cross of connect

ユーガ

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絆の邂逅編

第二十三話 継がれた意思

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前を歩き、横にいるリフィアと話すユーガの後ろで、何だか少しだけ元気が戻ったように見えるユーガを見て、他の仲間達はほっと息を吐いた。
「ユーガの奴、ちょっと元気が戻ったみたいだな」
ネロの言葉に、ルインも頷く。
「ええ。再び『信じる』と決意した事で、何かが吹っ切れたのかもしれませんね」
「はい」とシノ。「ユーガさんが明るくないと、私達の雰囲気も低下すると推測します」
シノは抑揚なく呟き、ミナは前を歩くユーガを見て口を開いた。
「・・・ユーガさん、ああ見えて実は無理してるのではないでしょうか?心配です・・・」
「大丈夫だよ。ユーガは単純だし、表情が顔に出やすいからな。もし無理してたら、ちっとは顔に出てるって」
「そうだと良いんですけど・・・」
ミナはネロの明るい言葉とは裏腹に、少し沈んだ声で呟いた。ミナ、とルインは苦笑し、言う。
「あなたまで暗くなってどうするんですか・・・。その時はその時という事にしましょう」
「そうですね」
シノがそう答え、前を向くとユーガが少し登った坂の上で立ち尽くしていた。どうした、とネロがユーガの横に立ち、ユーガの言葉を聞くまでもなく理解した。その先の少し遠くには、村がー、それは村というより、発展した都市と言える物が、そこにはあった。
「あれがアルノウズだよ。別名、『サキュバスの村』」
「あれが・・・」
「村・・・なのか?」
ユーガとネロは顔を見合わせて呟いた。少し離れたこの場所でも聞こえる機械音や、たくさんの蒸気のような物が立ち込めている。しかし、ユーガはあることに気付き、辺りをー特に上の方をー見渡した。日光が、無い。洞窟に作られたアルノウズは、グリアリーフでこれまで見た街とは打って変わって、昼も夜も関係なく明かりは電球で管理しているようだった。その事に気付いたユーガは、
「リフィア」
と彼女を呼んで、聞いた。
「ここ、日光が無いのか?」
「お、よく気付いたねぇ。それが、ここはさっき言った『ここはグリアリーフでもありそうでもない』という話に繋がってくるのさ。とにかく、村長のところに行こう。色々教えてくれると思うからさ!」
「わかった」
今教えてくれないんだな、とユーガは苦笑しつつ頷いた。ーと、足を踏み出した瞬間。ユーガは異様な気配を右横から感じ、ほとんど反射で後ろに飛んだ。そこへ、魔物のような異形の狼が、ユーガに向かって噛みついていた。
「魔物・・・⁉︎いや、違う・・・⁉︎」
「ユーガ君、それは『災魔族』!『魔族』の一種で、敵対してくるよ!」
「うわ⁉︎」
リフィアの言葉が終わると同時に、魔物のような『それ』はユーガに襲いかかった。素早く周囲を見渡すと、『それ』はユーガだけでなくミナ、ネロ、ルインにも襲いかかっていた。数は四体。ユーガは剣を引き抜き、魔物に向かって振るった。ーが。カチン、という音と共に剣が弾かれた。
「災魔族は固有能力(スキル)を使って倒すの!」
「固有能力を・・・?わかった!」
ユーガは緋眼を解放し、災魔族に向かって剣をもう一度振った。今度こそ手応えがあり、ユーガは小さく、よし、と呟いて技へと繋げた。
「霊牙一塵‼︎」
ユーガの技に災魔族は怯み、少しずつ後退した。その後ろで、ルインも固有能力、『元素感知』で元素を手に纏い、そこから放たれた魔法に『元素感知』の恩恵というべきか、とにかく魔法が災魔族に効いているようだった。そして、ネロは。ネロは遅い来る災魔族に恐れる事なく、眼を瞑って剣を握りしめたまま立っていた。
「ネロ⁉︎」
ユーガが叫んでも、ネロはまったく動こうとしない。まるで、待っているかのように。ユーガは自分の前にいる災魔族をもう一度攻撃して倒し、ネロに向かって走った。しかし、間に合わないー!
