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第1章 異世界暮らし 山の家

第40話 町での仕事

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 アイシャ達とは広場で別れて、昼過ぎにはカリンの店に戻っていた。アイシャ達が戻って来たのは鐘5つが鳴る頃だった。

「街は楽しかったかい」
「ええ、カリンと服を見て回ったの」
「靴もアイシャに似合うかわいいのがあったわよね」

 新しい服でも買ったのか、膨らんだ鞄を大事そうに抱えている。やはりアイシャの年頃なら、街中で遊んだりおしゃれに気を使うのも大切な事だよな。はしゃいで話すアイシャには悪いが、俺の勝手な事を話さないといけない。

「アイシャ、すまない。仕事の話なんだが……ギルドでクロスボウを作るのに今忙しいらしい。明日から2、3日連続で来てくれと言われている」
「明日からって……。狩りがあるじゃない」

 一変してアイシャの顔が曇る。狩りを優先すると約束したのは俺だからな。言い訳がましく俺は説明する。

「そうなんだが、期日までに仕上げるのに人手が要るそうだ。俺もできれば手伝いをしたいんだ……その間は狩りをひとりでしてもらいたい。どうだろうか?」
「狩りはひとりでできなくもないけど……。そうね、ユヅキさんがそっちの方がいいなら、私はそれで……。せっかくの町でのお仕事だものね……」

 ちゃんと納得してくれたかどうか分からなかったが、許可はしてくれた。

「そうか、すまんなアイシャ。ちょっとここで待っていてくれ、職人ギルドに伝言を置いてくる」

 俺は鞄に入れていたデンデン貝を取り出し、明日からギルドで仕事をすることを録音する。無理やり笑顔を作ったようなアイシャを残しギルドに向かった。
 アイシャならひとりでも大丈夫だ。俺がギルドでお金を稼げば生活も楽になるんだからな。デンデン貝をボアンの机に置いてカリンの店に急ぎ戻る。
「じゃあ帰ろうか」と、食料品などを肩に担ぎ町を後にする。


 翌日は、早朝からひとり町に向かう。

「アイシャ、2日か3日で帰る。じゃあ行ってくるよ」
「ええ、行ってらっしゃい。気をつけて」

 やはりアイシャひとりを残すのは心配だが、この林に慣れているアイシャなら大丈夫だ。
 山道を降り町に着いた頃には人の行き来も多く、その中をギルドに向かう。

「おはよう、ボアンさん」

 しかし事務所には、ボアンと受付の女性職員がいるだけだった。

「すまないな。今日は他の職員が休みなんだ。君はこれから木工職人のグラウスの工房に行って打ち合わせをしてもらいたい」

 あ~、そういえばここは週休2日制だったな。受付だけは交代で業務しているようだ。俺は非常勤であまり関係ないから気にかけていなかった。
 道を知らない俺のために、木工職人の工房までボアンが連れて行ってくれる。

「グラウス、ボアンだ。居るかね」
「こっちです。呼び出してすまないね」

 グラウスはヤギ獣人だ。ヤギだからといって目が横筋だとか顎に白いひげがあるとかではない。頭には小さな角がある他は普通の人の顔だ。少し面長か……まあ顔形は個人差だろう。

「ユヅキ君、私は事務所に戻っている。ここでの打ち合わせが終わったら事務所に来てくれ」
「ああ、分かった。で、グラウスさん。何の用だい」
「グラウスでいいよ。一緒に作っていく仲間だからな」
「それなら俺もユヅキでいい」

 職人仲間として、俺を見てくれるのは嬉しいものだな。

「この前言っていた引き金を引けないようにする安全装置だっけ。その構造がよく分からなくてな」
「なるほど、図面のこの部分だな。金属のピンを通してこのつまみを回転させるんだが、できるか?」
「ユヅキ、できれば部品は取り外して修理ができるようにしたいと思っている。今のままだと難しいようなんだが」

