悪役令嬢の末路

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燃えて、なくなれ【5】

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 の服は、彼の家の地下室に保管してあった。

 「どうかな…?」
 「これ、私の服だわ…」
 「本当に⁉︎」
 「ええ」

 確信に変わる。
 やっぱりここは、私の故郷なんだ。
 そう実感すると、何か胸の中にストンと落ちて…。
 刹那、森に火をつけた人がこの人の父親だと思い出して、私は…。

 「父を許して欲しいとは言わない。だけど、君に憎しみの心を持っていて欲しくない」
 森に火をつけた奴の息子の言うことなんか聞きたくない!…そう思ったのに、彼の瞳から目が離せかなった。
 彼の目は哀れみではなく、本気で私を心配している目だった。彼と目が合った瞬間、怒りは消えてしまった。

 彼は、自分の父が森を燃やし、私の家を燃やし消してしまったことを深く恥じていた。
 まだ森には住めないから…と、カルロスは森に一番近い離れに私を住まわせてくれた。
 

 「怒って、いいんだよ」

 離れに住みはじめた初日、カルロスは重い口を開くように、一言、ぽつりとこぼした。
 カルロスのその言葉で、私の抑えていた胸のつかえが壊れてしまった。
 ーー静かに、悲しみが流れていくようだった。
 涙を流す私を、カルロスはそっと抱きしめてくれた。その温かさに安心して、さらに涙が溢れてしまい、彼を慌てさせてしまった。
 けれど、それから徐々にまた口を開けるようになっていった。
 今日の天気、ご飯の味、どれも何気ないことなのに、カルロスと話すと、なぜか楽しくて。
 彼の傍はとても居心地が良かった。
 ただ、彼は一日中離れにいてくれるわけではない。
 昼間は外に出ていて、何をしているのかは知らない。カルロスも、自ら話そうとはしない。私も踏み込んでまで聞くことはしない。
 
 表面上はなんとか繕っているが、私たちの溝はまだまだ深い。
 

*******


 「どこを見てるんだ?」

 窓から離れを見ていると、後ろからカルロスの侍従であり、幼馴染のリストが尋ねた。
 
 「何でもない」
 「何でもないことないだろう?知ってるんだぞ、離れに誰か匿ってるの」

 リストは小声で私に耳打ちをする。

 「………」
 「それに、俺に食料の調達させて、それをお前が離れに持っていっているのも確認済みだ」
 「そこまで知ってるなら…」
 「俺は、お前の侍従だ。何か危ないことに首を突っ込もうとしているなら見過ごせない」
 「私が今やろうとしていることは、もし父上にバレたら今の立場が危うくなることかもしれないな」
 「だったら…!」
 「でもやめない。リスト、これ以上離れに住んでいる方の詮索はしないでくれ。そして、この事を誰かに話したら…わかってるな?」

 カルロスの真っ直ぐな瞳に射抜かれ、リストは口をつぐんだ。

 「…わかったよ。けど、一人で抱え込むな。俺はいつだってお前の味方だってこと、忘れるなよ?」
 「ああ、わかってる。ありがとう」


 カルロスはまた離れに視線を向けた。
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