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1章 二学期中間テスト
消毒して絆創膏貼ってあげる
しおりを挟む体育の授業中、サッカーをしている時に事件は起こった。どうやらボールが誰かの顔面に当たってそいつが倒れたらしい。
サッカーボールを顔面に食らうとかどんなマヌケだと思ってたら、なんと倒れていたのは空だった。周りにいた奴らが囲んで様子を見ている中、体育教師が入って行って、空がゆっくり体を起こした。
あれ、俺ホッとしてる?
いや、人が怪我して無事だったんだから当たり前だろ?うんうん。俺は普通だ。
「空くん最近ボーッとしてる事多いよね~」
授業が一時中断されたから近くにいた直登に声を掛けられた。
確かに空はあんま誰とも話さねぇでスマホいじってたりするけど、そんなボーッとしてたかな?
「そうか?たまたまじゃね?」
「球技大会で準優勝までした人がボールを顔面に食らうと思う?あれは恋だな!」
「恋ぃ?」
「きっと新しく好きな人が出来てその人の事でも考えてたんじゃない?空くんアホだからさ~」
「え、空って好きな奴出来たのか?」
「さぁ?でもさ、あの空くんだよ?最近ずっとスマホいじってるし、出来ててもおかしくはなくない?」
「…………」
それは考えてなかった。直登が言うように初めの頃の空はいつもスマホいじって誰かしらとやり取りしてたよな。電話してる姿も見た事あるし。
俺と付き合ってからはなくなったけど、今は別れたし、またそうなっててもおかしくはねぇか。
そっか。空も他の奴を好きになったのか。
正直複雑な気持ちだった。
空には幸せになってもらいたいって気持ちもあるけど、何となく素直におめでとうって言えない気持ちがあった。
「あ、空くん保健室行くみたいだな。てかモロに顔面だったけど、大丈夫かなぁ?頭じゃなくて良かったね~」
体育教師に支えられながら立ち上がり、自分の足で校舎へ向かって行く空。フラフラだけど、大丈夫かぁ?
心配だったけど、俺が行くのもアレだよな。
体育の授業が再開されたけど、俺はモヤモヤしたままだった。いやいや、自分で歩いてたじゃん。絶対無事じゃん。なのに何でこんなに空がどうなったか不安なんだよ。
もう俺には関係ないのにっ!考えても無駄なのにっ!
空はもう他の奴を好きなのにっ……
「あー!秋山危ない!」
「ああ!?」
考え事してたら俺の名前を呼ぶ声がして睨みながら振り向くと、すぐ目の前が暗くなり、一瞬小さい星が見えた。気がした。
え?何?何が起こった?てかいってぇ!
顔の左側がめちゃくちゃ痛ぇ!!
「貴哉も顔面に食らったー!!」
あ、直哉の声だ。
そっか、俺、顔面にボール食らったのか。
はは、空の事言えねぇじゃん。
俺もマヌケだったわ。
だけど、空みたいには倒れねぇ!俺はその場に踏ん張って何とか立っている事に成功した。
そして……
「ってぇなぁ!誰だボール蹴った奴!」
「ひぃぃ!!」
すぐに怒りが込み上げて来たから犯人探しを始める。犯人らしき男が小さく悲鳴を漏らしたけど、体育教師が入って来たから睨むだけで終わった。
あー、時間が経ってどんどん痛くなって来やがった!え、空は倒れてたけど、もっと痛かったんじゃね?サッカーボールって結構重いのな。ちょ、顔変形してるかもなコレ。
「秋山、大丈夫か?早川もだが、怪我が増えてるから気を付けろ」
「はぁ、顔洗って来ていい?ジンジンするから冷やしたい」
「ああ、一人で行けるか?」
「うん行ける」
体育教師に許可を取って外にある水道まで来た。
そこでバシャバシャと顔を洗う。俺は顔の左側がどうなってんのか気になったからどこかに鏡がねぇか探した。そして通りかかった教室の前で足を止める。保健室だ。窓が開いていて、カーテンが風で揺れていた。
空、いるかな?
外から保健室の中を覗くと、誰もいないのかシンとしていた。なんだ、空いねぇのか。
俺は保健室の中の小さい水道のとこに鏡があるのを見付けて、靴を脱いで靴下のまま窓から中に入った。
そして鏡を見てギョッとした。なんと、頬のとこから血が出てたんだ。しかもさっき水道で顔洗って拭かずにそのままだから水と共にダラダラと頬を伝っていた。うわっ体操着に血ぃ付いてんじゃん!
「くそー!これ落ちるんかよ!?絶対母ちゃんに喧嘩したと思われるじゃん!」
一人でボソボソ言ってると、ベッドの方からギシッと音がして、慌てて振り向くと空がベッドに座っていて、そこからこちらを見ていた。
えっ!いたの!?
「ビックリしたー!お前いたのか!」
「驚いたのはこっちだよ。それ、どうした?」
空はベッドから立ち上がり俺の近くまで来て傷を見られた。うっ空の後すぐに俺も顔面にボール食らったなんて、すげぇ言いにくいぞ!
「サッカーで怪我したんだっ」
「……消毒して絆創膏貼ってあげる」
空は薄く笑って救急箱を漁り始めた。
俺は傷の事よりも空が普通に話してくれてる事に気が行っていた。
空と話すの久しぶりだな。
空は本当に手当てをしてくれた。消毒は染みたけど、俺は大人しく終わるまで待っていた。
その間に空の顔を見ると、顔面にボールぶつけた割には意外と普通だった。何だよこの差は?
「なぁお前は怪我してねぇの?ボールぶつかってたよな?」
「ああ、おでこが腫れたよ」
そう言って前髪を掻き上げて見せて来たデコは確かに赤くなっていた。
ああ、顔面じゃなかったのか。
「って、頭に当たったのかよ?大丈夫なのか?」
「一瞬クラッとしたけど、今は平気。俺よりも貴哉のが重症そうだけど、どうやって怪我したんだ?転んだ?」
「ま、まぁそんなとこ!」
話しながら最後に絆創膏を貼って空からの俺への手当ては終わった。まさかボールで顔を擦りむいて血を出すなんてな。ほんとガキかよ。
「はい、終わったよ。お互い気を付けような」
「ん。サンキュー」
「…………」
「…………」
うわ、お互い黙っちまったよ。気まずいなぁ。
てか俺は顔洗うとしか言ってねぇし戻った方がいいよな。
俺が立ち上がると、空は黙って見ていた。
俺を見る空の顔はどこか寂しそうで、何かを言いたそうな顔だった。
「空?」
「……貴哉は今幸せ?」
「ん、まぁそれなりに」
空は?って聞こうとしてやめた。
その質問は俺からしたら行けない気がしたからだ。
そもそも空からの質問に答えたらダメだったんだ。何も話さずに立ち去るべきだった。
じゃないと俺はまた空を傷付けちゃう気がしたから。
「なら良かった」
「なぁ、空」
「んー?」
「何でボーッとしてたんだ?」
「何でだろうな。多分何か考えてたんだろうな」
自分の事なのに、まるで他人事のように言う空に俺はどう反応したらいいのか分からなくて、「そっか」と軽く笑っていた。
多分、この時もう少し話を聞いてやれば良かったんだ。前みたいに話していれば、空が何でボーッとしていたのか、今何を考えているのか分かったんだ。
でも今の俺はそのまま立ち去る事しか出来なかった。
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