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1章 二学期中間テスト
秋山くん、自己紹介をする意味を理解していますか?
しおりを挟むそして翌週月曜日の朝、俺と伊織は教頭と約束した通り、朝早くから第二会議室へ来ていた。
いつもより早く起きたからまだ眠い。起こしに来た伊織に俺がブーブー言うと、「まだ週一だから良かったじゃん」と言われたから、確かに毎日よりはマシと言い聞かせて黙って伊織の後を付いて来た。
第二会議室の椅子に座りながら二人で待ってると、ニコニコ笑顔の教頭が機嫌良さそうに入って来た。相変わらず目は開いてるのか分からないぐらい細い。
「おはよう!二人共揃ってるね♪」
「おはようございます」
「……うす」
「おや?秋山くん体調が悪いのかな?」
「何かダルい」
「貴哉はいつもより早く起きたから不機嫌なだけですよ」
俺の代わりに伊織が言うと、教頭はニコニコ笑っていた。
「朝が苦手な子っているよね。でも秋山くんは遅刻をしなくなったんだろ?やれば出来るんだからこの調子で慣れて行きましょうね」
「ん」
「さて、二人共!今日が僕の特別授業初日になるけど、まずは改めて自己紹介をします。僕は阿部権次郎と言います。今は城山高校で教頭を務めさせていただいてます、元々教師として歴史を教えていました。趣味は映画を観る事です。とまぁ僕の事はこんな感じかな。二人にも自己紹介をしてもらいたいんだけど、二年生の桐原くんからお願い出来るかな?」
「はい。桐原伊織です。城山高校二年B組。趣味は読書と買い物です。良く休みの日とかは好きな服やアクセサリーなどを見に行きます。特技はスポーツ。特にウィンタースポーツが好きです」
「おおー、スキーとかスノーボードとかやるのかい?僕も若い頃はスキーにハマりましたよ」
「はい。友人の香山那智とは毎年雪山に滑りに行ってます。先生も今度一緒にどうですか?」
「いや~!僕はもう体がついて行けませんよ~。じゃあ今度は秋山くん、お願い出来るかな?」
二人の会話をボーッと聞いていた。
指名されたから俺も伊織みたいに自己紹介をする事にした。
「秋山貴哉。一年A組。趣味は寝る事。以上!」
「あは、貴哉らしい自己紹介だな~。ボラ部入って来た時よりはマシになってんじゃん」
隣に座ってる伊織に笑われたけど、教頭はニコニコ笑顔のまま俺の事をじっと見ていた。え、伊織の時みたいな感想は言ってくんねぇの?
「秋山くん、自己紹介をする意味を理解していますか?」
「え?」
「相手に自分の事を知ってもらうのは勿論の事、相手にとって自分は価値があるかどうかを知ってもらう機会でもあるのですよ」
「自分の価値?」
「そうです。今の二人の自己紹介を比べると、断然桐原くんの方が好印象に見えます。自己紹介の内容だけでなく、表情や態度、姿勢なども含めてです。仮に僕が採用枠が一つしかない学校や就職先の面接官だったら間違いなく桐原くんを選びます」
え?え?え?
ダメ出しされた?
教頭が言ってる事は理解出来るけど、何か今日の教頭厳しくね?
「そうですね、秋山くんには来週また自己紹介をしてもらいましょうか。今度は僕にきちんと秋山くんの事を教えて下さいね。桐原くんの自己紹介は問題ないので引き続き中間テストの方頑張って下さい。では今日はこの辺で終わりにしましょう。二人共朝早くにご苦労様でした」
「ありがとうございました」
「…………」
教頭はニコニコ笑顔のまま、俺達を残して第二会議室から出て行った。
じ、自己紹介をやり直ししろだと!?そんなの初めてだぞ!ちゃんと名前言ったじゃねぇか!趣味も言ったし!何がいけないんだよっ!
「貴哉~?教室行こうぜ~?」
「なぁ!俺の何がいけなかった!?」
「んー、まず態度じゃね?相手が目上の人の場合、敬語で話すのは基本だし、教頭が言うにはもっと貴哉の事が知りたいみたいだから、もう少し長く自己紹介した方が良いかもな」
「態度……敬語……もう少し長く……んんー」
「どれも貴哉には難しいのかもな。俺が練習相手になってやるから頑張ろうぜ♪」
「……おう」
俺のいけない所は分かった。
けどよ、何かショックだったんだ。
優しいと思ってた教頭にあんな風に本気でダメ出しされた事が。担任の玉山とかに言われても全然なんとも思わねぇのに、何だろこの心が擦りむいたようなモヤモヤ感は。
それと、あの人を怒らせたらダメな気がした。
そんな感情も母ちゃん以外には初めてだから俺のショックはデカかった。
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