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最終話『そして今日も木を切る』
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あれから7年経った。いろいろと忙しくあっという間の7年だった。
教会の最高職位である枢機卿《カーディナル》とその後継と期待されていた大司教《アーチ・ビショップ》が突然死に、更には教会の御旗として掲げていた神託の勇者シンの蛮行があらわになり、教会の威信は地に堕ちた。
王族、教会、司法の三権分立にてバランスを保ってきた教会の権威が地に堕ちたことで一時的な混乱はあった。だが、この問題は数年も経たずに解決した。
もとよりこの世界に存在していた市政の人々の暮らしに基づいた原始的な宗教が日の目を見ることになったからだ。人々の心の中から神という存在に対する素朴な敬いの心は、教会の一件があっても廃れることはなかった。
各地で地域に根ざした原始宗教を復興しようという動きが加速している。ただ、教会の一件もあったので一つの宗教団体が過度に力を持たないようにという王族、司法という2大権力による監視付きにはなっているが。
俺はというと、ソフィと一緒に魔導法国で暮らすことにした。
積極的にこの国で暮らそうと決めたというよりも、
自然な流れで暮らすことになった感じである。
あの戦闘のあと国中に魔力を供給し続けていた魔導プラントの炉が溶解したことにより、国が一時的に機能不全に陥った。
その間は結界も使うことができなかったので、俺や炎鬼《えんき》のような武闘派の人間が森の外を周り、危険なモンスターを討伐しなければいけなかったからだ。
魔王や四天王から頼まれたことではない。ソフィと二人で話し合って、困っている人を見過ごすのは良くない、そんな単純な理由で自主的にこの国にとどまったのだ。
教会による悪の帝国というレッテルを付けられ、実際に各国から警戒され、教会が攻め入るスキを作ってしまったという、苦い経験をもとに、魔導法国も段階的にではあるが、他国とも交流するようになっている。
ただ、いまも謎につつまれた国という印象は根強い。この神秘性が人々の目には魅力的に移るようだ。この国に観光で訪れる旅人の半数が、魔王の住む神秘の国を見たいという怖いもの見たさで訪れているようだ。
「ふふふっ。それにしても、今となっては冗談として笑えるけど、一時期は真剣にケネスが魔王の後継者になるべきだって議論もあったのよね」
「俺の仕事は木を切ること、国を統治することではない。だから断った」
人それぞれの得意、不得意というものがあると思う。
王に木こりが務まらないように、
木こりに王は務まらない。
国を納めるのはその能力がある者がすべきである。
それが、俺の持論だ。
お互いがお互いの仕事を尊重しあえれば最高だ。
「そうね。ただ魔王が自主的に退位して、後任を四天王の"影"に譲ったのは意外だったわ。あの四つ子の中のどの"影"が魔王になったのかは、全く分からないけど」
「俺としては、四つ子の魔王になった"影"とは別の、"影"が元魔王と結婚した事の方が驚いた。主従の関係だと思っていたのだが……分からないものだ」
「そう? 私はなぁんとなくだけど、気づいていたわよ。7年前の時点から"影"の元魔王さんを見る視線が、敬意とは別の何か熱いものが含まれていたわ」
「……そう、だったのか。結婚には魔王が成人するまでの6年の間待ったのだから我慢強くて偉いと褒めるべきなのだろうな」
「それにしてもどの四つ子のどの"影"が王になって、どの"影"が魔王と結婚したのか本当に謎よね。ケネスは分かる?」
「いや、全く分からない。……本当に紛らわしいことこの上ない」
あの闘いの後に魔導プラントの修復と、
復興が一段落したのちに魔王は退位し、
"魔王"を四つ子の四天王の"影"の内の一人に譲った。
なお、四つ子のうちの誰が王になったのかは誰も分かっていない。
ホムンシン体に記憶を移植し、"転生"する事によって、
長い年月を過ごした彼女であったが、
それも、彼女の代でやめることを決意したようだ。
本当の意味で初代魔王の"遺志"と決別したと言っていい。
元魔王は夫の"影"と旅人として各国を回っているようだ。
「そういえば、つい昨日元魔王さんからハガキが届いていたわね。ケネスも目を通したかしら?」