「・・・瞬速の雷よ・・・」
ネロは左足を少し引き、姿勢を低くして呟く。そして、ゆっくりと眼を開いていく。
「駆け抜ける力を持ち、無塵と散り行け!」
ユーガはぞくり、と背筋に感じ、思わず足を止めた。これ以上先に行ったら、何かがいけない気がして。そして、ネロの体が消えたかと思うと、ネロは災魔族の後ろに立っていた。そして、剣をゆっくりと鞘に収めてー。
「・・・閃牙鳳塵翔‼︎」
その瞬間、災魔族の体が、ビクン、と電気ショックを起こしたかのように震え、災魔族の体が横倒しになった。ユーガが倒れた災魔族の体を見てみると、その体には無数の傷跡があった。
「ネロ・・・お前・・・」
ユーガは眼を見開いたまま、ネロの姿を見た。ふぅ、と息を吐き、ユーガ達を振り返る。そこには、ユーガのよく知るネロの顔があり、ユーガは少しほっとした。
「・・・悪いな、ユーガ。固有能力の事を話さなかったのは、ちゃんと眼に見せた方が良いと思ったからなんだ」
「じゃあ、もしかしてさっきのがネロの・・・?」
「ああ。あれが俺の固有能力・・・『神速』だ」
「『神速』・・・?」
相変わらず固有能力について詳しくはないユーガは首を傾げた。固有能力の事、ちゃんと勉強しておけば良かった、と今更ながら後悔する。
「『神速』とは」と、ルインが自分で倒した災魔族が元素に返るのを確認して言った。「その名の通り、瞬速の速さで剣を振ったり移動速度が上昇します。目にも止まらぬ、と言う言葉がしっくりくるでしょう」
「・・・すげぇ!目にも止まらぬ速さか・・・!なんで早く教えてくれなかったんだ⁉︎」
ユーガは眼を輝かせた。その顔を見て、ミナは何か言おうとしたがそれをシノが手で制した。
「・・・ユーガさんが無理してると推測します。そして、ミナさんはそれを指摘しようとしている。しかし、それをしたところで変わる事は一つもありません」
「シノさん・・・」
「無理して、明るくする事で立ち直るという方法もあると思います。今無理しているかもしれませんが、わざわざその事を思い出させるのもユーガさんにとって辛い事であると思いますが」
「・・・そうかもしれませんけど・・・」
わかってないなぁ、とリフィアは首を振った。
「ミナちゃん?ユーガ君はキミが思ってるよりも強いよ。キミも、仲間を信じてあげなきゃだよ~」
「・・・それは・・・」
「それにね、過度な愛は嫌われちゃうよ?」
「同感です」
「あ、あ、あ、あ、愛⁉︎」
ミナは顔を真っ赤にして狼狽えながら叫んだ。
「気付いてないとでも思ったの?バレバレだよ~?」
リフィアは八重歯を見せながら、にっ、と笑った。
「ユーガ君を見る眼が、明らかに他の人とは違うもん。気付かない方が難しいよ?・・・まぁ、ユーガ君は気付いてないみたいだけど・・・」
「そ、そんな事は・・・」
それに、とリフィアは、にやり、と笑みをシノにも向けた。
「シノちゃんもだよ?トビ君に微かに恋してるんじゃないの~?」
「ありません。ふざけた事を言ってると沈めますよ」
シノは即座にそう言って顔を背けたが、少し頬が赤くなっている事にリフィアとミナは気付いた。そんな彼女達を横眼に、ユーガ達も話を進めた。
「俺さ、実はフォルトでトビと約束してた事があって・・・」
「それ、多分知ってる。俺、それ隠れて聞いてた」
ネロはユーガの言葉に自信あり気に胸を張った。
「言っておきますが、盗み聞きは良くありませんよ」
ルインは呆れたように言い、ネロは少し肩を落とした。それで?とルインはユーガに尋ねる。
「約束というのは?」
「約束って程のものじゃないけど、俺が信じてる『絆』をトビに見せるっていうものなんだ。俺達は仲間じゃない。だけど、俺が信じてる『絆』をトビに認めてもらうって」
「・・・そうだったな」
「なるほど・・・。でしたら、トビに認めてもらうためにももう一度トビに会わなければなりませんね、ユーガ」
ユーガは頷いて、拳を握った。
「ああ・・・。もう一度トビに会って、ちゃんと話したい。それで、今度こそ認めてもらうんだ」
「そうだな。けど、あまり気負いするなよ?」
「うん。わかってるよ。ありがとう」
ユーガは笑みを浮かべて、持ったままだった剣を鞘に収めてもう一度アルノウズの村ー村と言うのだろうかー?を見つめて、今頃トビは何をしているのだろうか、と考えたが、もちろんその答えが返ってくる事はなかった。

「ここが・・・アルノウズ・・・」
アルノウズ。そこは、元素機械(フィアブロスト)で構成された都市だった。見たところ、アルノウズは元素障壁(フィアガドス)で災魔族からの攻撃を防いでいるようで、その他にも様々な物が見受けられる。
「ここはとても、村とは言い難いですね。どちらかといえば都市でしょうか」
シノがそう呟き、リフィアは少し笑った。
「グリアリーフではここまで技術が発展してないからね。キミ達が知らないような物も多くあると思うよ」
ふーん、とネロはアルノウズを見渡した。確かに、グリアリーフでは見た事のない元素機械や、原理もよくわからない元素機械まである。
「・・・こんな時でもなきゃ、色々調べてぇな」
「そうだな・・・」
ネロとユーガは頷き、いや、と首を振った。今やるべき事はそれではない。今はガイアの人々の事を調べるのが先決だった筈だ。
「さて、村長のところだったね。こっちだよ」
リフィアが先立って歩き始め、ユーガ達は頷いて彼女に着いて行った。ーその途中、何人かのサキュバス達がリフィアを指差して何事かを囁いていた。なぜサキュバスの村に、人間が入り込んでいるのか、と思われているのかもしれない。しかし、リフィアは構わずどんどん進んで行く。気付いていないのか、気にしていないのかはわからないがとにかくユーガ達は足を止めなかった。ーなんとなく、聞いてはいけないような気がして。
「・・・あ!」
「・・・あれ、リーフィンじゃん!」
リフィアがそんな声を上げ、ユーガ達はリフィアの視線の先を辿った。そこには、紫髪で眼は黄色、紫の露出が多い服の背中部分からは翼が、腰の後ろ辺りからは尻尾が出ている。
「リフィア!久しぶりだね!」
「リーフィンこそ、久しぶり!」
楽しそうに話す彼女達を見ながら、ユーガは何となく胸が痛んだ。こんな風に、トビともっとちゃんと話せば良かった。どうして自分の気持ちを押し付ける事をしてしまったのか。どうしてトビの事を考えられなかったのか。後悔が胸に渦巻いたが、ユーガはそれを抑えつけて顔を振った。
(そんな事・・・考えてる場合じゃない)
ユーガが顔を上げると、リフィアが立ち去るリーフィンに手を振っていた。
「お待たせ。さっきの子、アタシの友達のリーフィンっていうの」
「仲・・・良さそうだったな」
ユーガは何となくリフィアから顔を逸らして言った。リフィアは頷き、明るい笑顔で笑った。
「ま~ね~!」
「・・・村長のところへ行きましょう」
「あっと、そうだね。行こっか」
シノの言葉にリフィアは再び歩き出し、ユーガ達も伴っていく。しばらく歩いていくと広場が見えてきて、今度は男性のサキュバスがユーガの近くまで来て話しかけてきた。
「なぁ、君」
「え、俺・・・?」
「君は・・・もしかして、ユーガ君・・・かな?」
男性はユーガの名を言い当て、ユーガの顔を指差した。それを聞き、ユーガは驚いた表情になる。
「・・・なんで、俺の名前を・・・?」
「ああ、やっぱりそうか!君が・・・テリーの息子なのか!」
テリー。その名は、確かユーガの父の名前だったはずだ、とルインは思い出す。
「テリー・・・って、ユーガの父さんの・・・」
シノもそれを聞いて、思い出した。レイフォルス渓谷でスウォーに攫われたミナを探している最中、その話題になったと記憶している。
「俺の父さんの事・・・知ってるんですか・・・⁉︎」
「ああ、知ってるさ。急いでいないなら、俺の家でテリーの事を教えてあげるけど・・・」
「あ・・・今は・・・」
ユーガは、ちらり、と仲間達を見た。今はガイアの人々を探し出す事が目的だ。しかしー。
「行ってこいよ、ユーガ」
ネロが笑みを浮かべながら、ユーガに言った。
「ネロ・・・?」
「ガイアの人達を探すのは俺らがやっとく。お前は父さんの事、調べてこいよ。気になるんだろ?」
「え、けど・・・」
「大丈夫」とルインはユーガに向かって頷く。「私達で調べてきます。あなたはお父様の事を調べなさい。・・・それとも、私達が信じられませんか?」
「・・・い、いや、そういうわけじゃないけど・・・」
「なら、行ってきなさい。終わったらこの広場で待っていてください。私達も終わり次第ここに来ます」
