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冒険者になる

外伝 美穂だって冒険したい②

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狼もどきたちはあたしを取り囲む。
どうやら確実にあたしを仕留めたいようだった。咄嗟にあたしは刀を握る。

武器を持ってはいても狼なんて勝てるわけないじゃない。この狼もどきたち、一匹一匹が人間と同じくらい大きい。それのせいで威圧感がものすごい。
決して適当に武器をふるってるだけで追い払えるものじゃなかった。

絶体絶命!!
あたしの目の前にいた狼もどきがあたしに飛びかかろうとしてきた。
素早いその動きにあたしは死を覚悟した。

しかしその時、狼もどきの動きが遅くなったように感じた。
いや違う、世界全体がスローモーションのようにゆっくりと時間が流れ始めたのだ。あたしの動きも少し重く感じる。もしかしてこの状態なら、正確に狼もどきを斬れるかも。

あたしは納刀していた刀を再び鞘から引きぬく。するりと抵抗なく抜けた刃は、そのまま飛びかかってきた狼もどきの首元まで滑らかに軌道を描いた。
そして両断。斬った感触すらないままあたしは狼もどきを絶命まで至らせた。

続けて背後を見る。ほぼ同時に飛びかかってきたのだろう。狼もどき三匹が一斉に空中で制止していた。正しくは空中でゆっくりと襲い掛かろうとするモーションが見えた。
あたしは振りぬいた刀をそのまま三匹の首元にそれぞれ宛がう。それだけで、その三つ首はねた。

ドサドサッっと、狼もどきの死体が落ちて世界は再び元の時間が流れ出した。

「何……今の」

あたし、今確実に狼を殺したよね。
振り返ると狼の死体が四つ転がっている。その死体からはドクドクと赤い液体が流れ出していた。
あたしは返り血を浴びないように動いたせいで、汚れていない。

あたしは刀を見やる。既に納刀された・・・・・・その刀のつばは、まるで自身を誇るかのように輝いていた。
あたし、今自分で納刀したよね。しかもつい手癖で・・・・・血を払ってから、つかえることなく納刀した。
剣なんて握ったことのないあたしがどうしてここまでスムーズに刀を振るえたんだろう。

その時、キラリと光るものが視界に入った。狼の額にあった宝石だ。
あたしはその宝石を眺める。

「これ、もしかして高く売れるんじゃないかな」

今あたしがいるこの場所は、元の世界なんかじゃない。おそらく異世界というやつだろう。教祖のせいでここに転生させられた。つまりあたしはここで生きていかなければならないのだ。
知り合いはいない。頼れる人が誰もいないこの状況では、己の勘だけで生きていくしかない。

あたしは狼もどきの額から計四つの宝石を抜き取った。その宝石は青色に輝きを放っていた。なぜ生き物の身体の中に鉱石が埋め込まれていたのかは知らないが、これがダイヤとか貴重なものなら生きてく上で多少役に立つはずだ。

もし高く売れなくても、この刀を売ればいいし……。いやそれは止めておこう。今みたいに狼もどきに襲われた時、自分の身を守れるものは欲しい。この刀、めちゃくちゃよく斬れるから、手放さないほうがいいだろう。

さて、ここからどうしようか。先ほど、見かけた遠くにある城壁のほうまで行こう。森の奥かな。
結構遠そうだ。普通に歩いて行ったなら着くまでに日が暮れてしまうだろう。ちょっと走っていかないとダメそうだなー。よし、走るか。
あたしは城壁に向かって駆けだそうとした。

「あれ、おおうっ!?」

踏みしめた大地が軽く割れ、かなりの速度であたしが射出された。空中に身を投げ出したあたしは、勢いよく地面に激突して数メートル転がった。

「いてて……」

変に着地したせいで、また土と草があたしの身体にまとわりつく。痛みは……そこまでない。結構地面を抉りながら転がったのに、あたしは傷一つなかった。そして後方を見ると、あたしがさっきまでいた場所からかなり離れてしまっている。

狼もどきの死体近くは、爆心地のように大地が禿げており、かなり目立っていた。

「うわあ……」

思わず引く。あたしの身体、これどうなっちゃってるの? 今までのような感覚でやると、いろいろ破壊しかねない。
綺麗な草原の景観を損ねてしまったけど仕方ないと割り切っておこう。あたしは、今度は軽く踏み込んで走り出した。

それでも結構速い。あっという間に景色が流れていく。電車に乗っているくらいの速度だろうか。この体かなり便利かもしれない。
そして瞬く間にあたしは森の入り口までたどり着いた。城壁は木々に囲まれて見えなくなっている。

此処を真っすぐ進めばおそらく城壁にたどり着くはずだ。森は、地面がでこぼこしているため走りにくい。先ほどまでの速度よりもさらに遅くして進む。
タンタンと、地面をたたきながら進んでいくと少し先で人の声らしきものが聞こえた。

それと共に、金属音も響く。あたしは走るのをやめ、こっそりとその音のした方へと進んだ。

「ていっ!」
「逃がすなっ!」

剣士っぽい男と、大盾を持った男と、杖を持った女性が何かを追いかけているのが見えた。
それに敵対するかのように、民間人っぽい人間が三人。うち一人が子供だ。
よくみれば民間人っぽい人たちは頭に耳を生やしていた。コスプレかな。

「風魔法――ウィンドカッター!!」
「うがああ!」

おお!? 杖を持った女性が何かを唱えると、その杖から見えない何かが飛んで、コスプレ民間人を斬りつけたぞ!!
映画の撮影か何かなのかな。あれ、でもあの血、本物じゃない? 民間人の男が倒れこむ。残るは女と子供だけだ。

「アナタだけは逃げてっ!」
「ママー!!」

どうやら親子みたい。しかし、無情にも剣士が女性を斬りつける。斬られた女性は、背中から血しぶきをあげて倒れこんだ。もう子供だけしかいない。え、これやばくない??
あたしは咄嗟に前に出て、子供を庇うように手を広げた。ごめんなさい、これが映画の撮影だったら本当ごめんなさい!

「誰だお前はっ!」

あー、やっぱりあたし部外者ですよねー。ごめんなさいー!
そう思ったあたしが立ち去ろうとすると、背中からぎゅっと袴を握られる感触がした。先ほどの子供だ。その子供の顔は恐怖と悲しみで染め上げられていた。今あたしがここで逃げ出したら、今度はこの子が斬られる。

あたしはその表情を見て怒りを募らせた。
映画の撮影……?
何をバカなことを思っていたんだ。これが映画の撮影じゃないことくらいわかってただろう。

先ほどから動かない倒れた二人。流れ続ける血。そして異世界というこの場所。全部が実際に起きていることなんだ。適当な理由をつけて逃げるなっ、あたし!

あたしは、今も睨みつけてきている剣士に向かって名乗りを上げた。

「あたしは美穂。佐伯さえき美穂だ」

そして、刀を抜き放って目の前のに向けた。
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