「ああ、読んだ。子どもを授かったと書いてあった。とてもめでたいことだ」
「そうねっ! お祝いの贈り物をと思っているんだけど、元魔王さん、影さん、いろんなところを転々としているから贈り先が分からないのよねぇ……」
「そのうちふらっとこの国に帰ってきた時にでも渡せば良いだろう。俺は、うちの子たちと、元魔王の子供を会わせるのが楽しみだ」
「そうね! うちの子達と仲良くなってくれると嬉しいわ」
旅先から送られてきたハガキによると、
元魔王の子はおなかのなかですくすくと成長しているそうだ。
なによりである。
元魔王も影も整った顔立ちだから、
きっと子供も可愛い子が産まれるのだろう。
いつ会えるかは分からないが楽しみではある。
「そういえばケネス最近、炎鬼《えんき》さんの料理屋さんに食べに行っている?」
「……いや、最近は行っていない。たまには顔を出さなければ不義理になると思っているのだが。うむ、近いうちに一緒に行こう」
「炎鬼《えんき》さんの料理は美味しいのだけど、ちょっと家庭的過ぎる気がするのよね。観光客を呼べるようなもうちょっと派手なメニューを出したらもっと流行ると思うのだけど」
「そうだな。せっかく、外の国から訪れる人達が増えてきているのだから、もう少し商売っ気を出しても良いと、俺も思う。……あそこは大家族で金もかかるしな」
「炎鬼《えんき》さんのお子さんは、今年で6人目だったわよね。おめでたいことではあるけれど、確かにお金はかかるでしょうね。商売っ気については、遺蹟都市の聖剣チャレンジおじさんから学べば良いのにとは思うわ」
「あの聖剣おじさん、ソフィがお願いしたら、この街を復興するための助言役として訪れてくれたんだったな。まさか、俺が持ってきた種から育った馬鹿でかいだけの木を観光の売りにするとは思わなかった。商売人の発想というのは凄いものだな」
「あの木、おじさんが"世界樹"とかいう名をつけていたわね。"世界樹"の前でお祈りをすると願いが叶うとか、頭が良くなるとか、意中の相手と結ばれるとかいろんなご利益があるって広めたら、一気に訪れる人が増えたのよ。ああいう発想っていうのはどこから出るものなのかしらね?」
「うむ……。あれもまた、天賦の才能なのだろうな。あらゆる知識を網羅した天才の元魔王ですら思いつかなかった観光客を招き入れて外貨を稼ぐという案。あれも、聖剣おじさんが提案した案が採用されたのだったな。一度だけでも炎鬼《えんき》は、聖剣おじさんの助言を受けてみればいいと俺は思う」
「ふふっ。良いアイディアね。でも、おじさんの相談料はかぁなーりぃ高いわよ?」
「なに? あのおじさん、お金取っていたのか。それは、知らなかった……」
炎鬼《えんき》は四天王の立場を自らの意志で退いた。
魔導プラントの一件を経験し、
炎鬼《えんき》は、時に非常な決断もくださなければいけない、
四天王という立場が自分にはふさわしくないと判断したのだ。
四天王を退位してからは常に家族の近くに居られる仕事である、
料理店を開いた。
大家族なので子供は奥さんが育児に専念し、
調理、お客様への食事提供、会計などは、
すべて炎鬼《えんき》が一人で回している。
お客さんが少ないせいか従業員を雇わずに、
一人で店は回っているようだ。
俺も月に一度の頻度でソフィと食べに行く。
そのときに聞いた話によると収支は一応、黒字らしい。
繁盛店とまではいかないまでも地元の人達が食べにきたり、
たまに元四天王たちがお忍びで来て、
気前よくお金を落としてくれるそうである。
四天王をやめたと言っても喧嘩別れではないので、
いまも細々とではあるが付き合いは続いているようだ。
「そういえば今日はうちのチビたちはどうしている?」
「上の娘は"隠者"さんの家に遊びに行ったわ。息子は、庭で積み木遊びよ」
「"隠者"さん、俺のようにあまり人付き合いが得意な人じゃないと思っていたが、それは誤解だったようだ。每日、娘の相手をしてくれてありがたいことだ」
「お世辞だとは思うけど、"隠者"さんが言うにはうちの娘は凄く頭が良いそうよ。娘が"原初の魔法"に興味をもってくれるのが嬉しいみたいね。娘がいつも遊びに行ったときには、いつも美味しいケーキや紅茶を出してくれるそうよ」
「うむ。してもらってばかりで、申し訳ない。明日、娘に何か持っていかせよう」
「この前、"世界樹"の枝で作った綺麗な杖。あれとか良いんじゃないかしら?」
