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第4章 魔族
第52話 ナームの故郷1
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フィフィロ兄妹とナーム、エルフィを乗せた馬車の旅は続き、ナームの住む国境の村まで後二、三日ほどの距離にまで来ていた。
「ナーム、しっかりするのよ。もうすぐ生まれ故郷なのよ」
日に日にナームの容態は悪くなり衰弱していく。
「リビティナ。何とかならないの」
「手は尽くしているんだけどね……」
「それでも魔族の王なの!」
こればかりは、どうにもならない。元来人間の体はこの世界で生きていくにはひ弱すぎる。体全体が魔素や病原菌に侵された場合、手遅れになる事も多い。
それでも故郷の村に着くまでは持たせてあげたい。
その二日後。
「ほらナーム、この森を抜けてあの山の麓まで行けばあなたの故郷よ」
「うん、いつも見ていた森と山だ。懐かしい景色だよ」
森手前にある丘の上、今日は気分がいいと御車台の上にまでナームを連れて来て景色を見せてあげる。
「何だかこの空気の臭いも懐かしいよ」
「そうよね。ずっと檻の中に入れられていたものね。明日にはあなたの村に着けるわよ」
「うん、ありがとう。エルフィお姉ちゃん」
ナームの笑顔にエルフィの顔もほころぶ。
森を迂回している時間はない。危険ではあるけど、あの森に入り野営しよう。御車のネイトスに指示して丘を下り森の中へと入る。
「リビティナ様。今晩はこの辺りで野営をしましょう」
暗い森の中、少し開けた場所で馬車を停めて野営の準備をする。水は樽に詰めて十分あるから川の近くじゃなくてもいいし、これだけ広い場所なら魔獣が木の上から襲ってくることもない。
「食事を終えたら、みんなは馬車の中で眠っていてくれるかい。今晩の警戒はボク一人でするよ」
「リビティナさん。私も交代でお兄ちゃんと夜の警戒をしますよ」
「大丈夫だよ。ルルーチアちゃんも慣れない馬車の旅で疲れているんだろう。今晩はゆっくり寝ていてくれたらいいよ」
ナームの容態もあって、このところ急いで馬車を走らせているからね。みんなには休養を取ってもらおう。
「ナーム君にはさっき光魔法をかけておいたから、エルフィはナーム君の傍にいてくれるかな」
「ええ、分かったわ」
白子の子供は数年に一、二回見つかって、リビティナの元に報告される。本当はもっと多いんだろうけど、すぐに死んだり、白子は不吉だと殺してしまう国もある。
成人してから白子になる例はなく、十二歳ぐらいまでの子供が白子になってしまうようだ。基本的にリビティナの眷属と同じ状態だから、一人でも多く助けて里に連れ帰りたい。
そう思いつつ夜の警戒に当たる。今晩は何事もなく過ぎ、もうすぐ夜明けだ。
「あら、ナーム。もう起きたの。まだ陽が昇るまで時間があるわよ」
「あのね、エルフィお姉ちゃん。今日行くボクの村はね、果物がすごく美味しんだよ。この森の先に農地があるんだ」
「まあ、そうなの。あたしも食べてみたいわね」
「お父さんとお母さんが育てているから、お姉ちゃんにも食べさせてあげられるよ……。きっとお姉ちゃん達の事も気に入ってくれて、家に泊めてくれる」
「そうね。朝になったらこの森を抜けて、すぐにあなたの村の家に行きましょうね」
「お父さんは力持ちで、お母さんは優しんだよ……」
「あたしもナームのご両親とお話したいわ。こんないい子に育ててくれた人達だものね」
「うん。ボクももうすぐお母さんに会えるんだね」
「明け方は寒くなるわ。しっかり毛布を被って寝なさい」
「うん……。エルフィお姉ちゃん、なんだかいい匂いがするね。お母さんと同じ懐かしい匂いだよ」
「まあ、そうなの」
朝日が登ると同時くらいに馬車の中からエルフィの叫ぶ声が聞こえた。
「ナーム、どうしたの! ねえ、ナームしっかりしなさい」
「どうしたんだい!!」
馬車に飛び乗り、ナームの様子を見たけどぐったりと横になったまま動かない。光魔法を全身に当てたけど反応は無かった。
「ナーム、ナーム。目を開けてよ」
エルフィの必死の呼びかけにもナームが目を覚ますことはなかった。
白子になってからの環境が悪すぎた。仕方の無いことだけど、家族の元で半年。容態が悪くなって治療すると騙されて二ヶ月余り、見世物小屋の牢屋に閉じ込められていたからね。
「エルフィの嬢ちゃん。気の毒だがナームはもう目を覚まさないぜ」
「そんな事あるはずないじゃない。少し前までこの子と話をしていたのよ。ナーム、お願いだから目を開けて!」
その様子に誰も声を掛ける事はできなかった。
「ボク達がもっと早くに助けてやれれば良かったんだけどね……」
リビティナの元に白子がいると報告を受けて村に到着した頃には、既にナームは誘拐されていて行方を追う事ができなかった。その後、見世物小屋で白子が働かされていると聞いてすぐに駆けつけたけど、手遅れだったようだ。
泣き崩れるエルフィを乗せたままナームの生まれ故郷の村へ向かおう。そこで葬儀をしてもらうのが、リビティナ達にできる唯一の事だった。