ユーガは、ありがとう、と仲間達に言って男性の方を向いた。
「話は終わったかい?」
「はい、お待たせしました」
「さて、それじゃ行こうか」
ユーガは頷いて前を歩く男性に着いて行った。ネロ達はそれを見送り、さて、とミナが手を叩いた。
「ユーガさんが調べている間に、私達も調べ物を進めましょう。まずは村長のところでしたよね」
「そうだな。行こうぜ」

「さて、どこから話したもんか・・・」
男性の家に到着したユーガは、客間のような部屋でソファを勧められて腰をかけた。男性ー名はレギンと言ったーは、ユーガのソファと机を挟んで反対側にあるソファに座って腕を組んでそう呟いた。レギンは、自分の知らない父の事を知っている。その事が、ユーガの心を少し躍らせた。
「そうだな・・・なぜ俺がテリーの事を知っているか、について話そうか。俺は生まれながらこの村に住んでるサキュバスでね、テリーが来た時も君達みたいに人間界から来たんだよ」
「・・・父さんも・・・ここに来たのか・・・」
「ああ、あれは確か・・・十五年も前になるかな。なぜかは知らないがここに来たテリーは、俺達によく子供の話を聞かせたもんだ。『俺には故郷のガイアに生まれたばかりの兄弟の子供がいる。兄はフルーヴ・サンエットで、弟はユーガ・サンエットという』とな・・・君の事だな」
「・・・父さん・・・」
ユーガは俯き、記憶の片隅に残る父の顔を思い浮かべた。ーと、レギンはユーガの腰にある剣に眼を向けた。
「その剣は・・・」
「え?」
「その剣、もしかしてテリーの物かい?」
「は、はい・・・」
ユーガは自身の腰に横に差さる剣をチラリと見て、それが何か?と首を傾げた。
「その剣に使われている鉱石、もしかして『フィアスウェーム』が使われていないかい?」
『フィアスウェーム』。レイフォルス渓谷で話をした際、確かにそんな名前の鉱石が使われているとトビとシノが言っていた。はい、とユーガは頷く。
「やはりそうか・・・この剣は・・・この俺が作った物だ」
「え⁉︎レギンさんが・・・⁉︎」
レギンは頷き、ユーガに剣を見せるように頼んだ。ユーガは剣を引き抜き、レギンにそれを渡す。レギンはくるくると剣を回して見ていたが、やがて息を吐いて視線を下げた。
「・・・やっぱり、そうだ。この剣は・・・俺が作ったモンだ」
「じゃあ・・・ここでは、『フィアスウェーム』が採れるんですか・・・?」
「ああ、今ではだいぶ数が減ってしまったが、君達の世界と比べれば多い方だ。君達の世界ではもう採れない、と聞いているよ」
まさか、この剣を作った張本人と会えるとは。ユーガは驚きを隠せず、眼を見開いていた。
「・・・この剣を君が持っているという事は・・・テリーは死んだ、のかな?」
「・・・はい」
「・・・そう、か・・・テリーが・・・」
どこか落ち込んだように見えるレギンを見て、ユーガは口を開いた。
「レギンさんは・・・父さんと仲が良かったんですか・・・?」
「・・・まぁ、そうだね。さっきも言った通り、君のお父さんは十五年前にここに来たんだ。その時、たまたま俺がテリーに話しかけてね。そこから話すようになったんだ。とは言っても、ここにいたのは一週間くらいだったけどね。その時、テリーが傭兵だと聞いてここで採れる鉱石でその剣を作ったのさ」
レギンは昔を懐かしむように腕を組んで天井を見上げた。この剣が、そんな物だったとは。十二年前のあの日ー。ユーガの家が襲撃された日、無我夢中になって燃える家から脱出した時に掴んだこの剣。知っている事は、父親の形見ということだけだった。しかし、今こうしてこの剣が新たな出会いを紡いでくれた。ユーガはレギンから剣を受け取って、腰の鞘を取り改めてそれをまじまじと眺めた。
「・・・テリーが死んでしまった事は俺も少しショックだ。だが・・・こうして君がこの剣を受け継ぎ、テリーの意思を継いでいるのなら・・・これも、新たな出会いとして悪くないかもしれないな」
「・・・父さんの、意思を・・・」
「テリーはどういう理由でここに来たのか。それはわからないが・・・ユーガ君。君はしっかりお父さんの意思を継いでいるようだね。それに・・・君は今、少し悩んでいるのではないかな?・・・仲間との絆、の事で」
ユーガは驚いた。仲間以外の誰にも言っていないのに、なぜレギンが知っているのかー?
「俺はサキュバスだ。人間の負の感情が混じり合ってできた存在だからね。人の負の感情には敏感なのさ。・・・テリーもその事で悩んでいたよ。テリーも仲間の事で色々と思う事があったようだよ」
「父さんも・・・仲間の事で・・・?」
「ああ。テリーには仲間が一人いてね。確か、名前は・・・セイガ、だったかな?」
「セイガ・・・?」
聞き覚えのない名前だが、レギンの言う事だ。本当なのだろう。
「セイガはかなり冷血でね、熱いテリーには彼の心がわからなかったようだよ」
「・・・そうなんですか」
何となく、ユーガは既視感を覚えた。それはまるで、自分とトビのようでー。
「まぁ、俺はそれを聞くのはやめたよ。込み入った事情かもしれないしね」
レギンは聞いとけば良かったかな、と苦笑しながら頭を掻いた。
「・・・ひとまず俺がテリーの事で知ってるのはこのくらいだよ。参考になったなら良いけど・・・」
「あ、とても参考になりました。ありがとうございました」
改めて、自分の知らない父親の断片が見えたような気がして、ユーガは少し笑みを浮かべた。元の世界に帰り、全てが終わったら父の事を一度調べてみよう、と心に決めた。
「さて、君は仲間と待ち合わせしているんだったよな。そこまで一緒に行こう」
「え、申し訳ないですよ・・・!」
「俺が見送りたいんだ。さぁ、行こう」
ユーガはレギンに感謝の念を抱きながら、扉を開けて外に出たレギンの背中を追いかけた。

「ユーガ!」
ユーガが仲間達と待ち合わせをした広場で、すでに仲間達はいた。しかしユーガが、お待たせ、と言おうとしたその時、ネロがユーガの肩を掴んで叫んだ。
「・・・ネロ?どうし・・・」
「トビが・・・やべぇぞ!」
「・・・トビが?どういう事だ?」
ルインがネロの手をユーガの肩から離して、焦りを見せた表情で呟いた。
「・・・ユーガ・・・トビが、三日後にスウォーに処刑されるそうです」
ー処刑?処刑って何だ?ユーガは唐突な発言に頭が回らず、数秒後にその言葉の意味を理解した。
「何だって⁉︎トビが⁉︎」
「・・・ええ。信じられないかもしれませんが、事実です。そうですよね、リフィア」
「うん、今人間界ではその話題で持ちきりだよ!急いで戻らないと、トビ君が殺されちゃうよ!」
「しかし」とシノがこんな時でも冷静に言った。「戻る手段はあるんですか?」
「アタシに任せて!とにかく早く戻らないと!」
「わかった!」とユーガは頷いた。「リフィア、頼む!」
リフィアは頷き、ここへ来た時と同じような魔法陣を展開した。ーと、横で見ていたレギンが口を開く。
「リフィア、待て。それなら、こいつを持っていけ!」
「レギンさん・・・⁉︎何ですか、これ?」
レギンがリフィアに手渡したのは、七つの卵のような物。ユーガは横からリフィアの手を覗き込み、尋ねた。
「リフィア、お前なら知っているだろう?それなら長距離移動も楽になるだろう?」
まさか、とリフィアはその卵のような物を見つめた。
「いいの・・・?」
「ああ。それに、一つ余分に渡しておけばもう一人の仲間も乗れるだろう?」
「・・・うん、おっけー!ありがと!レギン!」
「ああ、気を付けてな!」
魔法陣が光に包まれ、アルノウズの都市がだんだんと消えていく。ユーガ達は少し寂しさを覚えながら、光に呑まれてくのを感じたー。ユーガが再び眼を開けると、そこは制下の門の操作盤の前だった。
「夢のような世界でしたね・・・」
ミナが思わずそう呟く。ユーガも頷いた。
「ああ・・・アルノウズ、か・・・」
感傷に浸りそうになったのを慌てて押し留め、ユーガはもう一度口を開いた。
「とにかく、トビを助けに行かないと!その処刑、どこでやるんだ⁉︎」
「どうやら」とルインがそれに答える。「ゼロニウスで行われるようですが・・・まずいですね。ここから船で行っても五日はかかりますよ」
五日⁉︎ユーガは眼を見張った。
「そんな・・・!」
そんなユーガを見ながら、リフィアは、はい、と卵のような物をユーガ達一人一人に渡した。
「皆、これを外に出たら地面に叩きつけてみて!」
「地面に・・・ですか?」
