木こり無双~愛する者のためならば、勇者も神も切り倒す!~

にゃーにゃ

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第19話『法国と教会』

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「して、ソフィよ。その急用というのは我に話してはくれぬかの」


「陛下の首を狙う賊が動き初めております」


「ふむ……人族との間には相互不可侵の条約を結んでいたはずじゃがの。そして、いままではその条約が破られたこともない。だが、お主はその上で我になお危険が迫っていると申すのじゃな」


 ソフィが俺の方に目線を向け、話すべきかどうかの確認を取っている。
 俺は、黙って肯定を伝えるために首を小さく縦に振る。

 その様子を見届けたあとにソフィは言葉を続ける。


「残念ながらその相互不可侵の条約はまもなく破られます。それを破るのは過去に魔導法国と条約を結んだ王都ではなく、"教会"という組織です」


「なるほどの……。実はの、間諜《スパイ》に放った者たちからの伝聞で各地域に拡大している"教会"なる新興の勢力が我が国に対して不穏な動きを見せているという情報を聞いていた……その情報とも符合するのじゃな。魔導法国の地の利、兵力差を考えればまだ攻めることはないと思っていたのじゃが……」


「現在の教会は奥の手を隠し持っています。それは神託の勇者。おそらく陛下の御身にも危険を及ぼす可能性のある存在です」


「我の命を狙う、か。それが容易ではないことは教会なる組織も十分に理解しているものと思っていたが。――四天王、"影"よ、此度《こたび》の教会の動きについてどのように考える。我は主の考えが聞きたい」


 魔王が見えない空間に声を投げかけると黒いローブを
 まとった細身の男が何も無い空間から、突如あらわれる。

 否――おそらく俺が認識できていなかっただけで、
 もとよりこの玉座の間の護衛としてずっといたのだろう。

 魔法だとしてもここまで完璧に気配を消す能力は、
 それだけでただ者ではないことが分かる。


「魔導王陛下、彼らの言葉はかなり信憑性が高い情報です。人族の大陸に派遣した間諜からの情報によると、教会の連中はここ10年の間に急に遺物……アーティファクトの回収に躍起になってきていると聞いております。そして神託の勇者なる存在が力を身に付けつつあるという情報もはいっています。相互不可侵の条約があるため、こちらから手出しはしませんでしたが、決してその危険度を軽く見て良いものとは思ってはいません」


「なるほど。それにしても解せぬな……我らは、魔導法国も王都もこの長い間、小競り合いすらない、完全に国交を断った状態じゃった。もちろん魔導法国の者達が人間を殺傷したというような事実もない。それなのになにゆえに"教会"なる組織は我らを攻め滅ぼそうなどと考えるのか」


「魔導王陛下、私は現在の教会なる組織は太古の遺物であるアーティファクトを当時最も最先端で研究していた研究都市国家を襲い、略奪していった者達の末裔であると考えています」


「して、"影"よ。その根拠を申してみろ」


「根拠はアーティファクトの保有数です。教会なる組織が有するアーティファクトの数は膨大であり、保有している物の中には過去に研究都市国家が保有していたアーティファクトと同一の物が存在していると間諜が確認しています。おそらく国を滅ぼしアーティファクトを回収したものの、アーティファクトを扱える研究都市国家の研究者達まで皆殺しにしたため、長い年月まともに扱うことができなかったのではないかと……」


 魔王は、魔杖の先を何回か床に叩き付け苛立ちをあらわにする。
 おそらくそれは何十代前の当時の魔王の記憶を思い出しての憤りだ。


「我が……あのときに同盟国の救援にいけなかったことが今の時代になっても尾を引いているということなのじゃな」


 魔王の言葉を聞きソフィが首を横に振る。


「いえ、陛下。それは違います。あの時は魔導法国も王都との過酷な戦争の最中でとても私達の国に増援の兵を送る余力などなかったはずです。それに、あの時に魔導法国が勝利し、相互不可侵の条約を結んだからこそその後大きな争いがなくなった……そう、私は歴史の本で習いました。そのお気持ちだけでとてもありがたいので、どうかご自身を責めないでください」


 なるほど……。

 魔導法国が戦争していた時に研究都市国家が襲撃を受けた。
 時期が重なりすぎていて偶然とは思えない。

 当時の教会の前進となる組織は火事場泥棒的に、
 襲撃のタイミングを狙っていたのではないだろうか。

 そう考えればいろいろと辻褄が合う。
 そうなるとソフィにとっても深い因縁のある組織ということか。


「むぅ……。ちと困った事になっているようじゃな。いまのこの国に突出した武力を持ったものは四天王の"影"を除けばおらん。我にいたってはこの10歳の姿ではとても勇者とやらの相手にはならないだろう」


 魔王の座る玉座の部屋でなお帯刀を許される四天王の"影"。
 この男は魔王からの信頼も厚いということは相当な手練れなのだろう。
 確かに、ただならぬ雰囲気を放っている男である。


「確かに、四天王の"影"は強い。じゃが一騎当千というわけにはいかぬじゃろう。それこそ20年前であれば、人の身でありながらたった一人でエンシェント・ドラゴンを斬り殺した一騎当千の女騎士ドラゴン・スレイヤーがおったのじゃが、人族……どこぞの木こりの男とやらと結婚して既にこの魔導法国にはおらぬ。仮に、助力をもらえたとしてもさすがに20年も経ったいまでは全盛期の頃のように戦うことは不可能じゃろう。」


 ドラゴン・スレイヤー、一騎当千の女騎士、20年前、木こりと結婚。
 これだけの手がかりがあれば俺だって理解できる。
 魔王が話している一騎当千の女騎士とは俺のオフクロのことだ。

 俺は、旅立ちの日にオフクロから無言で渡された、
 一振りの業物《わざもの》の剣を背中から取り出し、
 ひざまずきながらその剣を魔王に手渡す。

 魔王は鞘から剣を抜き興味深そうに検分する。
 そして、一通り剣の確認を行うと鞘に戻し、
 俺のもとに、その剣を返す。


「おぬし……もしや、20年前のドラゴン・スレイヤーと木こりの子供……つまりは、そういうことか……これは……ソフィと、おぬしがこの地に辿り着いたということは、もはや偶然を通り越して、天命じゃ」


 そういうと魔王は玉座の上で愉快そうに笑うのであった。
 その魔王の笑顔は10歳の年相応の少女の表情であった。
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