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冒険者になる

11 処断の水晶

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扉をくぐると、入って右側に受付の女性が座るカウンターがあった。

「冒険者登録の方ですか?」
「はい。そうです」
「それでしたら、こちらに必要事項をご記入してください」

私は手渡された羊皮紙とペンを受け取る。

羊皮紙には、名前、今後の方向性、得意分野等の欄があった。
近くのソファに座った私は、その欄を埋めていく。記入欄をすべて埋め終えた私は、再度受付のところに向かい、手渡す。

「年齢は、10歳なんですね。それでしたら、別途水晶の検査も必要になりますがよろしいですか?」
「多分、大丈夫だと思います」

おそらく判別の水晶か何かで私を見るのだろう。でも、六大元素魔法を全て扱える私はきっと冒険者適正はあると思う。全ての元素、火、水、風、土、光、闇魔法を扱える適正を持つ者は少ないと聞いている。
我ながら、将来は有望だと自負しているのだ。えっへん。

「それでは、まずはこの処断の水晶で犯罪者かどうか見ますね。十歳以下の方は、処断の水晶と鑑定の水晶の二つでまず適正を図るんです」

受付嬢は台に置かれた水晶を取り出す。
私はその水晶に手を翳した。

……朱に染まった。
重犯罪者の色だ。

「……ッ!」

受付嬢は即座にカウンターに隠れる。何かの警報を押したらしく、場内に耳障りな音が響き渡った。

「何事だ!!」

部屋の奥に待機していたのだろう男たちが次々と現れた。
その男たちは、カウンターに隠れる女性と、私を交互に目で確認した。

「敵対魔族が出たのか!?」
「この人、処断の水晶で重罪人と出たのです!」
「なにっ! やはり、魔族は汚いなっ!」
「ちょ、待って! 私そんな悪いことしてないですっ!」
「嘘つきっ! ちゃんと水晶が赤色になってるじゃない。それは、殺人か重犯罪を犯した人間しか表示されないものよ!」

私は、重犯罪も殺人も犯してなんか……、あ。
ハイドの存在を、私は思い出した。

「そういえば、殺してた……」
「ほら、やはり貴様犯罪者ではないかっ!」
「魔族は死すべしっ!」

ちょっと待って、私殺されるの!?
というか、一部凄い魔族に恨みのありそうな人が混じってるんですけどっ!
私、基本悪いことしませんよー!
どう弁明しても、聞き入れてくれそうな雰囲気に無い。むしろ、問答無用で捕まえて火あぶりしそうな状況だ。

これは非常にまずい。
逃げるか……?
こういう時は、即座の判断が活きる。
私は、個人情報の書かれた羊皮紙をカウンターからひったくり、そのまま踵を返して部屋から脱した。

「重罪人が逃げたぞー!!」
「魔族が現れた! 皆の物、ひっとらえよー!」

後方から大声で援軍を手配する声が聞こえる。
非常にまずい。ここは、冒険者ギルド。出入りする人間は、依頼を発注する人間と依頼を受ける冒険者がほとんど。つまり通常の街中よりも圧倒的に戦闘能力の高い人間が凝縮されている場所というわけだ。
周りは全員敵と思わねばならない。
未だ情報が広がっていないうちにここから出なければならないだろう。

私は全走力でギルドの出口を目指す。
……ここめっちゃ広いしっ! なにこれ!

全力で走る私を奇異の目で見つめる冒険者をかいくぐり、ひたすら出口を目指す。確かこちらの方であっていたはずなのに、全然たどり着けない。

「くそっ! あいつはどこへ行った!」
「魔族がどこかにいるはずだ! 捕まえろ!」

やばいよ、やばいよ。後ろの方にまだいるよ。しかも、やたら大声で叫ぶものだから近くの冒険者も私を探すために協力しはじめている。

出口、出口はどこ!?
あ、あった!

私は、真っすぐ出口まで駆けていく。

「あ、見つけたぞ! お前ら、出口を塞げ!!」

げっ。見つかってしまった。なんでそんなにすぐ見つかるんだ。
前方にある扉の前に二人の冒険者らしき男が立ちふさがる。ここは仕方ない。傷はつけたくないから、大人しく通してもらおうか!

「催眠の魔眼っ!」
「「……!!」」

私の目を見た二人は。棒立ちになってぼーっと虚ろな表情になる。

「私を通せ!」
「「はい」」

その二人に命令すると、二人は扉を開けてくれた。そして私はそのまま冒険者ギルドから抜け出すことに成功した。

「何をやっているんだ、お前らは!」
「はい、命令にしたがいました」
「命令に忠実です」
「ばかかっ!」

男が冒険者を叩くと、二人は正気に戻った。
それをはるか後方でみやった私は、そのままどこか隠れる場所を探し始めた。
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