「そうだな、それにしよう。喜んで貰えると嬉しい」
俺とソフィの間に2人の子が産まれた。
娘は5歳、息子は3歳だ。
娘はソフィに似た金色の髪と、活発な性格だ。
好奇心が強く四天王の"隠者"に懐いていている。
"原初の魔法"が面白いようで"隠者"の家でいつも本を読んでいるようだ。
最近は娘からの質問に答えられないことが増えてきた。
親ばかかもしれないが、娘は天才かもしれない。
娘についてはどうしてもかわいくて、
ついつい甘やかしすぎてしまい、ソフィに怒られている。
息子の方はどうやら俺に似たようだ。
赤茶けた髪で、俺のように口数が多くない。
俺のオフクロも親父も口数の多い方ではなかったから、
息子は俺の方の家の血筋を色濃く継いでいるのかもしれない。
ただ息子は、俺の顔と違ってソフィのように、
端正な顔つきだ。成長したらモテるかもしれない。
これも親ばか的な評価かもしれないが、
どうしても子供の評価には甘くなってしまう。
息子は積み木遊び、木でできた玩具が好きだ。
木が好きなのかもしれない。
もしかしたら俺の仕事を継いでくれるかもしれない。
いずれにせよ、俺の期待も入ったただの妄想だ。
俺も親父やオフクロの期待する通りの大人には育たなかっただろう。
きっと娘も息子もきっと今の俺やソフィの想像とは違うように、
自由に成長していくのであろう。
娘も息子もいろいろな人と出会い、失敗や成功を繰り返しながら、
大きくなっていくのであろう。
「そういえばソフィ最近はアーティファクト研究の進捗はどうだ?」
「なかなか苦戦しているわ。でも、その分やりがいがある仕事だわ」
「そうか。それは良かった」
「やっぱり私を産んでくれた方のパパとママが一生懸命に研究していたものだから、私もその意志を継ぎたいとか考えちゃっているのかもしれないわね」
「あまり気負わなくても良い。最近はソフィが遅くまで研究しているから俺は心配だ。根を詰めると体を壊すぞ。ゆっくりとやれば良い」
「それもそうね。それじゃあ、今日は早めに一緒にお布団に入りましょうか」
「……うむ。ぜひ、そうしよう。俺も今日は仕事を早めに切り上げ、帰ろう」
ソフィは蠱惑的《こわくてき》な笑みを俺に向けている。
俺の前でだけ見せてくれるちょっと悪そうな顔をするソフィの表情が好きだ。
子どもを二人も産んで忙しい生活なのに、
それでもかわいく魅力的なソフィは凄い。
俺はと言えば、あいかわらず木こりの仕事を続けている。
それは、この仕事を好きで、誇りを持っているからだ。
木は人の暮らしを支える基盤だ。
人が生き、生活していくためには木は欠かせないものだ。
俺が森の中で切り、加工した木材の評判は良く、
ありがたいことに多くの人々から高い評価を得ている。
木こりとしての仕事に最も誇りを感じるのは、
俺が切り、加工した木材で作られた家を見た時だ。
俺が切った木で作られた家で過ごす幸せそうな家族を見ると、
言葉では言い表せない満ち足りた気分になるのだ。
大変な仕事ではあるが、笑顔を見た時に報われた気持ちになる。
7年前の教会からの熱攻撃により焼け野原にされた森も、
その後に俺が植林した木々がすくすく成長し、
徐々にだが元の森と同じようになってきている。
木は強く、そしてとてもたくましい。
一度負けただけで挫けることはない。
木こりの仕事は、森に入り木を切り倒すだけではない。
ときには木を植え、育てることも仕事のうちに含まれる。
時には森の中の人を襲う凶悪なモンスターを狩り、
時には他の木の成長を阻害している木を間引き、
そして、ときには何も考えずに土の上に横たわり大空を仰ぎ見る。
木こりの仕事はとてもやりがいがある仕事だ。
だから俺は木こりという生き方が、気に入っている。
「うむ。それじゃあ、今日も森に木を切りに行ってくる」
「いってらっしゃい、あなた」
俺はソフィが作ってくれた弁当を片手に、
斧を肩に担ぎ、森へと向かう。
「今日も、いい天気だ。絶好の木こり日和だ」
おしまい
教会の最高職位である枢機卿《カーディナル》とその後継と期待されていた大司教《アーチ・ビショップ》が突然死に、更には教会の御旗として掲げていた神託の勇者シンの蛮行があらわになり、教会の威信は地に堕ちた。
王族、教会、司法の三権分立にてバランスを保ってきた教会の権威が地に堕ちたことで一時的な混乱はあった。だが、この問題は数年も経たずに解決した。
もとよりこの世界に存在していた市政の人々の暮らしに基づいた原始的な宗教が日の目を見ることになったからだ。人々の心の中から神という存在に対する素朴な敬いの心は、教会の一件があっても廃れることはなかった。
各地で地域に根ざした原始宗教を復興しようという動きが加速している。ただ、教会の一件もあったので一つの宗教団体が過度に力を持たないようにという王族、司法という2大権力による監視付きにはなっているが。
俺はというと、ソフィと一緒に魔導法国で暮らすことにした。
積極的にこの国で暮らそうと決めたというよりも、
自然な流れで暮らすことになった感じである。
あの戦闘のあと国中に魔力を供給し続けていた魔導プラントの炉が溶解したことにより、国が一時的に機能不全に陥った。
その間は結界も使うことができなかったので、俺や炎鬼《えんき》のような武闘派の人間が森の外を周り、危険なモンスターを討伐しなければいけなかったからだ。
魔王や四天王から頼まれたことではない。ソフィと二人で話し合って、困っている人を見過ごすのは良くない、そんな単純な理由で自主的にこの国にとどまったのだ。
教会による悪の帝国というレッテルを付けられ、実際に各国から警戒され、教会が攻め入るスキを作ってしまったという、苦い経験をもとに、魔導法国も段階的にではあるが、他国とも交流するようになっている。
ただ、いまも謎につつまれた国という印象は根強い。この神秘性が人々の目には魅力的に移るようだ。この国に観光で訪れる旅人の半数が、魔王の住む神秘の国を見たいという怖いもの見たさで訪れているようだ。
「ふふふっ。それにしても、今となっては冗談として笑えるけど、一時期は真剣にケネスが魔王の後継者になるべきだって議論もあったのよね」
「俺の仕事は木を切ること、国を統治することではない。だから断った」
人それぞれの得意、不得意というものがあると思う。
王に木こりが務まらないように、
木こりに王は務まらない。
国を納めるのはその能力がある者がすべきである。
それが、俺の持論だ。
お互いがお互いの仕事を尊重しあえれば最高だ。
「そうね。ただ魔王が自主的に退位して、後任を四天王の"影"に譲ったのは意外だったわ。あの四つ子の中のどの"影"が魔王になったのかは、全く分からないけど」
「俺としては、四つ子の魔王になった"影"とは別の、"影"が元魔王と結婚した事の方が驚いた。主従の関係だと思っていたのだが……分からないものだ」
「そう? 私はなぁんとなくだけど、気づいていたわよ。7年前の時点から"影"の元魔王さんを見る視線が、敬意とは別の何か熱いものが含まれていたわ」
「……そう、だったのか。結婚には魔王が成人するまでの6年の間待ったのだから我慢強くて偉いと褒めるべきなのだろうな」
「それにしてもどの四つ子のどの"影"が王になって、どの"影"が魔王と結婚したのか本当に謎よね。ケネスは分かる?」
「いや、全く分からない。……本当に紛らわしいことこの上ない」
あの闘いの後に魔導プラントの修復と、
復興が一段落したのちに魔王は退位し、
"魔王"を四つ子の四天王の"影"の内の一人に譲った。
なお、四つ子のうちの誰が王になったのかは誰も分かっていない。
ホムンシン体に記憶を移植し、"転生"する事によって、
長い年月を過ごした彼女であったが、
それも、彼女の代でやめることを決意したようだ。
本当の意味で初代魔王の"遺志"と決別したと言っていい。
元魔王は夫の"影"と旅人として各国を回っているようだ。
「そういえば、つい昨日元魔王さんからハガキが届いていたわね。ケネスも目を通したかしら?」
「ああ、読んだ。子どもを授かったと書いてあった。とてもめでたいことだ」
「そうねっ! お祝いの贈り物をと思っているんだけど、元魔王さん、影さん、いろんなところを転々としているから贈り先が分からないのよねぇ……」
「そのうちふらっとこの国に帰ってきた時にでも渡せば良いだろう。俺は、うちの子たちと、元魔王の子供を会わせるのが楽しみだ」
「そうね! うちの子達と仲良くなってくれると嬉しいわ」
旅先から送られてきたハガキによると、
元魔王の子はおなかのなかですくすくと成長しているそうだ。
なによりである。
元魔王も影も整った顔立ちだから、
きっと子供も可愛い子が産まれるのだろう。
いつ会えるかは分からないが楽しみではある。
「そういえばケネス最近、炎鬼《えんき》さんの料理屋さんに食べに行っている?」
「……いや、最近は行っていない。たまには顔を出さなければ不義理になると思っているのだが。うむ、近いうちに一緒に行こう」
「炎鬼《えんき》さんの料理は美味しいのだけど、ちょっと家庭的過ぎる気がするのよね。観光客を呼べるようなもうちょっと派手なメニューを出したらもっと流行ると思うのだけど」
「そうだな。せっかく、外の国から訪れる人達が増えてきているのだから、もう少し商売っ気を出しても良いと、俺も思う。……あそこは大家族で金もかかるしな」
「炎鬼《えんき》さんのお子さんは、今年で6人目だったわよね。おめでたいことではあるけれど、確かにお金はかかるでしょうね。商売っ気については、遺蹟都市の聖剣チャレンジおじさんから学べば良いのにとは思うわ」
「あの聖剣おじさん、ソフィがお願いしたら、この街を復興するための助言役として訪れてくれたんだったな。まさか、俺が持ってきた種から育った馬鹿でかいだけの木を観光の売りにするとは思わなかった。商売人の発想というのは凄いものだな」
「あの木、おじさんが"世界樹"とかいう名をつけていたわね。"世界樹"の前でお祈りをすると願いが叶うとか、頭が良くなるとか、意中の相手と結ばれるとかいろんなご利益があるって広めたら、一気に訪れる人が増えたのよ。ああいう発想っていうのはどこから出るものなのかしらね?」
「うむ……。あれもまた、天賦の才能なのだろうな。あらゆる知識を網羅した天才の元魔王ですら思いつかなかった観光客を招き入れて外貨を稼ぐという案。あれも、聖剣おじさんが提案した案が採用されたのだったな。一度だけでも炎鬼《えんき》は、聖剣おじさんの助言を受けてみればいいと俺は思う」
「ふふっ。良いアイディアね。でも、おじさんの相談料はかぁなーりぃ高いわよ?」
「なに? あのおじさん、お金取っていたのか。それは、知らなかった……」
炎鬼《えんき》は四天王の立場を自らの意志で退いた。
魔導プラントの一件を経験し、
炎鬼《えんき》は、時に非常な決断もくださなければいけない、
四天王という立場が自分にはふさわしくないと判断したのだ。
四天王を退位してからは常に家族の近くに居られる仕事である、
料理店を開いた。
大家族なので子供は奥さんが育児に専念し、
調理、お客様への食事提供、会計などは、
すべて炎鬼《えんき》が一人で回している。
お客さんが少ないせいか従業員を雇わずに、
一人で店は回っているようだ。
俺も月に一度の頻度でソフィと食べに行く。
そのときに聞いた話によると収支は一応、黒字らしい。
繁盛店とまではいかないまでも地元の人達が食べにきたり、
たまに元四天王たちがお忍びで来て、
気前よくお金を落としてくれるそうである。
四天王をやめたと言っても喧嘩別れではないので、
いまも細々とではあるが付き合いは続いているようだ。
「そういえば今日はうちのチビたちはどうしている?」
「上の娘は"隠者"さんの家に遊びに行ったわ。息子は、庭で積み木遊びよ」
「"隠者"さん、俺のようにあまり人付き合いが得意な人じゃないと思っていたが、それは誤解だったようだ。每日、娘の相手をしてくれてありがたいことだ」
「お世辞だとは思うけど、"隠者"さんが言うにはうちの娘は凄く頭が良いそうよ。娘が"原初の魔法"に興味をもってくれるのが嬉しいみたいね。娘がいつも遊びに行ったときには、いつも美味しいケーキや紅茶を出してくれるそうよ」
「うむ。してもらってばかりで、申し訳ない。明日、娘に何か持っていかせよう」
「この前、"世界樹"の枝で作った綺麗な杖。あれとか良いんじゃないかしら?」
「そうだな、それにしよう。喜んで貰えると嬉しい」
俺とソフィの間に2人の子が産まれた。
娘は5歳、息子は3歳だ。
娘はソフィに似た金色の髪と、活発な性格だ。
好奇心が強く四天王の"隠者"に懐いていている。
"原初の魔法"が面白いようで"隠者"の家でいつも本を読んでいるようだ。
最近は娘からの質問に答えられないことが増えてきた。
親ばかかもしれないが、娘は天才かもしれない。
娘についてはどうしてもかわいくて、
ついつい甘やかしすぎてしまい、ソフィに怒られている。
息子の方はどうやら俺に似たようだ。
赤茶けた髪で、俺のように口数が多くない。
俺のオフクロも親父も口数の多い方ではなかったから、
息子は俺の方の家の血筋を色濃く継いでいるのかもしれない。
