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第20話『ソフィは俺の――』
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「呵呵《かか》。本当に運命のめぐり合わせというものは面白い……永劫の時を生きていても、このような偶然が起こる。うむ、よい。……とても良い。我は、ドラゴン・スレイヤーの血を引くお主の力が見たい。この最強の四天王"影"と真剣での勝負を見せてもらえないかのう?」
魔王は悪魔的な笑みで笑う。
こういう表情をみるとやはり魔王なのだと少し安心する。
「一点だけ条件があります」
「なんじゃ。言うてみろ」
「俺の手に馴染んだ武器はあくまでも斧です。強敵と相対するのであればなおさら、斧での決闘のご許可をいただきたく」
「ふむ……あの業物《わざもの》ではなく、斧を使いたいと申すか。どうやら、そのおぬしの瞳を見る限り決して伊達や酔狂で言っているようではないようじゃな。お主が斧を使うことを許す。手の一本や二本を斬り落としても、我が治す。だから、殺す気で戦うのじゃ」
「かしこまりました、俺の全力で戦うことを誓います」
「よい。して、四天王"影"よ、お主も遠慮はいらぬ、その者を殺す気で相手をするのじゃ。存分に我を興じさせて見せよ」
「御意に。身に余る光栄でございます」
そういうと腰の鞘から刺突剣《エストック》を抜き出し、
一回片手で振るう。風を切る鋭く乾いた音が玉座の間に響く。
その姿を見つめる魔王の目は配下への信頼に溢れるものであった。
「私は影。それ以外の名は無い、此度《こたび》の戦いにおいて、貴殿に対する一切の手加減はないものとしれ。この会話が貴殿との今生の別れとなるやもしれぬ、その時は魔導王陛下の御身は私が護り抜くゆえ――後顧の憂いなく、安心して逝け。敵よ、その名を名乗れ。その名を記憶にとどめよう」
「俺の名前はケネス。木こりだ。一切の手加減は不要、殺す気でこい」
黒いローブを羽織った騎士は刺突剣を十字に刻む。
まるでムチを振るうかのような風切り音がこだまする。
魔王の最も信頼する"影"と呼ばれていた存在の、
闘気と殺意が膨れ上がる。
これがこの男の本気の力。
気を抜けばその時は俺の命は無いだろう。
「ケネス。私の魔法剣を己が双眸《そうぼう》に焼き付けて逝くが良い」
目の前の"影"はなんらかの幻術を使ったのか2人に分かれる。
そして2人に分かれた"影"が更に2人に分れる。
俺の目の前の敵は4名。
「くく……これが魔法剣士の戦い方。よもや卑怯などとは言いますまいな」
「ああ。異存はない、かかってこい」
大見得は切ったが強敵4人を同時に相手取るのは自殺行為だ。
じりじりと後退しつつ柱まで追い詰められた体で後退する。
柱を背にすることで少なくとも前後左右の、
四方向から攻め込まれることを防ぐことが可能である。
4人を相手どると言っても柱を背にしているこの位置であれば、
向こう側も同時に打ち込めるのは2人が限度。
前方の2人から激しい剣戟が襲い来る。
右手の"影"が刺突剣《エストック》をムチのように振るい斬りつけ、
左手の"影"が刺突剣《エストック》で刺突を繰り出す。
斧を横薙ぎに振るっても片方にかわされ、
もう片方に斬りつけられる。
深手こそ負ってはいないがこのままでは、
時間のもんだいであろう。
「ケネス殿。どうしましたかな。先ほどから防戦一方のようですが」
目の前の2人を倒したとしても、
後方に控える2人が居る。
さて……どう攻めたものか。
俺は賭けに出る。右方向から迫る縦斬りを回避。
左方向の刺突剣をあえて左肩に受ける。
そして、突き刺さったまま左方向の影の手首を掴む。
「つかまえた」
