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39.勘違い③
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大樹は少し昔を思い出した。
持っていたグラスをテーブルに置く。
「……吊り橋効果だって、言われたことあります」
最初伊沢には、この恋が錯覚だと言われた。
だから、魔法の効果が切れてしまうことを、大樹は不安に感じていた。
四年も付き合っていれば、もう大丈夫だとは思うけれど。
なるほどねと、みどりが呟く。
「あおはね、自分に対して思い込みが激しいところがあるの。自分はやればできると思ったら、本当にできてしまうようになるの。子供の頃から優秀な子ねって言われてたけど、子供の優秀さなんて知れてるじゃない? でも、あおは自分がそうだと思い込んで、本当にどんどんそうなっちゃうの。もちろん、努力もしてるけどね」
みどりは一瞬躊躇いを見せた。
「……私の事故の原因って、聞いた?」
思わずドキリとする。
伊沢がみどりをレイプしようとしたことだ。
大樹は小さく頷いた。
「あれも、二人きりになった状況に、押さえ込もうとして葛藤した挙句、暴走したんだわ。性格的に優秀であるべきと考える気持ちと、男として今しかないという気持ちが、あの子の頭をパンクさせちゃったのね」
済んだ過去の話のように、みどりが語る。
みどりの中では、もうその出来事はすっかり終わったものとして考えているようだ。
「だから、いいこと教えてあげる。あの子をどうにかしたかったら、周りからそう思わせるように仕向ければいいわ。後は自分でどんどん思い込んじゃうから」
みどりが伊沢のとんでもない弱点を口にする。
「あおが迷ってる時は、その方向に押してあげるといい。きっかけがあれば、そうなのかって誘導されるから。そうなんだって思わせてしまえばいいの」
「誘導……」
「大学もそう。八つ当たりすることもあったけど、進学を諦めて欲しいなんて、そこまでの自己犠牲は望んでいなかった。進学してはいけないと思い込んでいたあおをどうにかするのは、私でも大変だったのよ。……だから、あおが何か迷っていたら、大樹くんが導いてあげてね」
あんな行為をしてはいたが、みどりにとって伊沢は大切な弟なのだ。互いに想い合っている姉弟だ。
「あの子、しっかりしているようで案外危なっかしいの。嘘でも既成事実作られて迫られたりでもしたら、責任取ろうという気持ちに支配されて奪われちゃうわよ。気を付けて」
みどりの言葉に、ハッとする。
確かに、それほど思い込んで一直線な性格なら、それは諸刃の剣といえる。
女が時として凄い仕掛けを用意してくるのは、少女漫画でもお馴染みだ。結婚相手として狙ってくるなら、それくらいのことをする女がいても不思議ではない。
就職すれば、社会人として大人の付き合いも色々増えてくる。危険が増える気がした。
「そう考えたら怖いな……」
大樹は呟いた。そんな様子に、みどりがくすりと笑う。
「でもまさか、本当に付き合うとは思わなかったわ。半分冗談だったのに」
「え?」
思わず大樹は訊き返した。
「私、付き合いなさいなんて言ってないでしょ」
持っていたグラスをテーブルに置く。
「……吊り橋効果だって、言われたことあります」
最初伊沢には、この恋が錯覚だと言われた。
だから、魔法の効果が切れてしまうことを、大樹は不安に感じていた。
四年も付き合っていれば、もう大丈夫だとは思うけれど。
なるほどねと、みどりが呟く。
「あおはね、自分に対して思い込みが激しいところがあるの。自分はやればできると思ったら、本当にできてしまうようになるの。子供の頃から優秀な子ねって言われてたけど、子供の優秀さなんて知れてるじゃない? でも、あおは自分がそうだと思い込んで、本当にどんどんそうなっちゃうの。もちろん、努力もしてるけどね」
みどりは一瞬躊躇いを見せた。
「……私の事故の原因って、聞いた?」
思わずドキリとする。
伊沢がみどりをレイプしようとしたことだ。
大樹は小さく頷いた。
「あれも、二人きりになった状況に、押さえ込もうとして葛藤した挙句、暴走したんだわ。性格的に優秀であるべきと考える気持ちと、男として今しかないという気持ちが、あの子の頭をパンクさせちゃったのね」
済んだ過去の話のように、みどりが語る。
みどりの中では、もうその出来事はすっかり終わったものとして考えているようだ。
「だから、いいこと教えてあげる。あの子をどうにかしたかったら、周りからそう思わせるように仕向ければいいわ。後は自分でどんどん思い込んじゃうから」
みどりが伊沢のとんでもない弱点を口にする。
「あおが迷ってる時は、その方向に押してあげるといい。きっかけがあれば、そうなのかって誘導されるから。そうなんだって思わせてしまえばいいの」
「誘導……」
「大学もそう。八つ当たりすることもあったけど、進学を諦めて欲しいなんて、そこまでの自己犠牲は望んでいなかった。進学してはいけないと思い込んでいたあおをどうにかするのは、私でも大変だったのよ。……だから、あおが何か迷っていたら、大樹くんが導いてあげてね」
あんな行為をしてはいたが、みどりにとって伊沢は大切な弟なのだ。互いに想い合っている姉弟だ。
「あの子、しっかりしているようで案外危なっかしいの。嘘でも既成事実作られて迫られたりでもしたら、責任取ろうという気持ちに支配されて奪われちゃうわよ。気を付けて」
みどりの言葉に、ハッとする。
確かに、それほど思い込んで一直線な性格なら、それは諸刃の剣といえる。
女が時として凄い仕掛けを用意してくるのは、少女漫画でもお馴染みだ。結婚相手として狙ってくるなら、それくらいのことをする女がいても不思議ではない。
就職すれば、社会人として大人の付き合いも色々増えてくる。危険が増える気がした。
「そう考えたら怖いな……」
大樹は呟いた。そんな様子に、みどりがくすりと笑う。
「でもまさか、本当に付き合うとは思わなかったわ。半分冗談だったのに」
「え?」
思わず大樹は訊き返した。
「私、付き合いなさいなんて言ってないでしょ」
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