31 / 68
探し人《夢》【2】
しおりを挟む
聞こえたのは、赤子の産声。
新たな命の誕生の知らせ。
けれど……。
次の瞬間。悲鳴が響いた。
暫くして、小さな女の子が自分よりも大きなバスケットを大事そうに抱えて家を出て、走り出した。
黒いフードを目深に被った少女が問う。
「ねえさま。あの子?」
もう一人の少女は答える。
「そうよ。婆様の言う通りなら、あの子は私達の兄妹」
「…でも、生まれたばかりなのにお母さんと直ぐに引き離されちゃうなんて、可哀想だよ」
「そうね。でも、このままじゃあの子も、あの子の両親もみんな幸せにはなれないわ。さ、私達も行くわよ」
二人の影が、夜道に消えた。
女の子は、街の小さな教会の前で立ち止まった。懐から一枚の紙を取り出して、バスケットの中にそっと差し込み、バスケットの中身に「ごめんね…」と呟くと、意を決してトントントンと力強くドアをノックしてから、走って帰って行った。
そのドアが開く前に、先程の影がバスケットごと攫って行った。
「ふぅ。危なかったね、ねえさま」
「うん。帰ろう」
私達の家に。
そうして二人は月が照らす光の中、姿を消した。
***********
嘆きの森ーーそう呼ばれている森の奥に、淡い光を放つ水晶が存在する。
それらは昔、タイムリープの能力によって恋に破れた魔女の涙が結晶化したものだと言われている。その結晶には、タイムリープの能力を無効化する力があり、特に力が暴走しやすい幼少期は、水晶を加工した首飾りを身に付けたり、水晶の近くで育てられる。
私達の場合は。
「婆様。攫ってきた」
森の中の自分達の家に帰ってくると。
真っ先にバスケットを老婆に渡す。
「またおまえはそんな事を…」
老婆は宥めるように言う。
「だって、許可なく連れてきたんだよ。立派な誘拐でしょう?」
バスケットの中身に対して。ずっと、「ごめんね」しか思ってなかったんだ。
「…そう思うのなら。おまえがこの子を親の分まで愛してあげなさい」
どうせ、元の家には返せないんだ。
ぎゅっと、拳を握り締める。
「…そうしたら、この子は少しでも救われるのかな」
「ああ。救われるさ。誰にも愛されないことがどんなに辛く悲しいことか、おまえは知ってるだろう?アイラ」
バスケットの中身ーー布に包まれたそれが、手を出す。つい、手を伸ばしてみる。
力強く握り返された。
「…そうだね」
もう。後ろめたいことは考えないようにする。
これからは、キミの幸せについて考えよう。
大丈夫。私がキミを一人になんかしないから。
私が、このか弱い存在を守るんだ。
新たな命の誕生の知らせ。
けれど……。
次の瞬間。悲鳴が響いた。
暫くして、小さな女の子が自分よりも大きなバスケットを大事そうに抱えて家を出て、走り出した。
黒いフードを目深に被った少女が問う。
「ねえさま。あの子?」
もう一人の少女は答える。
「そうよ。婆様の言う通りなら、あの子は私達の兄妹」
「…でも、生まれたばかりなのにお母さんと直ぐに引き離されちゃうなんて、可哀想だよ」
「そうね。でも、このままじゃあの子も、あの子の両親もみんな幸せにはなれないわ。さ、私達も行くわよ」
二人の影が、夜道に消えた。
女の子は、街の小さな教会の前で立ち止まった。懐から一枚の紙を取り出して、バスケットの中にそっと差し込み、バスケットの中身に「ごめんね…」と呟くと、意を決してトントントンと力強くドアをノックしてから、走って帰って行った。
そのドアが開く前に、先程の影がバスケットごと攫って行った。
「ふぅ。危なかったね、ねえさま」
「うん。帰ろう」
私達の家に。
そうして二人は月が照らす光の中、姿を消した。
***********
嘆きの森ーーそう呼ばれている森の奥に、淡い光を放つ水晶が存在する。
それらは昔、タイムリープの能力によって恋に破れた魔女の涙が結晶化したものだと言われている。その結晶には、タイムリープの能力を無効化する力があり、特に力が暴走しやすい幼少期は、水晶を加工した首飾りを身に付けたり、水晶の近くで育てられる。
私達の場合は。
「婆様。攫ってきた」
森の中の自分達の家に帰ってくると。
真っ先にバスケットを老婆に渡す。
「またおまえはそんな事を…」
老婆は宥めるように言う。
「だって、許可なく連れてきたんだよ。立派な誘拐でしょう?」
バスケットの中身に対して。ずっと、「ごめんね」しか思ってなかったんだ。
「…そう思うのなら。おまえがこの子を親の分まで愛してあげなさい」
どうせ、元の家には返せないんだ。
ぎゅっと、拳を握り締める。
「…そうしたら、この子は少しでも救われるのかな」
「ああ。救われるさ。誰にも愛されないことがどんなに辛く悲しいことか、おまえは知ってるだろう?アイラ」
バスケットの中身ーー布に包まれたそれが、手を出す。つい、手を伸ばしてみる。
力強く握り返された。
「…そうだね」
もう。後ろめたいことは考えないようにする。
これからは、キミの幸せについて考えよう。
大丈夫。私がキミを一人になんかしないから。
私が、このか弱い存在を守るんだ。
131
あなたにおすすめの小説
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ヒロインの味方のモブ令嬢は、ヒロインを見捨てる
mios
恋愛
ヒロインの味方をずっとしておりました。前世の推しであり、やっと出会えたのですから。でもね、ちょっとゲームと雰囲気が違います。
どうやらヒロインに利用されていただけのようです。婚約者?熨斗つけてお渡ししますわ。
金の切れ目は縁の切れ目。私、鞍替え致します。
ヒロインの味方のモブ令嬢が、ヒロインにいいように利用されて、悪役令嬢に助けを求めたら、幸せが待っていた話。
捨てられた妻は悪魔と旅立ちます。
豆狸
恋愛
いっそ……いっそこんな風に私を想う言葉を口にしないでくれたなら、はっきりとペルブラン様のほうを選んでくれたなら捨て去ることが出来るのに、全身に絡みついた鎖のような私の恋心を。
笑わない妻を娶りました
mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。
同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。
彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。
逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?
魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。
彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。
国外追放の系に処された。
そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。
新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。
しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。
夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。
ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。
そして学校を卒業したら大陸中を巡る!
そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、
鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……?
「君を愛している」
一体なにがどうなってるの!?
初恋にケリをつけたい
志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」
そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。
「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」
初恋とケリをつけたい男女の話。
☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる