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第6章 魔族の国
第38話 村の整備
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お城の訓練場。そこには徴兵で集められた首都の住民達が基礎訓練を行なっている。現場の隊長さんと一緒にその訓練場へと赴く。
「こちらにおられる方は、魔王様に直接仕えられている賢者様だ。今日は特別訓練をしていただく。心して励むように」
訓練場には、百五十人ほどの兵士見習いが整列している。その人達を前に壇上に上がり話をする。
「各地で魔獣の被害に苦しんでいる人達がいる。ここにいるみんなは、その人達の助けになってほしい」
何をするのか描いた図を見せながら説明していく。
掘りの深さが二メートル、その土を盛り上げて二メートルの高さにする。その上に一メートル半の木の柵。この土塁をみんなに作ってもらう事になる。
「まずは見本を見せるよ」
そう言って壇上から降り、みんなに半円形の形で集まってもらう。
訓練場の地面に指先を入れて火魔法を地面の中で発動させて爆発させる。細かくなった岩や土を土魔法で持ち上げ積み重ねる。その上から水魔法で水をかけて固めれば土塁の完成だ。
それを間近で見ていた見習い兵が「おお~」と声を上げる。これは眷属の里を造り始めた頃に使っていた魔術。これで里全体を土塁で囲っている。
「でもそんな大魔術、私達にはできません」
リビティナだと一回で高さ二メートル、幅二メートルの土塁が完成するけど、一般人には無理だろうね。だけどここには魔術の得意な者、力の強い者など兵士に劣らない力を持つ者もいる。
「火魔法か風魔法を使える人はいるかな」
そう言うと何人か手を上げた。そのうちの一人に実際に地面の中で魔法を発動させてもらう。小さな爆発で一抱え程度の土が砕かれた。これは風魔法を使っても同じで地面が砕かれる状態になる。
「じゃあ次は土魔法を使える人が積み上げてくれるかな」
地面に穴を空けるほどの魔力が無くても、砕かれた土なら動かすことができる。また違う人が上から水を注いで盛り上がった土を固める。それを何度も繰り返せばいい訳だ。
「どうだい。みんなの力を合わせれば、この土塁ができるんだよ」
人それぞれ魔力量が違う。でもそれを合わせればリビティナと同じ事ができる。
魔力量に応じた部隊を編成してもらい、実際に土塁を作ってもらおう。
「これはすごいな。俺達でもこんな土の壁ができるじゃないか」
「俺は魔法が得意じゃないが、スコップで土を盛り上げたり土塁の上に打ち込む木の柵なら作れる。なるほどこれが軍の力か」
徴兵して集めた人の力で物を作り出す。戦うばかりが兵士の仕事じゃないからね。
市民達は個人でお店を開いたり、農作物を作ったりしている。組織で一つの事をする経験はあまりない。
今回は技術もそれほど要らない。慣れれば誰でもできる仕事だ。クマ族が多くて力仕事も苦にせずやってくれる。十人程の部隊で土塁が作られていくのを目にし、軍隊というものに興味を持ってくれたようだ。
いずれ武器を持って魔獣や人と戦う兵士も必要になってくるけど、もっと先でいい。今は冒険者や王国の兵士が代わりにやってくれるからね。
「さすが賢者様ですな。これなら短期間に村の防壁ができます。ここで訓練した兵を各地に派遣いたしましょう」
徴兵された兵士は三ヶ月ほどの短期間で交代していく。その間は給料が支払われて兵役に就くことになる。その力で各地の村を整備していってほしいね。
訓練を終えてお城の執務室に戻ると、ブクイットが出迎えてくれる。
「ありがとうございます。これで村の再編にめどが立てられそうです」
「実際に計画を立てたり、仕事するのは君達だからね。すまないが頑張ってくれるかい」
「はい、それはもちろん。ですがリビティナ様、北部の町で早急に対処せねばならない所が一ヶ所ありまして」
少し暗い顔をして、ブクイットが地図を見ながら説明する。
「北部の三つの村を集めて、新たにアカネイという町を作ります。しかし町周辺が森に覆われていて、獣や魔獣に畑が食い荒らされています。兵を派遣していますが、町の建設もままならず……」
なるほど、森と町を隔てるための壁が要るという事だね。
「この町だけはリビティナ様のお力を貸していただけないでしょうか」
「そうだね。この北側の平原部分に壁は要らないだろう。畑の東西と南の住居周辺に土塁を作ればいいかな」
平原に出てきた魔獣なら、矢や魔法の遠隔攻撃で倒せる。今まで通りの木の柵で十分だ。この程度なら現地の兵の力も借りれば五日ぐらいで土塁は完成しそうだ。
翌日、早速北端の町に行ってみる。
「け、賢者様! このような場所まで来ていただき。我らに何か至らない事があったでしょうか」
現地の隊長さんが恐縮してリビティナを迎えてくれる。この魔国で賢者といえば、魔王に連なる偉い人とされているからね。急に来てごめんよ~。
「いやね、ブクイットに頼まれてこの町の周囲に土塁を築こうと思ってるんだ」
兵士を集めて土塁の作り方を説明して、部隊を編成してもらう。
ここは元あった村を大きくするため、町の建設に五十人程の兵士が派遣されている。この兵士全員を一旦壁作りのために働いてもらう事にする。
「ボクは西側を受け持つよ。君達で東の壁を作っていってくれるかな」
「はい、了解いたしました。しかし賢者様お一人で西側全部をお任せして大丈夫でしょうか」
「うん、うん。大丈夫だよ。魔獣の警備も要らないから、東側をしっかりお願いするよ」
一人で作った方が気楽でいいしね。南の入り口付近から左右に分かれて土塁を作っていく。この町の住民も何か手伝う事はないかとやってくる。
やはり魔獣の被害が深刻なようだね。それだけに町を守ってくれる兵士達に協力を惜しまないのだろう。住民達には土塁の上に打ち付ける木の柵を作ってもらう事にした。
朝から夕方まで働いて、予定通り五分の一までが仕上がる。まあ、順調に進んでいるね。
「これが賢者様のお力なのですね。お食事などは私どもで作りますので、この家でお休みください」
土にまみれて町に帰って来たけど、町民に招かれて食事やベッドの用意をしてもらった。まだ明日もあるからね、今晩は美味しい食事をいただいて、ゆっくりと休ませてもらうとしよう。
「こちらにおられる方は、魔王様に直接仕えられている賢者様だ。今日は特別訓練をしていただく。心して励むように」
訓練場には、百五十人ほどの兵士見習いが整列している。その人達を前に壇上に上がり話をする。
「各地で魔獣の被害に苦しんでいる人達がいる。ここにいるみんなは、その人達の助けになってほしい」
何をするのか描いた図を見せながら説明していく。
掘りの深さが二メートル、その土を盛り上げて二メートルの高さにする。その上に一メートル半の木の柵。この土塁をみんなに作ってもらう事になる。
「まずは見本を見せるよ」
そう言って壇上から降り、みんなに半円形の形で集まってもらう。
訓練場の地面に指先を入れて火魔法を地面の中で発動させて爆発させる。細かくなった岩や土を土魔法で持ち上げ積み重ねる。その上から水魔法で水をかけて固めれば土塁の完成だ。
それを間近で見ていた見習い兵が「おお~」と声を上げる。これは眷属の里を造り始めた頃に使っていた魔術。これで里全体を土塁で囲っている。
「でもそんな大魔術、私達にはできません」
リビティナだと一回で高さ二メートル、幅二メートルの土塁が完成するけど、一般人には無理だろうね。だけどここには魔術の得意な者、力の強い者など兵士に劣らない力を持つ者もいる。
「火魔法か風魔法を使える人はいるかな」
そう言うと何人か手を上げた。そのうちの一人に実際に地面の中で魔法を発動させてもらう。小さな爆発で一抱え程度の土が砕かれた。これは風魔法を使っても同じで地面が砕かれる状態になる。
「じゃあ次は土魔法を使える人が積み上げてくれるかな」
地面に穴を空けるほどの魔力が無くても、砕かれた土なら動かすことができる。また違う人が上から水を注いで盛り上がった土を固める。それを何度も繰り返せばいい訳だ。
「どうだい。みんなの力を合わせれば、この土塁ができるんだよ」