白子の子も眷属も自分が責任を持って保護したいとリビティナは思っている。ヴァンパイアの力があるとはいえ、その無力な自分が嫌になるときもある。過酷な異世界。その中で手の届く範囲の者だけでも助けられる力が欲しいと願う。
「ナーム、しっかりするのよ。もうすぐ生まれ故郷なのよ」
日に日にナームの容態は悪くなり衰弱していく。
「リビティナ。何とかならないの」
「手は尽くしているんだけどね……」
「それでも魔族の王なの!」
こればかりは、どうにもならない。元来人間の体はこの世界で生きていくにはひ弱すぎる。体全体が魔素や病原菌に侵された場合、手遅れになる事も多い。
それでも故郷の村に着くまでは持たせてあげたい。
その二日後。
「ほらナーム、この森を抜けてあの山の麓まで行けばあなたの故郷よ」
「うん、いつも見ていた森と山だ。懐かしい景色だよ」
森手前にある丘の上、今日は気分がいいと御車台の上にまでナームを連れて来て景色を見せてあげる。
「何だかこの空気の臭いも懐かしいよ」
「そうよね。ずっと檻の中に入れられていたものね。明日にはあなたの村に着けるわよ」
「うん、ありがとう。エルフィお姉ちゃん」
ナームの笑顔にエルフィの顔もほころぶ。
森を迂回している時間はない。危険ではあるけど、あの森に入り野営しよう。御車のネイトスに指示して丘を下り森の中へと入る。
「リビティナ様。今晩はこの辺りで野営をしましょう」
暗い森の中、少し開けた場所で馬車を停めて野営の準備をする。水は樽に詰めて十分あるから川の近くじゃなくてもいいし、これだけ広い場所なら魔獣が木の上から襲ってくることもない。
「食事を終えたら、みんなは馬車の中で眠っていてくれるかい。今晩の警戒はボク一人でするよ」
「リビティナさん。私も交代でお兄ちゃんと夜の警戒をしますよ」
「大丈夫だよ。ルルーチアちゃんも慣れない馬車の旅で疲れているんだろう。今晩はゆっくり寝ていてくれたらいいよ」
ナームの容態もあって、このところ急いで馬車を走らせているからね。みんなには休養を取ってもらおう。
「ナーム君にはさっき光魔法をかけておいたから、エルフィはナーム君の傍にいてくれるかな」
「ええ、分かったわ」
白子の子供は数年に一、二回見つかって、リビティナの元に報告される。本当はもっと多いんだろうけど、すぐに死んだり、白子は不吉だと殺してしまう国もある。
成人してから白子になる例はなく、十二歳ぐらいまでの子供が白子になってしまうようだ。基本的にリビティナの眷属と同じ状態だから、一人でも多く助けて里に連れ帰りたい。
そう思いつつ夜の警戒に当たる。今晩は何事もなく過ぎ、もうすぐ夜明けだ。
「あら、ナーム。もう起きたの。まだ陽が昇るまで時間があるわよ」
「あのね、エルフィお姉ちゃん。今日行くボクの村はね、果物がすごく美味しんだよ。この森の先に農地があるんだ」
「まあ、そうなの。あたしも食べてみたいわね」
「お父さんとお母さんが育てているから、お姉ちゃんにも食べさせてあげられるよ……。きっとお姉ちゃん達の事も気に入ってくれて、家に泊めてくれる」
「そうね。朝になったらこの森を抜けて、すぐにあなたの村の家に行きましょうね」
「お父さんは力持ちで、お母さんは優しんだよ……」
「あたしもナームのご両親とお話したいわ。こんないい子に育ててくれた人達だものね」
「うん。ボクももうすぐお母さんに会えるんだね」
「明け方は寒くなるわ。しっかり毛布を被って寝なさい」
「うん……。エルフィお姉ちゃん、なんだかいい匂いがするね。お母さんと同じ懐かしい匂いだよ」
「まあ、そうなの」
朝日が登ると同時くらいに馬車の中からエルフィの叫ぶ声が聞こえた。
「ナーム、どうしたの! ねえ、ナームしっかりしなさい」
「どうしたんだい!!」
馬車に飛び乗り、ナームの様子を見たけどぐったりと横になったまま動かない。光魔法を全身に当てたけど反応は無かった。
「ナーム、ナーム。目を開けてよ」
エルフィの必死の呼びかけにもナームが目を覚ますことはなかった。
白子になってからの環境が悪すぎた。仕方の無いことだけど、家族の元で半年。容態が悪くなって治療すると騙されて二ヶ月余り、見世物小屋の牢屋に閉じ込められていたからね。
「エルフィの嬢ちゃん。気の毒だがナームはもう目を覚まさないぜ」
「そんな事あるはずないじゃない。少し前までこの子と話をしていたのよ。ナーム、お願いだから目を開けて!」
その様子に誰も声を掛ける事はできなかった。
「ボク達がもっと早くに助けてやれれば良かったんだけどね……」
リビティナの元に白子がいると報告を受けて村に到着した頃には、既にナームは誘拐されていて行方を追う事ができなかった。その後、見世物小屋で白子が働かされていると聞いてすぐに駆けつけたけど、手遅れだったようだ。
泣き崩れるエルフィを乗せたままナームの生まれ故郷の村へ向かおう。そこで葬儀をしてもらうのが、リビティナ達にできる唯一の事だった。
白子の子も眷属も自分が責任を持って保護したいとリビティナは思っている。ヴァンパイアの力があるとはいえ、その無力な自分が嫌になるときもある。過酷な異世界。その中で手の届く範囲の者だけでも助けられる力が欲しいと願う。
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