93 / 212
第6章 魔族の国
第37話 国内問題
しおりを挟む
「エリーシアは、明日から妖精族の国に向かってくれるかい」
「はい、リビティナ様」
「エルフィは一緒に馬車に乗って道案内を頼むよ。途中にある生まれ故郷の村に立ち寄ってくれていいからさ」
「そうね、このルートなら故郷を通過するわね。いいわよ。道案内なら、あたしに任せなさい」
宿に戻り、今後の予定を確認していく。妖精族のミシュロム共和国に入る道は少なく、このキノノサト国から入るのが一番近い。
「ミシュロム共和国は山と海に囲まれていますからね。国境を越える街道も、この国への一本だけじゃないでしょうか」
エリーシアの言うように、他国とはあまり国交を持たない妖精族。ノルキア帝国と国交はあるようだけど、商売用の交易路はないようだね。
「まあ、ボク一人なら山脈を越えて入って行けるんだけど、そうもいかないしね」
エリーシア達は、ここから州都のアルスヘルムまで馬車で一ヶ月ほどかけて行くことになる。
「リビティナ様。ミノエルを里に連れて帰っていただけないでしょうか。これからは北方の地、寒くなりますので」
「そうだね。ここまで二十日の馬車の旅だったし疲れも出てくる頃かな」
ここまでの旅は楽しかったと言っていたけど、この先もとなると辛いかもしれないね。里では学校の先生をしているセリアーヌ夫人の家でお世話になるよう話ができているそうだ。
「それじゃ、ネイトスと一緒に里に連れて帰るようにするよ」
エリーシアと言葉を交わしていたら、傍に控えていた護衛の鬼人族の二人が話に入って来た。
「あの、リビティナ様。よろしいでしょうか」
この二人はリビティナに忠誠を誓って、今では様付で呼ぶようになっている。
「家族の者が魔国に移住したいと言っています。入国の許可をいただけないでしょうか」
「それはいい事じゃないか。今まで家族と離ればなれだったんだろう。里に近い場所の方がいいかな」
眷属じゃなくて移住だから、魔国内の村か町に住むことになる。
「この城下町と同じような所が良いと思います。首都のヘレケルトスに住まわせるつもりです」
都会で住んでいたから、店なども多く便利な首都がいいらしい。建国前、帝国に帰って行った住民の空き家も多いから家はすぐにでも見つかるよ。家族とは手紙でやり取りしていたらしく、移住の準備はできているそうだ。
「じゃあ、帰りに国境検問所に寄って、入れるように手続きしておくよ」
「かたじけない」
二人は護衛でエリーシアに付いて行くけど、その間に移住は済んでしまうようだね。魔族の国だと言って毛嫌いせずに、どんどん移住者が増えてくれるといいんだけど。
エルフィには州都に入る日が決まったら手紙を寄こすようにと言って、翌朝里に向かう。
「ミノエル。里では迷惑にならないようにするのですよ」
「はい、母様」
ミノエル君は言い聞かされているのか、寂しがる様子も見せずにリビティナの腕に抱かれる。
「ミノエル君。空を飛ぶのは怖くないかい」
「リビティナ様と空を飛ぶの好きだよ」
「それはいいね。ネイトスにも見習ってもらいたいものだよ」
エリーシアとエルフィに見送られ、里に向かって飛び立つ。
夕方前には里に到着し、長旅から帰って来たミノエル君は久しぶりの里にホッとした表情を見せている。やっぱりこの里の方がいいみたいだね。そんなミノエル君をセリアーヌ夫人宅へと連れていく。
「リビティナ様、お疲れ様でした。ミノエル君はこちらで預からせていただきます」
「それじゃ、よろしく頼むよ」
「あの、リビティナ様。何やらお城から連絡がありまして、手紙をお屋敷に届けています」
「そうなのかい。移住者の事で明日にはお城に行こうと思ってたから、ちょうどいいや」
ネイトスと家に戻り手紙を見てみると、いくつかの町で魔獣による被害が多くなっているようだね。
「魔国に残らず帝国に帰って行った住民が多い町は、元の半分以下の人口になってますからな」