人それぞれ魔力量が違う。でもそれを合わせればリビティナと同じ事ができる。
魔力量に応じた部隊を編成してもらい、実際に土塁を作ってもらおう。
「これはすごいな。俺達でもこんな土の壁ができるじゃないか」
「俺は魔法が得意じゃないが、スコップで土を盛り上げたり土塁の上に打ち込む木の柵なら作れる。なるほどこれが軍の力か」
徴兵して集めた人の力で物を作り出す。戦うばかりが兵士の仕事じゃないからね。
市民達は個人でお店を開いたり、農作物を作ったりしている。組織で一つの事をする経験はあまりない。
今回は技術もそれほど要らない。慣れれば誰でもできる仕事だ。クマ族が多くて力仕事も苦にせずやってくれる。十人程の部隊で土塁が作られていくのを目にし、軍隊というものに興味を持ってくれたようだ。
いずれ武器を持って魔獣や人と戦う兵士も必要になってくるけど、もっと先でいい。今は冒険者や王国の兵士が代わりにやってくれるからね。
「さすが賢者様ですな。これなら短期間に村の防壁ができます。ここで訓練した兵を各地に派遣いたしましょう」
徴兵された兵士は三ヶ月ほどの短期間で交代していく。その間は給料が支払われて兵役に就くことになる。その力で各地の村を整備していってほしいね。
訓練を終えてお城の執務室に戻ると、ブクイットが出迎えてくれる。
「ありがとうございます。これで村の再編にめどが立てられそうです」
「実際に計画を立てたり、仕事するのは君達だからね。すまないが頑張ってくれるかい」
「はい、それはもちろん。ですがリビティナ様、北部の町で早急に対処せねばならない所が一ヶ所ありまして」
少し暗い顔をして、ブクイットが地図を見ながら説明する。
「北部の三つの村を集めて、新たにアカネイという町を作ります。しかし町周辺が森に覆われていて、獣や魔獣に畑が食い荒らされています。兵を派遣していますが、町の建設もままならず……」
なるほど、森と町を隔てるための壁が要るという事だね。
「この町だけはリビティナ様のお力を貸していただけないでしょうか」
「そうだね。この北側の平原部分に壁は要らないだろう。畑の東西と南の住居周辺に土塁を作ればいいかな」
平原に出てきた魔獣なら、矢や魔法の遠隔攻撃で倒せる。今まで通りの木の柵で十分だ。この程度なら現地の兵の力も借りれば五日ぐらいで土塁は完成しそうだ。
翌日、早速北端の町に行ってみる。
「け、賢者様! このような場所まで来ていただき。我らに何か至らない事があったでしょうか」
現地の隊長さんが恐縮してリビティナを迎えてくれる。この魔国で賢者といえば、魔王に連なる偉い人とされているからね。急に来てごめんよ~。
「いやね、ブクイットに頼まれてこの町の周囲に土塁を築こうと思ってるんだ」
兵士を集めて土塁の作り方を説明して、部隊を編成してもらう。
ここは元あった村を大きくするため、町の建設に五十人程の兵士が派遣されている。この兵士全員を一旦壁作りのために働いてもらう事にする。
「ボクは西側を受け持つよ。君達で東の壁を作っていってくれるかな」
「はい、了解いたしました。しかし賢者様お一人で西側全部をお任せして大丈夫でしょうか」
「うん、うん。大丈夫だよ。魔獣の警備も要らないから、東側をしっかりお願いするよ」
一人で作った方が気楽でいいしね。南の入り口付近から左右に分かれて土塁を作っていく。この町の住民も何か手伝う事はないかとやってくる。
やはり魔獣の被害が深刻なようだね。それだけに町を守ってくれる兵士達に協力を惜しまないのだろう。住民達には土塁の上に打ち付ける木の柵を作ってもらう事にした。
朝から夕方まで働いて、予定通り五分の一までが仕上がる。まあ、順調に進んでいるね。
「これが賢者様のお力なのですね。お食事などは私どもで作りますので、この家でお休みください」
土にまみれて町に帰って来たけど、町民に招かれて食事やベッドの用意をしてもらった。まだ明日もあるからね、今晩は美味しい食事をいただいて、ゆっくりと休ませてもらうとしよう。
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