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冒険者になる
18 解決策
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これでわかったことがある。
この世界には、私と同じく前世からやってきた「罪人」というスキルと持つ人間が複数存在する。そしてその罪人スキル所持者を殺害すると、殺害者に「服罪」というスキルが付与される。
「罪人」と「服罪」は同じような効果を発揮し、そのどれもが通常の魔法やスキルとは桁違いな威力を出す。
このスキル一つで簡単に相手を無力化できるのだから、その性能は折り紙付きだろう。
実際、ハイドはその能力でシェリルの前の仲間も含めたいくつものパーティを壊滅させていた。
そんな能力を今、私は手にしている。
どうしよう。これは正直身に余る。
しかし、今私はこの話題を深く考える時間はなかった。
アイリスの魅了を解くのが先決だからだ。アイリスは現在私の魅了にどんどんとかかってしまっている状態だ。今は催眠で眠らせて大人しくなっているが、着実に彼女を蝕んでいっている。このままでは彼女の人格が私ありきの物に変質してしまうだろう。
そんな事態にはさせたくない。
「ねえ、サンクシオンさん。アイリスのこの魅了を解く方法はないんですか?」
「お前は自分で解けないのか? そうなると厳しいものがある。麻痺、石化、毒等の肉体の状態異常ならばそれ専用の治療法で直せるが、精神系の状態異常は術者と本人とのリンクを断ち切る必要がある。一番簡単なのは、術者本人がスキルを解除することだが、今のフラムにはどれが発動しているのか見当もつかないのだろう? それならば、リンクを外から強制的に絶たなければならないだろう」
なるほど。魅了などの心に影響するものは、常に術者と本人がリンクしているのか。つまり、今の私はアイリスと見えない糸でつながっているということになる。それを断ち切らなければ、能力が延々と注がれ続けるという理屈なのかな。
「それは一体どうやったらできるんですか?」
「俺にはさっぱりだ。戦闘向きだからな、俺は。だが心当たりはある。星詠みの塔だ」
ルシェルシュ……なんて?
すんごい言いづらい名前だ。
「そのルシェなんとかで、このリンクを切ることができるんですね」
「ルシェルシュトゥールだ。星詠みの塔とも呼ばれている。この世界に存在するスキルの謎を解明する組織のことだ。このアヴリル中央街にも支部がある。そこでなら、スキルに干渉する術が見つかるだろう」
「わかりました。ではすぐに向かいましょう。場所はどこなんですか」
私は急かすようにサンクシオンに詰め寄る。
「まあ待て、そう焦るな。まず今の状況を考えろ。フラムは今重犯罪者として追われている身だ。俺がいるから、出会った騎士団連中の誤解を解くことはできるが、全員に伝達するには時間がかかる。それに、冒険者ギルドに関しては俺だけじゃ止められない。今このまま出て行けばフラムはあっさりつかまってしまうんじゃないのか?」
「むぅ……」
確かにそうだった。私は今追われている身。下手に動けばすぐに囲まれてしまう。今だってこうしてサンクシオンにあっさり見つかってしまっているし。
……ん?
そういえばサンクシオンは一人でここに来たのか?
どうやってここの場所が分かったんだろう。
「ねえ、そういえばなんですけど。どうしてサンクシオンさんはここがわかったんですか?」
「ん? ……ああ、ここは俺がアイリス姫様に教えた場所だからだ。ここは俺の叔父が使っていた屋敷だからな」
「え、ここの元の持ち主って、サンクシオンさんの叔父さんでもあるんですか? 確かここはアイリスの叔父の屋敷だって言ってたから、サンクシオンさんとアイリスは兄妹か親戚なんですか?」
「馬鹿かっ! そんなわけないだろう! ......アイリス姫様はそんなことを仰っていたのか。私のような没落貴族と領主一族の娘のアイリス姫様が同じ血筋な訳があるまい。無礼にもほどがあるぞ」
「ええええ! アイリスって領主の娘だったの!?」
「何をいまさら……。だから俺は先ほどから姫様と言っているだろう。お前はアイリス、アイリスとずっと呼んでいるが、即刻首が跳ねてもおかしくないほどの無礼なんだぞ」
ひえっ。肝が冷えた。というかそんな要人を家出なんかさせるなよー! 騎士団は何やってんだ!