そのために村や町の統合を行なっている最中だ。魔獣討伐に冒険者も手伝ってくれているけど、手が回らない状態のようだね。少し手伝わないといけないかな。
「状況を聞いてアドバイスしてくるよ」
「俺も一緒に行きましょうか」
「いや、ネイトスはこの里に居てくれたらいいよ。お城には賢者として行くだけだからね」
ここ連日の外交交渉でネイトスも疲れているだろうからね。エルフィから連絡が来るまで二十日はかかるし、それまでゆっくりしてくれたらいいよ。
翌朝。ネイトスに見送られて家を飛び立つ。この里からお城までは二時間程、今からならちょうどお城で仕事を始める頃になるかな。
「リビティナ様。来ていただき、ありがとうございます」
「相変わらず忙しそうだね。ブクイット」
「建国したばかりですからな。じゃが充実しておりますよ」
二人の息子と共に、国の立ち上げに関われて毎日が楽しいようだね。執務室で現状などを聞く。
「国境の警備を王国の兵士に任せておりますので、我が国の兵士を町の再編や治水工事に従事させております」
村や町の統合などが進めば、住民の一部を徴兵して、各地で魔獣を倒す訓練や水路の工事に従事してもらう予定だ。
「それまで人手不足は仕方ないでしょうな。まずは安心して住める場所を確保せん事には」
この世界、人同士の戦争よりも魔獣の脅威の方が大きい。兵士を一ヶ所に集めず各地区でその脅威に備える必要がある。
「このヘレケルトスは、生活が安定しておりますから、既に徴兵を行なって、魔法や剣の訓練をしております」
「じゃあ、その人達に村や町を守る土塁を作ってもらおうか」
「土塁……土の堤防ですな。それで魔獣から村を守ろうと……。しかし時間がかかりますぞ」
通常、小さな町や村に城壁は無く、村の周りは木の柵で囲まれているだけだ。 土塁を村の周辺に築くだけで魔獣は入ってこれなくなる。人力だけだと時間がかかってしまうけど、上手くやる方法があるんだよ。
「実際にやってみたら分かると思うよ。兵士達を集めてくれるかな」
「はい、リビティナ様」
「エルフィは一緒に馬車に乗って道案内を頼むよ。途中にある生まれ故郷の村に立ち寄ってくれていいからさ」
「そうね、このルートなら故郷を通過するわね。いいわよ。道案内なら、あたしに任せなさい」
宿に戻り、今後の予定を確認していく。妖精族のミシュロム共和国に入る道は少なく、このキノノサト国から入るのが一番近い。
「ミシュロム共和国は山と海に囲まれていますからね。国境を越える街道も、この国への一本だけじゃないでしょうか」
エリーシアの言うように、他国とはあまり国交を持たない妖精族。ノルキア帝国と国交はあるようだけど、商売用の交易路はないようだね。
「まあ、ボク一人なら山脈を越えて入って行けるんだけど、そうもいかないしね」
エリーシア達は、ここから州都のアルスヘルムまで馬車で一ヶ月ほどかけて行くことになる。
「リビティナ様。ミノエルを里に連れて帰っていただけないでしょうか。これからは北方の地、寒くなりますので」
「そうだね。ここまで二十日の馬車の旅だったし疲れも出てくる頃かな」
ここまでの旅は楽しかったと言っていたけど、この先もとなると辛いかもしれないね。里では学校の先生をしているセリアーヌ夫人の家でお世話になるよう話ができているそうだ。
「それじゃ、ネイトスと一緒に里に連れて帰るようにするよ」
エリーシアと言葉を交わしていたら、傍に控えていた護衛の鬼人族の二人が話に入って来た。
「あの、リビティナ様。よろしいでしょうか」
この二人はリビティナに忠誠を誓って、今では様付で呼ぶようになっている。
「家族の者が魔国に移住したいと言っています。入国の許可をいただけないでしょうか」
「それはいい事じゃないか。今まで家族と離ればなれだったんだろう。里に近い場所の方がいいかな」
眷属じゃなくて移住だから、魔国内の村か町に住むことになる。
「この城下町と同じような所が良いと思います。首都のヘレケルトスに住まわせるつもりです」
