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3章 文化祭まで一週間

かかって来いや前髪斜め!!

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 はぁ……はぁ……
 く、苦しいっ!さすがに駅まで走り続けんのは無理っ!

 俺は茜を追ってずっと走ってたけど、途中でスタミナ切れて息を整えながら歩き出した。
 結局駅着くまでに見付けらんなかったな。

 電車の時間とか良く分かんねぇけど、もう出発しちゃったとかねぇよな?それアウトだろ。
 とりあえず駅の中探してみっか。


「ん?」


 俺は駅の中に入る途中で、コインロッカーが置かれた側にある路地で城山の制服を着てる二人を見つけた。
 そこは人通りが少なくて、誰かがいるのが不自然なぐらい。
 人違いだったら悪いから顔を見ようとそーっと近付いてみる。
 ゲッ!てか抱き合ってね!?気まずいだろオイ!てかそんなとこでいちゃついてんじゃねぇよ!俺と伊織みてぇになるぞ!?
 一人は背の高い、背中まで伸びた黒髪で、もう一人は同じく黒髪で、身長は俺ぐらいの……って、茜が誰かとあんなとこで抱き合う訳ねぇよな。
 そんな事したら桃山が黙ってねぇしな。
 ん?桃山?

 
「待て待て?あの後ろ姿、桃山か?」


 背が高くてひょろっとした後ろ姿。抱き締める相手を隠すように大事そうにしている。
 て事はその大事そうに抱かれてるのって、茜?

 ここからじゃ顔が見えないからもう少し近付こうと静かに歩み寄ると、抱かれてる方がパッと顔を上げた。
 そいつは見て分かるぐらいの作り笑顔で必死で背の高い男を見上げていた。


「茜!!」


 俺が茜だと確認して、名前を呼ぶと、ハッとして桃山を突き離してこちらを見て来た。
 やっぱり茜だ!やっと見つけた!


「あ、秋山っ」


 俺が茜に近付こうと歩き出すと、茜に突き離された桃山がゆらっと動いて次に右手に拳を作り、それを俺に向かって真っ直ぐに飛ばして来た。
 俺は咄嗟に右腕でガードしてそれを直で受ける。
 ううっ!腕がビリビリする!


「犯人はテメェか貴哉」

「何言ってんだよ!?」

「湊やめろ!何してんだ!」


 俺は桃山に向き直って次の攻撃に備える。
 俺も喧嘩には自信があった。ガキの頃から殴り合いはして来たし、中学ん時も楓と一緒にムカつく先輩や生意気な他校の奴らと喧嘩して来たからな。
 でも高校入ってからは全くと言っていい程やってない。だから今どれだけ動けるかは分からなかった。それに、桃山がヤバい奴だってのも知ってるし、さっきの一撃喰らって分かる。
 こいつ強いってな。


「いくら貴哉でも許さねぇよ?お前の事は好きだけど、茜のが大事だ」

「チッ!やってやらぁ!かかって来いや前髪斜め!!」


 訳が分からねぇけど、とにかく桃山はキレてるって事だ。こうなったらぶん殴って黙らせてやる!
 
 俺が挑発すると、桃山はクルッと後ろを向いて勢い良く回し蹴りをかまして来た。俺はさっきのガードと同じく両腕で壁を作って飛んで来た長い足を受け止める。
 今度はさっきより重くて後ろによろけちまった。腕痛ぇなぁ!こいつこんなヒョロイ癖にどこにこんなパワーあるんだよ!


「いってぇ!!」

「秋山っ!」

「茜は下がってろ!俺がこいつ黙らせてやる!」

「いいね~♪貴哉、初めてじゃねぇな?」

「ふんっ俺は喧嘩で負けるのは嫌いなんだよっ!」


 攻撃を受けてばかりじゃ勝てねぇのは分かってる。でも、こいつの動きだと普通の殴り合いじゃ体格差で不利になる。だから次に桃山が来た時に決める!


「桃山、もう一回来い!」

「言われなくても!」

「二人ともやめろ!!」


 茜が止める声が聞こえるけど、俺は桃山に集中していた。じゃなきゃこいつは倒せねぇ。
 桃山は今度は右ストレートで来る動きを見せた。俺はしっかり桃山の腕を見てそれをガードはせずにヒョイッと横にズレて交わしてすかさずその桃山の腕をギュッと掴んだ。
 よし!捕まえた!
 そのまま俺はガッシリ桃山の腕を両腕で掴んだまま自分の体を桃山の後ろに持って行き、背中合わせの体勢まで持ち込む事が出来た。
 そしてしっかり掴んだ桃山の腕を思い切り引いて桃山を持ち上げるように前に引っ張る!
 背高くて体重軽そうな奴用の技!背負い投げだぁ!


「うえっ!?背負い投げぇ!?貴哉お前なんつー技持って……」

「湊!!」

「だぁぁぁ!!」


 俺は叫び声と共に桃山を地面に投げ付けてやった。桃山が思ったより軽かったのと、俺相手で油断していたのでちゃんと投げる事が出来た。
 
 背後から投げられた桃山は頭を守るように肩から地面に落ちた。
 地面はコンクリートだったから心配だったけど、どうやら桃山は受け身を取ったらしく、頭から落ちる事は無かったようだ。まぁ桃山ならそうすると思ったからやったんだけどな。
 

「いたた……肩打った~」

「湊!大丈夫か!?」


 地面から起き上がり、打った方の肩を押さえる桃山に、すぐに茜が駆け寄っていた。
 これで桃山が大人しくなればいいけど。


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