俺はつかまえた影の一人を羽交い絞めにし、
首を締める。
「どうした。俺の動きの止まった今がチャンスだぞ」
「くっ……!!」
魔法剣士という名乗り自体がはったり。
その正体は四つ子の兄弟。
元からこの部屋に四人の"影"が潜んで潜伏していた。
そして、魔王の呼びかけに応じて一人あらわれる。
それを見た俺とソフィは"影"は一人だと誤認する。
そして、戦闘と同時に潜伏を解いてあたかも、
魔法で四人に増えたかのように振る舞う。
現にもし、今俺が首を締めている相手が、
ただの魔法による幻影だとしたら、
残りの3人で羽交い絞めにしている"影"もろともに刺し殺すはずだ。
攻撃に躊躇する理由はただ一つしかない。
「俺は木こりだからな。荒っぽい戦い方になるが勘弁しろよ」
首を締め、気を失った"影"の一人の手首を掴み、
腰の捻りによる遠心力を加えた上で、
まるで土の入った麻袋を放り投げるかのように、
目の前の三人に向かって投げつける。
一人はギリギリで回避するも、
残りの二人は意識を失った影の下敷きになり、
床に仰向けで倒れている。
60キロを超える土嚢《どのう》並に重い物体が超速度で、
ぶつかったのだからその衝撃は尋常じゃないだろう。
おそらく肋骨の何本かは折れているはずだ。
仮に痛みに堪えられたとして、誤って兄弟を刺し殺さないように、
刺突剣を地面に放ったため反撃にかかるにも時間がかかるであろう。
俺は地面に倒れた三人をよそに、
残りの一人に斧を振るい刺突剣を弾き飛ばす。
そして、斧の刀身を最後の一人に突きつける。
その全てを見つめていた魔王が一言だけ告げる。
「ふむ。良い、見事じゃ。この勝負、ケネスの勝ちじゃ」
「ふぅ。手品の仕掛けが分からなければ危なかった」
「王である我がこの試合、見届けた。よい戦いであった。"影"もよく奮闘した」
王の前に四人の兄弟がひざまずき頭を垂れる。
「ケネスとやら、おぬしの迷いのない研ぎ澄まされた型は母のもの、型破りな猛々しい戦い方はまさにおぬしの父のもの。うむ……ぬしが、われと謁見するだけの資格を有する実力者であると認めざるおえんようじゃな。呵呵《かか》」
一国の王の前である。俺は敬意をあらわすため、
膝をつき、頭を垂れる。
「して、ぬしのお母上、お父上は壮健《そうけん》かの?」
「はい。父、母ともに元気です」
「そうか。なら良かったのだ。して、そちのソフィ殿はぬしの女か」
「…………」
ソフィは伏し目がちになり何も応えない。
「はい。陛下のご推察の通り、ソフィは俺の恋人です」
俺は胸を張って大きな声で言い切る。
俺は、ソフィの方を向きソフィの瞳の奥を見つめる。
ソフィは嬉しそうに微笑みながらコクリと一度だけ頷いた。
ソフィの瞳から一雫《ひとしずく》だけ涙がこぼれていた。
言葉にするのが遅くなった。
言葉にしなくても伝わる事もあるかもしれないが、
俺はそういうドッチ付かずの関係に我慢できるほど繊細ではない。
関係をウヤムヤになんてしたくない。
だから、言い切った。
俺たちは恋愛感情を持った異性同士なのだと。
「ふむ……そうだろう……そうだろうと思ってはいたのじゃが、ふむ。少しだけ残念ではあるのじゃな。これだけの益荒男《ますらお》、われの国にもおらんのでな。もしも……ケネスよ。おぬしが "ふりい" の男なのであれば、我の許嫁にでもと思っておったのじゃが。数え切れぬ歳月を生きながらにして、転生に縛られていたために、我は自分の子という者を持ったことはない。しかし、お主をみていると、自分の子を授かりたいと思ってしまったのじゃ。なに気まぐれな魔王の戯言よ。呵呵《かか》」
「陛下、お戯れを。平民の俺に対して、それは余りに過分なお言葉です」
四兄弟の俺を見る目が俺と剣を交えていた時よりも、