都会で住んでいたから、店なども多く便利な首都がいいらしい。建国前、帝国に帰って行った住民の空き家も多いから家はすぐにでも見つかるよ。家族とは手紙でやり取りしていたらしく、移住の準備はできているそうだ。
「じゃあ、帰りに国境検問所に寄って、入れるように手続きしておくよ」
「かたじけない」
二人は護衛でエリーシアに付いて行くけど、その間に移住は済んでしまうようだね。魔族の国だと言って毛嫌いせずに、どんどん移住者が増えてくれるといいんだけど。
エルフィには州都に入る日が決まったら手紙を寄こすようにと言って、翌朝里に向かう。
「ミノエル。里では迷惑にならないようにするのですよ」
「はい、母様」
ミノエル君は言い聞かされているのか、寂しがる様子も見せずにリビティナの腕に抱かれる。
「ミノエル君。空を飛ぶのは怖くないかい」
「リビティナ様と空を飛ぶの好きだよ」
「それはいいね。ネイトスにも見習ってもらいたいものだよ」
エリーシアとエルフィに見送られ、里に向かって飛び立つ。
夕方前には里に到着し、長旅から帰って来たミノエル君は久しぶりの里にホッとした表情を見せている。やっぱりこの里の方がいいみたいだね。そんなミノエル君をセリアーヌ夫人宅へと連れていく。
「リビティナ様、お疲れ様でした。ミノエル君はこちらで預からせていただきます」
「それじゃ、よろしく頼むよ」
「あの、リビティナ様。何やらお城から連絡がありまして、手紙をお屋敷に届けています」
「そうなのかい。移住者の事で明日にはお城に行こうと思ってたから、ちょうどいいや」
ネイトスと家に戻り手紙を見てみると、いくつかの町で魔獣による被害が多くなっているようだね。
「魔国に残らず帝国に帰って行った住民が多い町は、元の半分以下の人口になってますからな」
そのために村や町の統合を行なっている最中だ。魔獣討伐に冒険者も手伝ってくれているけど、手が回らない状態のようだね。少し手伝わないといけないかな。
「状況を聞いてアドバイスしてくるよ」
「俺も一緒に行きましょうか」
「いや、ネイトスはこの里に居てくれたらいいよ。お城には賢者として行くだけだからね」
ここ連日の外交交渉でネイトスも疲れているだろうからね。エルフィから連絡が来るまで二十日はかかるし、それまでゆっくりしてくれたらいいよ。
翌朝。ネイトスに見送られて家を飛び立つ。この里からお城までは二時間程、今からならちょうどお城で仕事を始める頃になるかな。
「リビティナ様。来ていただき、ありがとうございます」
「相変わらず忙しそうだね。ブクイット」
「建国したばかりですからな。じゃが充実しておりますよ」
二人の息子と共に、国の立ち上げに関われて毎日が楽しいようだね。執務室で現状などを聞く。
「国境の警備を王国の兵士に任せておりますので、我が国の兵士を町の再編や治水工事に従事させております」
村や町の統合などが進めば、住民の一部を徴兵して、各地で魔獣を倒す訓練や水路の工事に従事してもらう予定だ。
「それまで人手不足は仕方ないでしょうな。まずは安心して住める場所を確保せん事には」
この世界、人同士の戦争よりも魔獣の脅威の方が大きい。兵士を一ヶ所に集めず各地区でその脅威に備える必要がある。
「このヘレケルトスは、生活が安定しておりますから、既に徴兵を行なって、魔法や剣の訓練をしております」
「じゃあ、その人達に村や町を守る土塁を作ってもらおうか」
「土塁……土の堤防ですな。それで魔獣から村を守ろうと……。しかし時間がかかりますぞ」
通常、小さな町や村に城壁は無く、村の周りは木の柵で囲まれているだけだ。 土塁を村の周辺に築くだけで魔獣は入ってこれなくなる。人力だけだと時間がかかってしまうけど、上手くやる方法があるんだよ。
「実際にやってみたら分かると思うよ。兵士達を集めてくれるかな」
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
105
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる