木こり無双~愛する者のためならば、勇者も神も切り倒す!~

にゃーにゃ

文字の大きさ
2 / 37

第2話『勇者と木こり』

しおりを挟む
 勇者シンが決闘場として選んだのはギルドの屋外修練施設だった。どこから噂を聞きつけたのか観客席は人でごった返していた。勇者の立ち会いを見る機会なんてないんだから当然だろう。

 この勝負を賭けごとにしているやつまでいる始末。

 この決闘の名目は、勇者に対して不当に暴力を働いた、無法者への制裁ということになっているらしい。唯一の救いはこの決闘にソフィの名前が出てこないことだ。

 勇者の後ろにはいかにも王族といった少女、ハイエルフの少女、ボーイッシュな少女が立ち並んでいた。追放されたばかりのソフィは不安そうな顔で一般の観客席から覗いていた。

(……この勝負、絶対に負けるわけにはいかない)

 審判員に促されるかたちで、俺とシンは訓練場の中央に向かい立つ。俺が選んだ木剣はいわゆるロングソード状の木剣。対するシンが選んだのは、刃渡りこそ短いが、手数を多く叩きこめる二本の木剣。 

「面白いよ。ケネス、お前とは一度は本気でやりあいたいとは思っていたんだよね。昔とは違う。勇者になった僕に、キミごときが勝てると思うなよ」

 まだ2年前に神託で勇者としての地位を得る前に、シンと俺は木剣の模擬戦相手をしていた。当時は体格差もあり俺が全勝だったが、勇者となりモンスターの戦闘も数多くこなしている今は、昔のようにはいかないだろう。

「御託《ごたく》は良い。来いよ、シン」

 その言葉を合図にシンはわずかに身をたわめ、太ももに入れた力を一瞬で解放。二人の距離が一気に縮まる。俺は迫りくるシンの剣の軌道を予測し、木剣を構え、シンの2刀の連撃を迎え撃つ。

 双剣の一撃は軽いなんて言われているが、少なくとも勇者シン相手にはそれは通用しないな。木剣の戦いとは思えないほどの衝撃が手首に走る。

 戦闘をこなしたシンは昔とは大違いだ。スキを見せたら一気に間合いを詰められ、連撃で完封させられる。


「やるじゃん。僕の初撃を受け流すなんてさ。でも、手加減はこれで終わりだ。ここから先は僕もスキルを使わせてもらう。おいっ! フレイヤ、ボッと見てないでいますぐ僕に身体強化と、速度加速の強化魔法をエンチャントしろ!!」


 最前列の見物席に座っている少女が詠唱を遂げると、シンの体が淡い光に包まれた。強化魔法が成功したということだろう。それにしても決闘の最中に堂々と仲間への協力要請とは……勇者とやらのプライドはどこへいったのやら。

(だが、まあ……厄介だ)

 シンが地面を蹴ったかと思ったら、既に目の前まで来ていた。明らかにさっきよりも速い。……そして重い。

 身体強化が施されたシンの一撃は初撃よりも遥かに重かった。四連撃技の三連撃目までは、なんとかいなすことができたが、なかば押し切られる形で、後ろに一歩後退させられる。

 上体をひねり、四連撃目の剣戟を回避するも、シンの右手の木剣が俺の首筋をかすめる。俺は一歩下がり間合いをとりつつ木剣を力の限りに縦一文字に切り結ぶ。

 だが、シンは寸前でこの攻撃を回避。更に速度を加速し、二刀による連撃剣を放つ。俺は撃ち込まれる木剣の連続剣をいなしつつ、シンと距離をつめる。

 ――この距離なら

 決闘において体術の使用は禁止されていない。俺は前傾姿勢で突っ込んできたシンの顔面を蹴り飛ばす。俺の土のついた靴底がシンの高貴な鼻っ柱にめり込み、宙に吹き飛ばされる。

