6 / 68
それから【4】
しおりを挟む
公爵家の使用人たちは、流石に分を弁えているのか、私の前では(私を)貶したり、毒を吐くことはしなかった。
それでも、私と彼らとには線引きがされていて、なんだか悲しい。
そんな頃だった。
私は図書室に本を返しに向かう途中、使用人たちの休憩スペースの前を通ろうとした際に、声が聞こえた。
「知ってる?奥様、嫁いでくる前は社交界で悪い噂が立っていたんですって」
話題は私のようで、一瞬ひやりとした。
「まぁ。でも、小言も言わないし、私達使用人にもお礼言ってくれるし、いい奥様だと思うけど?」
「そうよね。噂では旦那様とリリシア様の恋仲を引き裂いた悪女とか言われてるけど、元々旦那様とリリシア様は恋仲でもないし。一体どんな性格の歪んだご婦人が噂を並べたのかしら。きっと奥様は毎晩枕を涙で濡らしていたに違いないわ!お可哀想に…」
「まぁまぁ。一応お二人は幼馴染だし、身分も釣り合うからどう?って話はあったけど、結局旦那様は断ってしまわれて、今は愛すべき奥様を迎えられたのだからいいじゃない。奥様はもう社交界には出られていないのでしょう?噂で心を傷つけられなくなっただけよかったのではない?」
「そうだけど……。やっぱり噂を流したご婦人は一回しめなきゃ気が済まないわ」
「いいかげん落ち着きなさいって。大丈夫よ、奥様なら旦那様が守ってくださるわ。そのために妻に迎えられたのでしょう?」
使用人の一人から、意味不明な言葉が出てきた。
「そうそう!あれはびっくりしたわよねぇ。リリシア様の縁談を蹴ったと思ったら、奥様と結婚させてくださいってご隠居様に土下座だもの。長期間による旦那様の説得に、ご隠居様もぽっきり折れちゃって、愛の深さを感じたわ。でも、もしかしたら噂の元はここから成るのかもしれないわね。旦那様、美丈夫だし、大層おモテになるようだから」
いつの間にか、使用人たちの声は聞こえなくなって、頭にお父様の声がぐるぐると駆け巡っていた。
「いいかいアイラ。これは政略結婚。互いの利益だけを目的とした、愛など存在しない結婚なんだ。ごめんな、アイラ…」
何が嘘で、何が本当なのか、わからなくなってしまった。
それでも、私と彼らとには線引きがされていて、なんだか悲しい。
そんな頃だった。
私は図書室に本を返しに向かう途中、使用人たちの休憩スペースの前を通ろうとした際に、声が聞こえた。
「知ってる?奥様、嫁いでくる前は社交界で悪い噂が立っていたんですって」
話題は私のようで、一瞬ひやりとした。
「まぁ。でも、小言も言わないし、私達使用人にもお礼言ってくれるし、いい奥様だと思うけど?」
「そうよね。噂では旦那様とリリシア様の恋仲を引き裂いた悪女とか言われてるけど、元々旦那様とリリシア様は恋仲でもないし。一体どんな性格の歪んだご婦人が噂を並べたのかしら。きっと奥様は毎晩枕を涙で濡らしていたに違いないわ!お可哀想に…」
「まぁまぁ。一応お二人は幼馴染だし、身分も釣り合うからどう?って話はあったけど、結局旦那様は断ってしまわれて、今は愛すべき奥様を迎えられたのだからいいじゃない。奥様はもう社交界には出られていないのでしょう?噂で心を傷つけられなくなっただけよかったのではない?」
「そうだけど……。やっぱり噂を流したご婦人は一回しめなきゃ気が済まないわ」
「いいかげん落ち着きなさいって。大丈夫よ、奥様なら旦那様が守ってくださるわ。そのために妻に迎えられたのでしょう?」
使用人の一人から、意味不明な言葉が出てきた。
「そうそう!あれはびっくりしたわよねぇ。リリシア様の縁談を蹴ったと思ったら、奥様と結婚させてくださいってご隠居様に土下座だもの。長期間による旦那様の説得に、ご隠居様もぽっきり折れちゃって、愛の深さを感じたわ。でも、もしかしたら噂の元はここから成るのかもしれないわね。旦那様、美丈夫だし、大層おモテになるようだから」
いつの間にか、使用人たちの声は聞こえなくなって、頭にお父様の声がぐるぐると駆け巡っていた。
「いいかいアイラ。これは政略結婚。互いの利益だけを目的とした、愛など存在しない結婚なんだ。ごめんな、アイラ…」
何が嘘で、何が本当なのか、わからなくなってしまった。
615
あなたにおすすめの小説
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ヒロインの味方のモブ令嬢は、ヒロインを見捨てる
mios
恋愛
ヒロインの味方をずっとしておりました。前世の推しであり、やっと出会えたのですから。でもね、ちょっとゲームと雰囲気が違います。
どうやらヒロインに利用されていただけのようです。婚約者?熨斗つけてお渡ししますわ。
金の切れ目は縁の切れ目。私、鞍替え致します。
ヒロインの味方のモブ令嬢が、ヒロインにいいように利用されて、悪役令嬢に助けを求めたら、幸せが待っていた話。
捨てられた妻は悪魔と旅立ちます。
豆狸
恋愛
いっそ……いっそこんな風に私を想う言葉を口にしないでくれたなら、はっきりとペルブラン様のほうを選んでくれたなら捨て去ることが出来るのに、全身に絡みついた鎖のような私の恋心を。
笑わない妻を娶りました
mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。
同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。
彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。
逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?
魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。
彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。
国外追放の系に処された。
そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。
新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。
しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。
夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。
ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。
そして学校を卒業したら大陸中を巡る!
そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、
鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……?
「君を愛している」
一体なにがどうなってるの!?
初恋にケリをつけたい
志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」
そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。
「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」
初恋とケリをつけたい男女の話。
☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる