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冒険者になる

外伝 美穂だって冒険したい①

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あたしは服の土を一生懸命にはらっていた。
これが結構くっついているようで、なかなか取れない。それこそかなり昔からこの服にこびりついているかのようだった。

ある程度掃える部分は掃ったあたしは、今着ている服が教祖に殺される前の服じゃないことに気付いた。あまりにも土がついていたせいでわからなかったのだ。

「この服……侍?」

あたしの姿はまるで日本の侍のような恰好をしていた。胴着に袴、和風なファッションである。
もしかして……、あたしは侍に生まれ変わったとか?
慌ててあたしの埋まっていただろう場所に戻ってみる。

土が大量に掘り起こされた場所だ。もしかしたら、刀とかも埋まっているかもしれない。別に侍とかには興味なかったけれど、こうなんか持っていなくちゃいけないという焦燥感があたしを駆り立てた。
しかし、いくら土を掘り返しても刀は埋まっていなかった。
ま、そうだよね。どうせ土に埋まってたら錆びていたよ。

あたしが半ばあきらめて立ち上がろうとすると、目の前でちらりと光るものが見えた。
目の前に生えていた木のうろの中に、金属質な何かが埋まっているのだ。
よく見ればそれは刀のつばだった。

こんなところに埋まっていたのか!
ていうことはあたしの転生先の侍は、この木が育ちきる前に亡くなっていたってこと?
あたしは大きな木を見上げる。ここまで大きく育つのには数十年はかかるだろう。もしかしたら百年とかいっているかもしれない。

幹の太さはあたしの両手を広げても足りないくらいだ。ものすごい年月を経ているんだろうな。
あたしは見えている刀の鍔に視線を向ける。
これ、欲しいなあ。でもおそらく抜くことはできない。がっちりと木に飲み込まれているからだ。

あたしは木に触れる。この木を通り抜けられたら刀に手が届くのになあ。あたしがそう思ったとき、なんだかそれが出来てしまうような気になった。
なんだろう、この感覚は。

あたしはその感覚を頼りに、刀に手を伸ばす。すると、手が木の中に溶けていくように入っていったのだ。

「うわっ!!」

あたしは思わず手を引っ込める。手は何ともない。そして木も何事もなくそこにそびえ立っていた。
まるであたしだけが木の中に入ったような感じだ。
これなら、刀を取れるんじゃないか?

あたしはもう一度先ほどの感覚を思い出して、手を伸ばす。そして刀のあるところを手探りで探した。
カチャリと、刀に触れた感触がした。あたしはその刀を思いっきり握る。

が、しかし引き抜くことはできない。あたしの手がすり抜けていたとしても、刀は木に閉じ込められているからだ。
刀を握ったまま、うーんと唸るあたし。
もしかして、刀もすりぬけられるのではないのだろうかと思いつく。

今あたしが手に込めている感覚を刀の方にも伸ばしていく。
ドクンと左手の甲が痛む。見れば赤い痣が鈍く光り、私に訴えかけてくる。

『侵入の罪人』

再び、脳内にこの言葉が過る。あたしはさらに刀に力を注ぐ。

「ぶべっ!」

すると、ふっと支えがなくなったかのように、あたしは前方に倒れこんだ。そして勢いよく頭を木にぶつける。木は表面がざらざらとしているため、結構痛い。
ふぅ、と一息つく。今あたしの手の中には刀が握りしめられていた。

「おお、凄い名刀だ」

名刀とか全くわからないけど、あたしはそうつぶやいた。いや、でもきっとこんなところに埋まっていたんだ。さぞかし有名なものに違いない。あたしはそう思うことにした。
シュンっと鞘から刀を引き抜く。

その中から銀色に輝く刀身が太陽の光をこれでもかと反射してあたしの目を焼いた。
あ、これマジもんの名刀だ。素人目のあたしでもわかる。
全てを引き抜いたあたしは、鞘を地面に置き両手で刀を構えた。

ポーズだけ見れば様になっているのではないだろうか。土で少し汚れてはいるが、胴着に袴に刀。
しかもこの刀、真剣だ。
あたしはその刀を上段に構える。

あれ、なんか手にしっくりくる気がする。
そして上に振り上げて、一気に振り下ろす。

ヒュンという風切り音が聞こえた気がした。その音は、はるか彼方まで響き渡ったような気がする。
振り下ろした拍子に目を瞑っていたあたしは、そっと目をあけた。

「なに……これ……」

あたしが振り下ろした前方の草原。そこにはずーっと遠くの方まで一本線のような切り傷が続いていた。恐ろしく真っすぐできれいな線。それはまるで国境線を引いたかのような長さだった。
あたしの目では、線の先っぽは視認できない。

しかし少なくとも、かなり遠くにある森の一本の木が真っ二つに切れて倒れたのを見ると、どうやら森にまで届いているようだった。

「怖えええええええええええ!!!!!!」

え、なにこれ、こわっ!!
この刀こわっ! 凶器じゃん! 兵器じゃん!
あたしこんなの持てないよ!!

思わず捨てようとするが、それはそれで怖いので捨てられない。
こんななら、取らなければよかった。今からでも木に戻そうか……。だけどそれも嫌だなあ。

あたしがそうやって一人問答していると、何者かの足音が近くにやってきていた。
ハッとして振り返ると、そこには四匹の狼が!!

「なにっ! なんで狼がこんなところに!?」

狼……というか、よくみたら額の中央に宝石みたいな石が埋め込まれてる。え、狼じゃないの?
その狼もどきたちはどうやら森の方から走ってきたようだった。あたしが斬った木の下あたりの方からだ。

「あ、もしかして群れに攻撃しちゃったとか……?」

あたしの言葉に肯定するかのように狼が大きく吼えた。
ひやっ! ごめんなさいっ!!
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