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サキュバスの娘、大罪を断罪す

12 サンから見た戦い

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ディゴン盗賊団の攻撃の第一波が終わった。
これから何回こうやって襲ってくるのだろうか。これを予想できない限り、消耗戦は不利だ。
ヘプタ盗賊団のみんなはここから見る限り、かなり疲弊している様子だった。

いくらこの冒険者ギルドの建物が防衛に役立っているとはいえ、結局対人戦というのは相当身体に負担がかかる。魔獣や魔物と違って知恵を回してくるのが人間だ。
だからこそ、魔物の特徴を備えつつも知恵もある魔族は厄介だと言われている。

アタイは一段落した頃合いで建物の中に入る。
持っている荒縄はところどころ血で汚れてしまっている。いつの間にか入手していた『荒縄の服罪』というこのスキル。

スキルってのは先天性で始めから持っているものと、後天性の成長過程で得るものがある。アタイのこれは後天性のスキルだ。後天性のスキルは何かしらの条件を満たすと、入手できる。だけどその入手方法は過酷なものがほとんどだ。

先天性のものは、その条件を無視して入手していたりする。だけど、先天性のスキルを持つと結局そちらの方に運命が傾く。生まれた時から盗賊のスキルを持つアタイの父ちゃんは、盗賊になった。それがたとえ外的要因だろうと、そう運命が仕組まれていく。

アタイがこの『荒縄の服罪』を手に入れたという事にはきっと何かの意味があるのだろう。アタイはこれからこのスキルを道標に進むことになる。そんな気がした。

「おーい、お嬢! 聞いて下せえ!」
「なんだ?」

冒険者ギルドの高台で物見をしていた団員がアタイに駆けてきた。何かが起こったのだろう。まさかもう第二派が来たのか? だとしたら早すぎる。
人数の差がありすぎるこの状況、物量で攻められると防衛戦はあっさりと瓦解する。あっという間に建物内に侵入されてしまうだろう。

「ディゴン盗賊団と交戦していたメンバーが帰還しやせん!」
「なにっ! ではやられたのか! 敵はどこまで来ている!」
「それが……」

団員はそこで言いよどむ。どういえばいいのか悩んでいるようだった。

「侵攻してきていない……だと」

どうやら団員を倒した敵はまだこちらに向かってきていないみたいだ。
だがなぜ攻めてこない……? ほぼ相打ちになったということなのか?

「誰かそっちの方に様子を見させに行けるか? 余裕があればあいつらの遺体も弔ってくれ」
「わかりやした!」

アタイは指示を出すと、先ほど捕らえた捕虜を探す。ふと、ポーチに仕舞っていたブロンズタグを出す。そこに刻まれた二人の名前を見た。

「フラムとアイリスか……」

アタイも町が崩壊して盗賊になんてならなければ、冒険者とかにもなっていたのかな。いや、きっとそんな運命は許されていない。アタイは盗賊だ。人殺しもした。そんな犯罪者が今更冒険者になんてなれるはずがない。

それに、アタイには新しく町を勃興するという夢があるんだ。父ちゃん――族長と団員達の夢なんだ。そのためには、たくさん金を稼ぐ必要がある。
こんなところで立ち止っている場合じゃないんだ。

さて、あいつらはどこにいるのやら……。
今後の戦略についてあいつらの意見も聞いておきたいところだ。もう既にアイツらはアタイの術中。ほぼ仲間と言えるだろう。もし裏切ればそれだけでアイツらは勝手に首を吊る。それは逃れられない事実だ。

それに今アタイはアイツらのタグも持っている。これを持っていないと、アイツらは冒険者を名乗れない。冒険者の資格を失うのと同義なのだ。早々に再発行などできない代物らしいし、今までの経歴がこの水晶に刻まれているから、アイツらにとって唯一無二のアイテムなのだ。

だが、いくら探してもアイツらが見つからない。どこにいった?
確か先ほどはバルコニーの方で戦っていたはずだ。
アタイは近くにいた団員に尋ねる。

「ねえ、アタイが捕まえた捕虜の魔族はどこに行った?」
「あー、そうだな……。確かキュイールっていう新人とどこかへ行っていた気がしやす」
「そうか、キュイールか。わかった。もし見かけたら今日の族長会議に来るように伝えてくれ」

キュイールとは最近ヘプタ盗賊団に加入した新人だ。結構人望があるようで、直ぐに族長会議に参加するようになった手練れだ。あいつは情報戦にかけては右に出る者がいないくらい突出しているからな。盗賊はいかに情報を集めるかが大事だ。

相手がどのような人間で、どのような目的で動いてるのかを事前に察知できなければ、襲撃しても反撃されてお終いになってしまう。アタイたち盗賊は、襲える馬車だけを狙って襲わなければいけないのだ。

その点、キュイールは非常に便利だ。どこからともなく情報を仕入れてくれる。現状、ディゴン盗賊団の勢力図をまとめてくれているのはキュイールなのだ。アイツなら、捕虜たちを任せても問題ないだろう。

しかし、キュイールは一体今まで何をしてきて生きてきたのだろうな。崩壊したペンタゴンで死にそうになっていたから助けたわけだけど、もしかしたら前は情報屋とかやっていたのかもしれないな。

それはそうと、さっそく父ちゃんに今日の戦況報告をしにいかないとな。
アタイは冒険者ギルド、ギルド長室へ足を向けた。
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