ただ息子は、俺の顔と違ってソフィのように、
端正な顔つきだ。成長したらモテるかもしれない。
これも親ばか的な評価かもしれないが、
どうしても子供の評価には甘くなってしまう。
息子は積み木遊び、木でできた玩具が好きだ。
木が好きなのかもしれない。
もしかしたら俺の仕事を継いでくれるかもしれない。
いずれにせよ、俺の期待も入ったただの妄想だ。
俺も親父やオフクロの期待する通りの大人には育たなかっただろう。
きっと娘も息子もきっと今の俺やソフィの想像とは違うように、
自由に成長していくのであろう。
娘も息子もいろいろな人と出会い、失敗や成功を繰り返しながら、
大きくなっていくのであろう。
「そういえばソフィ最近はアーティファクト研究の進捗はどうだ?」
「なかなか苦戦しているわ。でも、その分やりがいがある仕事だわ」
「そうか。それは良かった」
「やっぱり私を産んでくれた方のパパとママが一生懸命に研究していたものだから、私もその意志を継ぎたいとか考えちゃっているのかもしれないわね」
「あまり気負わなくても良い。最近はソフィが遅くまで研究しているから俺は心配だ。根を詰めると体を壊すぞ。ゆっくりとやれば良い」
「それもそうね。それじゃあ、今日は早めに一緒にお布団に入りましょうか」
「……うむ。ぜひ、そうしよう。俺も今日は仕事を早めに切り上げ、帰ろう」
ソフィは蠱惑的《こわくてき》な笑みを俺に向けている。
俺の前でだけ見せてくれるちょっと悪そうな顔をするソフィの表情が好きだ。
子どもを二人も産んで忙しい生活なのに、
それでもかわいく魅力的なソフィは凄い。
俺はと言えば、あいかわらず木こりの仕事を続けている。
それは、この仕事を好きで、誇りを持っているからだ。
木は人の暮らしを支える基盤だ。
人が生き、生活していくためには木は欠かせないものだ。
俺が森の中で切り、加工した木材の評判は良く、
ありがたいことに多くの人々から高い評価を得ている。
木こりとしての仕事に最も誇りを感じるのは、
俺が切り、加工した木材で作られた家を見た時だ。
俺が切った木で作られた家で過ごす幸せそうな家族を見ると、
言葉では言い表せない満ち足りた気分になるのだ。
大変な仕事ではあるが、笑顔を見た時に報われた気持ちになる。
7年前の教会からの熱攻撃により焼け野原にされた森も、
その後に俺が植林した木々がすくすく成長し、
徐々にだが元の森と同じようになってきている。
木は強く、そしてとてもたくましい。
一度負けただけで挫けることはない。
木こりの仕事は、森に入り木を切り倒すだけではない。
ときには木を植え、育てることも仕事のうちに含まれる。
時には森の中の人を襲う凶悪なモンスターを狩り、
時には他の木の成長を阻害している木を間引き、
そして、ときには何も考えずに土の上に横たわり大空を仰ぎ見る。
木こりの仕事はとてもやりがいがある仕事だ。
だから俺は木こりという生き方が、気に入っている。
「うむ。それじゃあ、今日も森に木を切りに行ってくる」
「いってらっしゃい、あなた」
俺はソフィが作ってくれた弁当を片手に、
斧を肩に担ぎ、森へと向かう。
「今日も、いい天気だ。絶好の木こり日和だ」
おしまい
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【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
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勇者(爆笑)にはもう少しエグ目のザマァがあっても良い。と思った。名誉とか尊厳とか人権とかそんなものが残っていては、ダメじゃないか
伊予二名様、嬉しいご感想をいただき誠にありがとうございます!表現につきましては、伊予二名様と同じ気持ちでございます。健全な投稿サイトの表現の限界とご理解頂けますと、幸甚に存じます!(※エゲツナイ描写になるため文章では描けませんが、地獄に落ちたら地獄の獄卒は主人公ほど優しくないと思うので、その点はご安心ください!)
タイトルの内容で
義妹のソフィとアリスの名前がありますが
義妹にアリスっていましたっけ?
ウォル様、ご指摘いただきます!修正致しました。勇者パーティーのキャラ名と間違えてかいてしまっていたので、大変助かりました。