鋭いものになっている。殺気だけで大気が震えそうなほどになっていた。
"影"がここまで、魔王を慕っているというのは知らなかった。
どうやら主従の関係以外の感情も抱いているのではないかと、
邪推したくなるほどの凄い覇気であった。
これ以上この話は冗談でもやめておいた方が良さそうだ。
「さて、いまおぬしが相手した"影"は四天王の中でも最強の猛者。それよりも強いおぬしより、勇者とやらは強いと……そう申すのか?」
「はい。確実にいまの俺よりも圧倒的に強い状態でこの城に攻めにくるでしょう。得体の知れない外法を使い、更にモンスターを殺めることで魂を吸い取り無限に強くなる。そして勇者の狙いは大将首である魔導王陛下のみです。最大限の警戒をする必要があります」
「なるほど……敵の狙いが明確というのは対策する上で大いに助かるのう。ふむ、たとえば、おぬし一日だけ魔王とやらをやってみてはどうかの?」
「どういうことでしょうか?」
「残念ながら、先ほど言った通り、いまのわれの力は四天王の"影"にも劣る。つまりおぬしよりも遥かにか弱い存在じゃ。そのような状態で勇者と相対しても勝ち目は薄いじゃろう。だから、勇者襲撃の日に一日だけおぬしに我の玉座に座り、魔王をやって欲しいのじゃ。良いか?」
少し蠱惑的《こわくてき》な笑みを浮かべながら魔王は語る。
「承知しました。父母の名誉に掛けて必勝を誓いましょう」
「ここに攻めてくるということは、向こうもそれなりの準備が出来ているということ。容易く倒せる相手ではあるまい。さてそこで相談なのじゃが、おぬしは更に強くなりたいと願うか。地獄の苦しみを与えるかもしれぬが、お主を更に成長させることができる可能性があるアーティファクトがこの城の地下祭壇にある。精神が耐えられなければ廃人となる。それでも覚悟はあるか」
「はい。俺の愛するソフィとの平穏な日々を取り戻すために、その障害を取り除くためなら、この俺の生命の一つや二つ燃やし尽くす覚悟は元より出来ています。その覚悟をもって、俺は王都を旅立ち、今ここに立っています」
「よろしい。ならば、我についてくるのじゃ」
魔王は悪魔的な笑みで笑う。
こういう表情をみるとやはり魔王なのだと少し安心する。
「一点だけ条件があります」
「なんじゃ。言うてみろ」
「俺の手に馴染んだ武器はあくまでも斧です。強敵と相対するのであればなおさら、斧での決闘のご許可をいただきたく」
「ふむ……あの業物《わざもの》ではなく、斧を使いたいと申すか。どうやら、そのおぬしの瞳を見る限り決して伊達や酔狂で言っているようではないようじゃな。お主が斧を使うことを許す。手の一本や二本を斬り落としても、我が治す。だから、殺す気で戦うのじゃ」
「かしこまりました、俺の全力で戦うことを誓います」
「よい。して、四天王"影"よ、お主も遠慮はいらぬ、その者を殺す気で相手をするのじゃ。存分に我を興じさせて見せよ」
「御意に。身に余る光栄でございます」
そういうと腰の鞘から刺突剣《エストック》を抜き出し、
一回片手で振るう。風を切る鋭く乾いた音が玉座の間に響く。
その姿を見つめる魔王の目は配下への信頼に溢れるものであった。
「私は影。それ以外の名は無い、此度《こたび》の戦いにおいて、貴殿に対する一切の手加減はないものとしれ。この会話が貴殿との今生の別れとなるやもしれぬ、その時は魔導王陛下の御身は私が護り抜くゆえ――後顧の憂いなく、安心して逝け。敵よ、その名を名乗れ。その名を記憶にとどめよう」
「俺の名前はケネス。木こりだ。一切の手加減は不要、殺す気でこい」
黒いローブを羽織った騎士は刺突剣を十字に刻む。
まるでムチを振るうかのような風切り音がこだまする。
魔王の最も信頼する"影"と呼ばれていた存在の、
闘気と殺意が膨れ上がる。
