未開惑星保護機構

工事帽

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勇者捜索隊

7.壊すは鬼の所業なり

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 アリッサの体が一歩、一歩、進む度に膨れ上がる。
 腕は太くなり、足は長くなり、身に着けている全身スーツの装甲版はその隙間を大きく開け、装甲の役割を果たすには不十分だ。

 このスーツはアリッサ用に特別に作られたものだ。アリッサが限界までその身を大きくしても損傷することはない。高い防刃性能を保ったまま延びるように出来ている。このスーツでなければ、とっくに衣服は千切れ飛び、その肌を晒していたことだろう。

 そして美しい少女の額からは二本の角が生え、目は赤く輝き、口元からはわずかに牙がその身を覗かせる。
 かつての大開拓時代、数多くの亜人が生まれた。
 そして、その中のいくつかの種類は理性を失い魔物と呼ばれるに至った。

 その一つに『オーガ』という種族がいる。その後の遺伝子技術が改良され、安定していく中で、魔物に至る原因は抑制されたと言われている。
 だが、危険な開拓地で敵性生物の殲滅を目的に開発された『オーガ』は少し違う。強靭な肉体と、暴力性に特化した亜人。『オーガ』は危険視され、遺伝子改良のラインナップから除外されていった。

 アリッサは、そのオーガの遺伝子を受け継いでいる。ある種の先祖返りだ。
 普段は力が強く、言葉使いが汚いだけの自称『美少女』だが、戦いの場では、かつて魔物に落ちたオーガ達と同じく、角が生え、体は大きくなり、汚い言葉使いに相応しい獣性をあらわわにする。

「んで、ドラゴン、お前は降伏する気はあるか?」

 大きくその身を変えたアリッサから見ても、さらに高い位置にあるドラゴンの顔に向けて言葉を掛ける。その返答は、

「ガアアアッ!」

 戦いの始まりを告げる叫び。
 振り下ろされるドラゴンの爪を躱し、アリッサが跳躍する。
 その身は軽々とドラゴンの顔の位置まで跳ね上がり、その拳はドラゴンに叩きつけられる。

「グガッ!?」

 顔を横から殴られたドラゴンはその首を大きく曲げる。耐える苦悶の息が音となって漏れる。
 殴った反動を使って、アリッサは少し離れた場所に着地する。

 アリッサは追撃をせずに、拳の感触を確かめる。
 手を開いて、握る。開いて、握る。
 何を確認しているのか、その動作を数度繰り返した後でポツリと呟いた。

「魔力が固定されてんな。隷属の魔道具か? 気に入らねえ」

 ドラゴンがやっと体制を立て直す。
 アリッサを見るその目には恐れも怒りもない。ただ戦いの意志だけがある。

 駆け出すアリッサに再びドラゴンの爪が振り下ろされる。
 再び跳躍で躱すも、空中にいるアリッサを、今度はそのあぎとで捕えようとドラゴンは口を開ける。しかし、開いた口先を横から蹴り飛ばされ、今度は逆方向に首が大きくしなる。

 一度着地したアリッサは、ドラゴンが体制を整える前に三度目の跳躍。
 今度は首の後ろに取り付き、ドラゴンの太い首を締めあげる。普段のアリッサの手ならば届かない太い首でも、大きく身を変えた今ならば締め上げることが出来る。

 ドラゴンは首に取り付いたアリッサに気づき、振り落とそうと暴れるが、アリッサはそれを無視して首を締め上げる。ほどなく、ドラゴンは倒れ伏した。

「あら? 隊長、殺しちゃったの?」

 クロエがそう言いながら近づいてくる。
 後ろではエリックが気絶した勇者を縛り上げている。青く輝いていた鎧は無残にも千切れ飛び、下に着ていたであろう衣服もボロボロになっている。

「いや、このドラゴン自体は魔力体だ。ちょっとばかし魔力を引っ掻き回してはやったが、死んではいねえよ」

 言いながらドラゴンの体を探っていく。

「ふーん、それでその子はどうするの? バイクで運ぶにはちょっと大きすぎるわよ」
「ちょっと待て。どっかに隷属の魔道具があるはずなんだ」

 ドラゴンの体を調べ続け、首の根本で足を止める。

「こいつか」

 突き出したアリッサの手は、ドラゴンの皮膚を突き破り体の中に入り込む。

 カチャン。

 そんな軽い音と共に、ドラゴンの体が砕け散った。
 巨大な体躯は霞のように消え去り、アリッサが突き入れた手の先に、少女が一人、横たわる。

 一糸纏わぬ少女は、人型はしているものの尻尾があり、また小さいながらも翼があった。
 その尻尾は爬虫類のような鱗と質感を持っている。その背中は人と同じような肌になっている。その翼は蝙蝠のような皮の翼だ。
 薄汚れた金髪は、光の加減によって少し緑掛かって見える。ドラゴンだった時の鱗の色。それは光で僅かに浮かび上がるドラゴンの名残だろうか。
 その額にはサークレットが嵌っていたが、既に割れて地面に落ちている。

 クロエは慌てて後ろを振り返るが、幸いにもエリックは勇者を引きずってバイクのほうに向かっている途中で、こちらは見ていない。
 ほっと息をついている間に、いつの間にかアリッサは元の体躯に戻っており、倒れたままの少女をマントで包んでいた。

「その子がさっきのドラゴンなんでしょうけど、どうなってたの?」
「あー、簡単に言うと俺の変身と似たようなもんだな。魔力でドラゴンの体を作ってたんだ。隷属の魔道具で強制されてたみたいだな」

 そこに落ちたままのサークレットを指差し、拾っておいてくれと告げてアリッサはマントに包んだ少女の体を抱えて立ち上がる。

「隷属させられていたんだし、この子は被害者側だろうな」
「じゃあ勇者と一緒に中央送りじゃないの?」
「違うだろうな。ただ、この惑星にドラゴンへの変身能力持ちが他に居るのかは、調べて見ないと分からないな」

 それは現地司令部の仕事だとアリッサは思う。
 隷属の魔道具はそれ自体が違法だ。勇者がそれをどこで手に入れたのか、どこからこの少女を攫ってきたのか、不法入星以外にも余罪があることは確定だ。

 この惑星の住人であれば、そこへ帰してやればいいが、他の惑星から連れて来られたという可能性もある。

「じゃあこの惑星の司令部で保護かしら」
「いや」

 少女の負担にならないように、膝の裏と腰に手を回し、少女の顔は肩に持たれ掛けさせる。腰ではなく、脇の下あたりを抱えるほうが一般的だが、今は少女の翼ごとマントで包んでいる。脇の下で抱えると翼に重さが掛かってしまう。

 抱え込んだことで少女の顔がアリッサの顔の間近にある。
 浅い息は生きている証。
 しかし、薄汚れた顔と髪は隷属のせいだろう。勇者はこの少女をドラゴンの姿でいることを強制していた。人を人と思わない扱いを考えれば、清潔な生活など送って居なかったことは想像するまでもない。

「俺が保護する」

 少女を起こさないよう、声を抑えながらもアリッサは宣言する。

「可愛いからな!」
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