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40.勘違い④
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「………。え!?」
衝撃が走り、大樹はみどりを見た。
凄まじい勢いで、記憶が過去に戻る。
確かに、付き合ってもいいと言われただけだ。
みどりのそれまでの振る舞いのせいで、付き合いなさいと言われたものだと途中から思い込んでいた。
大樹がそう思い込んでしまったくらいだから、伊沢もそう思い込んでしまったのではないか。
しかも、勘違いした大樹が押す形で、付き合う方向に流れてしまった。
「………」
自分の勘違いに今更ながらに気付き、大樹は黙り込む。
急に不安が襲ってきた。
伊沢を見ると、話しかけてくる女たちに丁寧に対応を続けていた。
確かに、いつも求めるのは大樹からだ。好きだと思われていると感じることもあるが、伊沢から表すのは常にではない。
大樹が勘違いして誘導したせいで付き合うことになり、恋人になったから好きなのだと思い込んでいるだけだとしたら―――。
それとも、迷ってくれるくらいには、大樹のことを気にしてくれていただろうか。
四年も付き合っているのに、伊沢の気持ちが急に信じられなくなった。
「俺、どうしよう……」
大樹が小さく零した言葉は、周りの声に消されてみどりには聞こえなかった。不安そうに見つめられ、みどりはどうかしたのかと首を傾げる。
大樹はふらりと席を立つと、みどりを残して女性陣に囲まれた伊沢の元に近づいた。
大樹に気付いた伊沢が、不思議そうに見返す。
「どうかしたのか?」
伊沢がそう思うほど、大樹は表情に出ていたようだ。
「帰ろう」
大樹は女性陣の隙間から腕を伸ばすと、伊沢の腕を掴んだ。
腕を引っ張り、輪の中から連れ出す。突然お目当ての男を攫われた女性陣が、驚きの声を上げた。
伊沢を連れて席に戻ると、みどりに挨拶した。
「ごめん、みどりさん。帰るね」
「いいわよ。また会いましょうね」
みどりは笑顔で見送ってくれた。
状況を分かっていない伊沢は、大樹とみどりを交互に見る。
引き出物の紙袋を持つと、大樹は伊沢の手を引いたままレストランを出た。
レストランはビルの中にあったため、ビルの廊下へと出た。オフィスビルの一階なので、日曜日だと廊下にはまったく人の姿がない。
「急にどうしたんだ?」
立ち止まった大樹に、もう一度伊沢が訊ねた。
大樹は掴んだ伊沢の腕を離さずに、振り返った。
「ねえ。俺のこと好き?」
思い込みからくる、偽物の恋だったらどうしよう。
心に襲い掛かった不安は消せず、伊沢の気持ちを確かめたくなる。
「なんだ。結婚式にあてられたのか?」
結婚式の幸せな空気に酔っているのだと、伊沢は思っているようだ。
「好きじゃなかったら、こんな関係になってないだろう」
はっきりとした言葉で言わないことが、余計に大樹を不安にさせた。
衝撃が走り、大樹はみどりを見た。
凄まじい勢いで、記憶が過去に戻る。
確かに、付き合ってもいいと言われただけだ。
みどりのそれまでの振る舞いのせいで、付き合いなさいと言われたものだと途中から思い込んでいた。
大樹がそう思い込んでしまったくらいだから、伊沢もそう思い込んでしまったのではないか。
しかも、勘違いした大樹が押す形で、付き合う方向に流れてしまった。
「………」
自分の勘違いに今更ながらに気付き、大樹は黙り込む。
急に不安が襲ってきた。
伊沢を見ると、話しかけてくる女たちに丁寧に対応を続けていた。
確かに、いつも求めるのは大樹からだ。好きだと思われていると感じることもあるが、伊沢から表すのは常にではない。
大樹が勘違いして誘導したせいで付き合うことになり、恋人になったから好きなのだと思い込んでいるだけだとしたら―――。
それとも、迷ってくれるくらいには、大樹のことを気にしてくれていただろうか。
四年も付き合っているのに、伊沢の気持ちが急に信じられなくなった。
「俺、どうしよう……」
大樹が小さく零した言葉は、周りの声に消されてみどりには聞こえなかった。不安そうに見つめられ、みどりはどうかしたのかと首を傾げる。
大樹はふらりと席を立つと、みどりを残して女性陣に囲まれた伊沢の元に近づいた。
大樹に気付いた伊沢が、不思議そうに見返す。
「どうかしたのか?」
伊沢がそう思うほど、大樹は表情に出ていたようだ。
「帰ろう」
大樹は女性陣の隙間から腕を伸ばすと、伊沢の腕を掴んだ。
腕を引っ張り、輪の中から連れ出す。突然お目当ての男を攫われた女性陣が、驚きの声を上げた。
伊沢を連れて席に戻ると、みどりに挨拶した。
「ごめん、みどりさん。帰るね」
「いいわよ。また会いましょうね」
みどりは笑顔で見送ってくれた。
状況を分かっていない伊沢は、大樹とみどりを交互に見る。
引き出物の紙袋を持つと、大樹は伊沢の手を引いたままレストランを出た。
レストランはビルの中にあったため、ビルの廊下へと出た。オフィスビルの一階なので、日曜日だと廊下にはまったく人の姿がない。
「急にどうしたんだ?」
立ち止まった大樹に、もう一度伊沢が訊ねた。
大樹は掴んだ伊沢の腕を離さずに、振り返った。
「ねえ。俺のこと好き?」
思い込みからくる、偽物の恋だったらどうしよう。
心に襲い掛かった不安は消せず、伊沢の気持ちを確かめたくなる。
「なんだ。結婚式にあてられたのか?」
結婚式の幸せな空気に酔っているのだと、伊沢は思っているようだ。
「好きじゃなかったら、こんな関係になってないだろう」
はっきりとした言葉で言わないことが、余計に大樹を不安にさせた。
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