は色気があるわけでもなく、媚びてくるわけでもない。甘言を弄するわけでもない。なのにあれは子供の頃から、ただそこに居るだけで色々と誑し込んで来るのだよ。地竜や精霊、勇者、魔王……最近では大神や魔女までもな」
ウワア……。
兄であり妻であるナイトレイ公の苦労が偲ばれる…。
あのひと、妻が3人でよく済んでるね!?愛人の座を虎視眈々と狙ってる人は居るみたいだけど。
「…さて、明日は祭り初日だ。今日はもうゆるりと休まれよ。私は被害が広がらぬうちにあの子を回収しよう」
雪祭り。それもグレン様が考えたものだという。
オリジン時代、《八雲》を捨てた《高天》は何を考えているかわからなくて、恐ろしくて冷酷な『父』だと思っていた。
けれどこの異世界で再会した《高天》は何もかもが違った。《唯一》の支配から脱却した《高天》は、優しくて朗らかで、子供のようにくるくると表情が変わって、お人好しで悪戯好きで楽しいことが大好きで……。
元に戻ったのだろう《高天》を見て、涙が出そうになった。本来のあのひとは、お日様のようにあたたかかった。
何故 ーーー と思う。けれど、《奈落》もグレン様も何も教えてくれない。当たり前だ。第一世代ほどの力が無ければ《唯一》の情報にアクセスはできない。言葉にしようにも、それは理解できない音となって耳に届く。
もうすぐ良くなるよ。全部良くなる。良くするから。
グレン様は笑う。このひとに任せておけば……と思う反面、任せきりにして良いのだろうかと心配になる。
あのひとは自分一人で抱え込みすぎる。魔力不足で倒れたと聞いた時もヒヤリとした。
あのひとが、もう少し伴侶の方々を頼れれば良いのだけど…。
あー…ハラハラするなあ、もう!
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