これがこの男の本気の力。
気を抜けばその時は俺の命は無いだろう。
「ケネス。私の魔法剣を己が双眸《そうぼう》に焼き付けて逝くが良い」
目の前の"影"はなんらかの幻術を使ったのか2人に分かれる。
そして2人に分かれた"影"が更に2人に分れる。
俺の目の前の敵は4名。
「くく……これが魔法剣士の戦い方。よもや卑怯などとは言いますまいな」
「ああ。異存はない、かかってこい」
大見得は切ったが強敵4人を同時に相手取るのは自殺行為だ。
じりじりと後退しつつ柱まで追い詰められた体で後退する。
柱を背にすることで少なくとも前後左右の、
四方向から攻め込まれることを防ぐことが可能である。
4人を相手どると言っても柱を背にしているこの位置であれば、
向こう側も同時に打ち込めるのは2人が限度。
前方の2人から激しい剣戟が襲い来る。
右手の"影"が刺突剣《エストック》をムチのように振るい斬りつけ、
左手の"影"が刺突剣《エストック》で刺突を繰り出す。
斧を横薙ぎに振るっても片方にかわされ、
もう片方に斬りつけられる。
深手こそ負ってはいないがこのままでは、
時間のもんだいであろう。
「ケネス殿。どうしましたかな。先ほどから防戦一方のようですが」
目の前の2人を倒したとしても、
後方に控える2人が居る。
さて……どう攻めたものか。
俺は賭けに出る。右方向から迫る縦斬りを回避。
左方向の刺突剣をあえて左肩に受ける。
そして、突き刺さったまま左方向の影の手首を掴む。
「つかまえた」
俺はつかまえた影の一人を羽交い絞めにし、
首を締める。
「どうした。俺の動きの止まった今がチャンスだぞ」
「くっ……!!」
魔法剣士という名乗り自体がはったり。
その正体は四つ子の兄弟。
元からこの部屋に四人の"影"が潜んで潜伏していた。
そして、魔王の呼びかけに応じて一人あらわれる。
それを見た俺とソフィは"影"は一人だと誤認する。
そして、戦闘と同時に潜伏を解いてあたかも、
魔法で四人に増えたかのように振る舞う。
現にもし、今俺が首を締めている相手が、
ただの魔法による幻影だとしたら、
残りの3人で羽交い絞めにしている"影"もろともに刺し殺すはずだ。
攻撃に躊躇する理由はただ一つしかない。
「俺は木こりだからな。荒っぽい戦い方になるが勘弁しろよ」
首を締め、気を失った"影"の一人の手首を掴み、
腰の捻りによる遠心力を加えた上で、
まるで土の入った麻袋を放り投げるかのように、
目の前の三人に向かって投げつける。
一人はギリギリで回避するも、
残りの二人は意識を失った影の下敷きになり、
床に仰向けで倒れている。
60キロを超える土嚢《どのう》並に重い物体が超速度で、
ぶつかったのだからその衝撃は尋常じゃないだろう。
おそらく肋骨の何本かは折れているはずだ。
仮に痛みに堪えられたとして、誤って兄弟を刺し殺さないように、
刺突剣を地面に放ったため反撃にかかるにも時間がかかるであろう。
俺は地面に倒れた三人をよそに、
残りの一人に斧を振るい刺突剣を弾き飛ばす。
そして、斧の刀身を最後の一人に突きつける。
その全てを見つめていた魔王が一言だけ告げる。
「ふむ。良い、見事じゃ。この勝負、ケネスの勝ちじゃ」
「ふぅ。手品の仕掛けが分からなければ危なかった」
「王である我がこの試合、見届けた。よい戦いであった。"影"もよく奮闘した」
王の前に四人の兄弟がひざまずき頭を垂れる。
「ケネスとやら、おぬしの迷いのない研ぎ澄まされた型は母のもの、型破りな猛々しい戦い方はまさにおぬしの父のもの。うむ……ぬしが、われと謁見するだけの資格を有する実力者であると認めざるおえんようじゃな。呵呵《かか》」
一国の王の前である。俺は敬意をあらわすため、
膝をつき、頭を垂れる。