 シンの足は地面から離れ、天地が逆さに成る。そして顔面から地面に激突。地面を何度かゴムまりのように跳ねたあとに、地面に吐瀉物を撒き散らす。

木剣の先端をシンの首元に突きつける。俺は、審判員の方を見ながら告げる。

「決着だ」

 シンは吐瀉物を喉に詰まらせて口が開けないのか、弱々しく両の手を挙げ、降参の意志を示す。

「……っ! 勝者、ケネス」

 審判が俺の勝利を告げている。会場がどよめいている。

「っざけんな……! まだだ……まだ、決闘は終わっていない。リーファ、いますぐに僕に治癒魔法かけろ。早くしろ! キミの治癒が遅いから審判に勇者である僕が負けにされるところだったじゃないか!!」

 決闘の立ち会いを見守っている、観客たちもシンの恥も外聞もない戦い方に白けている。それは例外なくだ。この勝負の賭け金をシンに掛けていた観客ですら首をかしげている。だが不平を口にすれば、王都を追放、下手をしたら死罪にされかねない。

 だから口には出さず黙っている。会場は異様な空気に包まれていた。

「……エリアル。僕が走り出したのと同時に奴にファイア・ボールを放て」

 指示の言葉を受け、姫騎士エリアルは一瞬ためらうも、魔導書を開き魔法の詠唱を開始する。

「降参しろよ……ケネス。犬のように僕の靴を舐めるか、頭を地面にこすりつけながら、僕に許しを請えば、今なら腕一本斬り落とすだけで特別に許してやるよ」

「――断る」

「ふへっ、ふへへっ、ならここで死ねよ。……これが絆の力だぁああっ!!!」


 シンが地面を蹴ると同時に、観客席の女性、エリアルが空中に描いた魔法陣から、ファイア・ボールが放たれる。目の前に迫りくる、剣戟と、魔法を同時になんとかしないといけない。おそらく魔法と双剣の振るわれるタイミングはほぼ同時。

 なら、同時に斬ればいい。

 魔法を斬ったことなどない可能かなど分からない。だけど、同時に断つには、やるしかない。村の周りの木を切り続けて10年間。一日も休まずに来る日も来る日も木を切り続けた。

 ときには山の中で遭遇したギガント・オークや、ホブ・ゴブリンを、
 ナマクラのナタで、叩き殺したこともある。
 モンスターと戦ったことがあるのはシンだけではない。

 だが、何よりも多く反復で繰り返しこの体に染み付いているのは、最も多くこなしてきたのが薪割りだ。単純な上方から、下方へ向けて放たれる斬撃。だが、縦一文字に振るわれる一撃は本物の剣であれば、兜をすら破壊するだろう。

 目をつむり極度の集中の世界へ踏み込む。気の遠くなるほどの反復の中で辿り着いた境地。それは、もはや剣技《アーツ》の域にまで達していた。

「――見えた」

 音も、光もない、静寂の中に迫りくる2つの物体。俺はカッと目を見開き、ただ縦一文字に木剣を振るう。完成された究極の一撃。

 俺が繰り出したのは、ただ上段から下段へ振り降ろされる縦斬り。体に最も染み付いた動作だ。ただし――その威力も速度も何もかもが段違い。

 振り降ろされた木剣はファイア・ボールを両断し、前傾姿勢で横薙ぎに剣を振ろうとしていた、シンの右肩に振り降ろされる。

 鎖骨、肩甲骨、肩峰、胸鎖関節を破壊すると、そこで止まった。――否。木剣がそこで折れたのであった。

 遅れて、ドサリと音が聞こえてくる。あまりの激痛で気を失ったのか、それ以上、シンは動かなくなった。

「審判、コイツを連れていけ。――決着だ」

 普通なら成立しないはずの勝負。だが、この決闘の持つ意味合いは俺と奴とでは重みが違った。

 それが俺と奴との勝敗を分けた理由だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位 転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

処理中です...