あ、騎士団は私が撒いたんだっけ。違う、そうじゃない。
今私はそんな重要な人間を魅了させてしまっている。これはやばいぞ。誘拐兼障害をしているわけだから、重罪も重罪。そりゃみんな勢ぞろいで追っかけてくるわけだ。
「えーと、それじゃ、どうすればいいんですか」
私は半分涙目になりながら、サンクシオンに縋りつく。
サンクシオンは若干煩わしそうにすると、仕方なさそうに頭を掻く。
「俺にとってアイリス姫様は忠誠を誓うお方だ。そのお方がこのような状態になっている以上、即刻解決せねばならない。とりあえず、俺についてこい。姫様は俺が運ぶ。誰も通らないようなルートを通って星詠みの塔へ行くぞ」
「はい!」
私とサンクシオンは、眠ったままのアイリスを負ぶさり屋敷を出た。
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星詠みの塔:ルシェルシュトゥール。この世界に存在するスキルの謎を解明せんとする組織。スキルとは一体何か、どういう仕組みで発動しているのか。まだまだ謎が多い分野の研究だ。最近では、魔法陣の開発に成功している。魔法陣とは、生物の生態マップを解析して出来た幾何学模様であり、スキル発動の触媒となる陣形である。これを描くことにより、魔力を注ぐだけで、元の生物の持つスキルを発動させることができる。しかしまだまだ研究途中の物であるため、開発出来た魔法陣の種類はかなり少ない。
この世界には、私と同じく前世からやってきた「罪人」というスキルと持つ人間が複数存在する。そしてその罪人スキル所持者を殺害すると、殺害者に「服罪」というスキルが付与される。
「罪人」と「服罪」は同じような効果を発揮し、そのどれもが通常の魔法やスキルとは桁違いな威力を出す。
このスキル一つで簡単に相手を無力化できるのだから、その性能は折り紙付きだろう。
実際、ハイドはその能力でシェリルの前の仲間も含めたいくつものパーティを壊滅させていた。
そんな能力を今、私は手にしている。
どうしよう。これは正直身に余る。
しかし、今私はこの話題を深く考える時間はなかった。
アイリスの魅了を解くのが先決だからだ。アイリスは現在私の魅了にどんどんとかかってしまっている状態だ。今は催眠で眠らせて大人しくなっているが、着実に彼女を蝕んでいっている。このままでは彼女の人格が私ありきの物に変質してしまうだろう。
そんな事態にはさせたくない。
「ねえ、サンクシオンさん。アイリスのこの魅了を解く方法はないんですか?」
「お前は自分で解けないのか? そうなると厳しいものがある。麻痺、石化、毒等の肉体の状態異常ならばそれ専用の治療法で直せるが、精神系の状態異常は術者と本人とのリンクを断ち切る必要がある。一番簡単なのは、術者本人がスキルを解除することだが、今のフラムにはどれが発動しているのか見当もつかないのだろう? それならば、リンクを外から強制的に絶たなければならないだろう」
なるほど。魅了などの心に影響するものは、常に術者と本人がリンクしているのか。つまり、今の私はアイリスと見えない糸でつながっているということになる。それを断ち切らなければ、能力が延々と注がれ続けるという理屈なのかな。
「それは一体どうやったらできるんですか?」
「俺にはさっぱりだ。戦闘向きだからな、俺は。だが心当たりはある。星詠みの塔だ」
ルシェルシュ……なんて?
すんごい言いづらい名前だ。
「そのルシェなんとかで、このリンクを切ることができるんですね」
「ルシェルシュトゥールだ。星詠みの塔とも呼ばれている。この世界に存在するスキルの謎を解明する組織のことだ。このアヴリル中央街にも支部がある。そこでなら、スキルに干渉する術が見つかるだろう」
「わかりました。ではすぐに向かいましょう。場所はどこなんですか」
私は急かすようにサンクシオンに詰め寄る。
「まあ待て、そう焦るな。まず今の状況を考えろ。フラムは今重犯罪者として追われている身だ。俺がいるから、出会った騎士団連中の誤解を解くことはできるが、全員に伝達するには時間がかかる。それに、冒険者ギルドに関しては俺だけじゃ止められない。今このまま出て行けばフラムはあっさりつかまってしまうんじゃないのか?」
「むぅ……」
確かにそうだった。私は今追われている身。下手に動けばすぐに囲まれてしまう。今だってこうしてサンクシオンにあっさり見つかってしまっているし。
……ん?
そういえばサンクシオンは一人でここに来たのか?
どうやってここの場所が分かったんだろう。
「ねえ、そういえばなんですけど。どうしてサンクシオンさんはここがわかったんですか?」
「ん? ……ああ、ここは俺がアイリス姫様に教えた場所だからだ。ここは俺の叔父が使っていた屋敷だからな」
「え、ここの元の持ち主って、サンクシオンさんの叔父さんでもあるんですか? 確かここはアイリスの叔父の屋敷だって言ってたから、サンクシオンさんとアイリスは兄妹か親戚なんですか?」
「馬鹿かっ! そんなわけないだろう! ......アイリス姫様はそんなことを仰っていたのか。私のような没落貴族と領主一族の娘のアイリス姫様が同じ血筋な訳があるまい。無礼にもほどがあるぞ」
「ええええ! アイリスって領主の娘だったの!?」
「何をいまさら……。だから俺は先ほどから姫様と言っているだろう。お前はアイリス、アイリスとずっと呼んでいるが、即刻首が跳ねてもおかしくないほどの無礼なんだぞ」
ひえっ。肝が冷えた。というかそんな要人を家出なんかさせるなよー! 騎士団は何やってんだ!
あ、騎士団は私が撒いたんだっけ。違う、そうじゃない。
今私はそんな重要な人間を魅了させてしまっている。これはやばいぞ。誘拐兼障害をしているわけだから、重罪も重罪。そりゃみんな勢ぞろいで追っかけてくるわけだ。
「えーと、それじゃ、どうすればいいんですか」
私は半分涙目になりながら、サンクシオンに縋りつく。
サンクシオンは若干煩わしそうにすると、仕方なさそうに頭を掻く。
「俺にとってアイリス姫様は忠誠を誓うお方だ。そのお方がこのような状態になっている以上、即刻解決せねばならない。とりあえず、俺についてこい。姫様は俺が運ぶ。誰も通らないようなルートを通って星詠みの塔へ行くぞ」
「はい!」
私とサンクシオンは、眠ったままのアイリスを負ぶさり屋敷を出た。
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星詠みの塔:ルシェルシュトゥール。この世界に存在するスキルの謎を解明せんとする組織。スキルとは一体何か、どういう仕組みで発動しているのか。まだまだ謎が多い分野の研究だ。最近では、魔法陣の開発に成功している。魔法陣とは、生物の生態マップを解析して出来た幾何学模様であり、スキル発動の触媒となる陣形である。これを描くことにより、魔力を注ぐだけで、元の生物の持つスキルを発動させることができる。しかしまだまだ研究途中の物であるため、開発出来た魔法陣の種類はかなり少ない。
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