 俺達は図面やできかけの本体を見ながら話し合う。職人さんと直接話して少しずつ改良していく方が分かりやすくていいな。図面だけでは理解できん事も多いしな。

 グラウスの所での打ち合わせを終えて事務所に戻る。

「ユヅキ君、話は上手くいったかね」
「ああ、なんとかな」
「君の机を用意した。今後はここで仕事をしてくれ。エギルの工房からも問い合わせが来ている。相互の連絡はデンデン貝でやっている」
「なるほど。夕方までに出せば、次の日の朝には相手に届くようになっているんだな。その時に出す書類がこれか……」

 俺は仕事の仕方をボアンから聞いていく。返答をデンデン貝に録音し、所定の箱の中に入れておいた。
 そうこうしているうちに、もう夕方だ。

「今日はこれで終りにしておこう。ユヅキ君、夕食はどうするね。美味しい店を案内するが」
「それなら教えてもらえるか。あまりこの町には詳しくないのでな」

 俺はボアンに連れられてレストラン街へ行く。この辺りには食事処がいっぱいあるな。少しずつ開拓していこう。
 食事を終えてギルドの宿直室に戻る。ここには大きな机もありランプも置かれている。ここでなら作業もできるか。

「いやいや、いかんな。働きすぎはダメだ。俺はスローライフを目指すんだったな」

 その日はそのままベッドに横になる。

 翌朝、日が昇る頃に目を覚まし、俺は裏庭に出て日課の素振りを行なう。一汗かいてから朝食をとるためレストラン街へ行くが、それなりに人はいるな。行商風の人や冒険者もいるぞ。
 金属の胸当てをした人や、あのローブを身に着けている人は魔術師か。かっこいいな~。

 今日も一日しっかり働かないと。朝食はしっかりめに取り、宿直室に戻る。定時の鐘3つが鳴ってから事務所に降りる。

「おはようございます」 
「おはよう」
「おはようなの」

 みんなに挨拶して席に着く。
 今日は問い合わせの対応や、新しい部品の図面を描いていく。

「ミアン、このデンデン貝を商業ギルドに送りたいんだが」
「それならこの箱に入れてほしいの。ここに『商業ギルド』って書いてあるけど字は読める?」
「いやまだ読めないが、覚えるよ。その隣は?」
「これは冒険者ギルド、こっちは魔術師協会、職人や個人宛はここだけど宛先を書くから私の所に持ってきてなの」

 俺は、その宛先の字をメモしておく。文字も覚えていかんとな。
 その日で仕事は片付かず、翌日も仕事をすることとなった。

 鍛冶屋のエギルに出す図面を仕上げて届けようとしたとき、弓職人のルフトの所まで来てほしいと連絡を受けた。

「ミアン、弓職人のルフトさんの工房に行きたいんだが、地図はあるか?」
「ルフトさんなら大きな広場の近く、ここなの」

 職人さんの場所が書かれた町の地図を見せて教えてくれる。
 俺は事務所を出て、エギルに図面を届けた後にルフトの工房を訪れた。

「こんにちは」
「おお、来てくれたか。さっそくで悪いんだが、これを見てくれ」

 弓の形やら本体に取り付ける方法など、少し話し込んでいたら遅くなってしまったな。

「ボアンさん、仕事が片付いたので今日はこれで帰るよ」
「そうか、遅くなったようだが帰りは大丈夫か」
「少し急げば大丈夫だ。次は明後日に来ればいいな」
「ああ、それで頼む」

 俺は会計をすまし荷物をまとめて事務所を後にする。
 確かに遅くなってしまったな。家に帰る頃は日が落ちてしまうかもしれんが、暗くなってきた山道は注意しながら歩かないと危ない。

 途中で陽も落ち、暗い山道を光の魔法で照らしながら進んでやっと家に辿り着いた。

「アイシャ、ただいま」

 入り口を開けると、部屋は真っ暗だった。その暗い部屋にいたアイシャが俺に飛びついてしがみつく。

「ユヅキさん、ユヅキさん、ユヅキさん……」

 アイシャの目には大粒の涙が溢れていた。
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