「して、ぬしのお母上、お父上は壮健《そうけん》かの?」
「はい。父、母ともに元気です」
「そうか。なら良かったのだ。して、そちのソフィ殿はぬしの女か」
「…………」
ソフィは伏し目がちになり何も応えない。
「はい。陛下のご推察の通り、ソフィは俺の恋人です」
俺は胸を張って大きな声で言い切る。
俺は、ソフィの方を向きソフィの瞳の奥を見つめる。
ソフィは嬉しそうに微笑みながらコクリと一度だけ頷いた。
ソフィの瞳から一雫《ひとしずく》だけ涙がこぼれていた。
言葉にするのが遅くなった。
言葉にしなくても伝わる事もあるかもしれないが、
俺はそういうドッチ付かずの関係に我慢できるほど繊細ではない。
関係をウヤムヤになんてしたくない。
だから、言い切った。
俺たちは恋愛感情を持った異性同士なのだと。
「ふむ……そうだろう……そうだろうと思ってはいたのじゃが、ふむ。少しだけ残念ではあるのじゃな。これだけの益荒男《ますらお》、われの国にもおらんのでな。もしも……ケネスよ。おぬしが "ふりい" の男なのであれば、我の許嫁にでもと思っておったのじゃが。数え切れぬ歳月を生きながらにして、転生に縛られていたために、我は自分の子という者を持ったことはない。しかし、お主をみていると、自分の子を授かりたいと思ってしまったのじゃ。なに気まぐれな魔王の戯言よ。呵呵《かか》」
「陛下、お戯れを。平民の俺に対して、それは余りに過分なお言葉です」
四兄弟の俺を見る目が俺と剣を交えていた時よりも、
鋭いものになっている。殺気だけで大気が震えそうなほどになっていた。
"影"がここまで、魔王を慕っているというのは知らなかった。
どうやら主従の関係以外の感情も抱いているのではないかと、
邪推したくなるほどの凄い覇気であった。
これ以上この話は冗談でもやめておいた方が良さそうだ。
「さて、いまおぬしが相手した"影"は四天王の中でも最強の猛者。それよりも強いおぬしより、勇者とやらは強いと……そう申すのか?」
「はい。確実にいまの俺よりも圧倒的に強い状態でこの城に攻めにくるでしょう。得体の知れない外法を使い、更にモンスターを殺めることで魂を吸い取り無限に強くなる。そして勇者の狙いは大将首である魔導王陛下のみです。最大限の警戒をする必要があります」
「なるほど……敵の狙いが明確というのは対策する上で大いに助かるのう。ふむ、たとえば、おぬし一日だけ魔王とやらをやってみてはどうかの?」
「どういうことでしょうか?」
「残念ながら、先ほど言った通り、いまのわれの力は四天王の"影"にも劣る。つまりおぬしよりも遥かにか弱い存在じゃ。そのような状態で勇者と相対しても勝ち目は薄いじゃろう。だから、勇者襲撃の日に一日だけおぬしに我の玉座に座り、魔王をやって欲しいのじゃ。良いか?」
少し蠱惑的《こわくてき》な笑みを浮かべながら魔王は語る。
「承知しました。父母の名誉に掛けて必勝を誓いましょう」
「ここに攻めてくるということは、向こうもそれなりの準備が出来ているということ。容易く倒せる相手ではあるまい。さてそこで相談なのじゃが、おぬしは更に強くなりたいと願うか。地獄の苦しみを与えるかもしれぬが、お主を更に成長させることができる可能性があるアーティファクトがこの城の地下祭壇にある。精神が耐えられなければ廃人となる。それでも覚悟はあるか」
「はい。俺の愛するソフィとの平穏な日々を取り戻すために、その障害を取り除くためなら、この俺の生命の一つや二つ燃やし尽くす覚悟は元より出来ています。その覚悟をもって、俺は王都を旅立ち、今ここに立っています」
「よろしい。ならば、我についてくるのじゃ」
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