シノが不思議そうに尋ね、仲間達も同様に首を傾げた。リフィアは頷き、
「とにかく、まずは外に出ないと!」
と全員に向けて行った。ここは制下の門の最深部であるため、ユーガ達はとにかく出口を目指して走った。その途中、ネロがユーガの横に並んで走りながら尋ねた。
「なぁ、何かお前の父さんの事わかったのか?」
「・・・うん」
「どうした?なんか元気ねーじゃん」
「そ、そんな事ねーよ!と、ところでネロ達は何かわかったのか?」
こんなわかりやすい話題の逸らし方をして、ネロにはすぐにわかってしまうだろう、とユーガは思いつつも尋ねた。今はとにかく、追求されたくなかったのだ。
「まぁな。アルノウズはグリアリーフの時空の狭間にあるらしくてな、リフィアが作った魔法陣でその空間に行けるらしい」
「だから、グリアリーフでもありグリアリーフではない、という言葉に繋がるそうですよ」
ルインもユーガの後ろからそう教えてくれた。なるほどな、とユーガも納得した。ー本当はよくわからなかったけど。
「皆さん、外です!」
ミナが叫び、ユーガ達も出口を目視した。そのまま光が差し込む出口へと走り込み、ユーガ達は空を見上げた。青い空が上空には広がり、何となくユーガはトビの蒼い眼を思い出した。久しぶりに空を見上げたからか、どことなくいつもより青さが澄み渡っている気がする。ーと、空を見上げるユーガを見つつリフィアは、さて、と卵のような物を取り出した。
「まず、アタシがお手本見せるから。ーいでよ!『エアボード』‼︎」
そう言って、リフィアは地面に卵のような物を叩きつけた。ーすると、もくもくと煙が立ち始め何か巨大な機械が出現した。その姿は、煙が消えて初めて確認できた。スケートボードのような形だが、先端部分には持ち手が付いており外装のようなガラスが全体に張られ、それにはタイヤも付いていなかった。代わりに、ジェット機のようなエンジンが取り付けられている。
「・・・な、何だこれ・・・」
ネロが驚きを隠せずにそれを見ていると、ルインがハッとして自分の持っていた卵のような物を地面に叩きつけた。
「おお、ルイン君気が早いねぇ!」
リフィアは少し苦笑しつつ言った。ーが、ルインはそれを聞いていない様子で自身の目の前に現れたその機械を調べ始めた。
「まさか・・・まさか、『飛行機械(エアブロスト)』⁉︎」
「そう。アルノウズはキミ達の世界よりも技術が発展してるからね」
話があまり見えないユーガは首を傾げたまま、どういう事だ?とネロに尋ねた。ネロも、さぁ、と腕を振った。すると、横にいたシノがユーガに口を寄せて囁いた。
「『飛行機械』はこの世界ではまだ理論が確立されていません。その理論が示されれば、空を自由に飛べる、との話があります」
「そ、空を飛べる⁉︎」
ユーガが驚いていると、ネロが言葉を継いだ。
「じゃあ、この機械は・・・空を飛ぶ事ができるってのか・・・⁉︎」
そういう事です、とシノは頷いた。空を飛べるなんて、聞いた事がない。移動手段は船だけだったし、どうやって空を飛ぶのかなど見当もつかないがー。
「操作は簡単だよ。この持ち手部分を前に倒したり後ろに倒したりする事で飛べるから。さ、ネロ君。やってみてよ」
「お、俺がやるのかよ⁉︎」
ネロはそう言いつつも、空を飛べるという希望に密かに心を躍らせていた。リフィアの提案にネロは渋々ー内心は嬉しかったがー『エアボード』に乗り込んだ。ーすると、それはゆっくりと浮かび上がり、ネロを乗せた『エアボード』は宙を浮いていた。
「すげぇ・・・」
ネロが持ち手を握りながら心が浮き立つのを感じて呟いた。ーと、ユーガも眼を輝かせて自身の持つ卵のようなものを地面に投げた。仲間達も全員、同じようにする。全員分の『エアボード』が出現し、ユーガ達はそれに乗り込んだ。すると、ユーガ達の『エアボード』も上昇していく。
「・・・すっげぇ!本当に空を飛んでる!」
ユーガは改めて仲間達の『エアボード』を見た。ネロはもう慣れたのか、手慣れた操作で上下左右に動いている。しかし、ミナは慣れないようでぐらぐらしている。ーと、持ち手部分に付いたスピーカー部分からリフィアの声が聞こえてきた。
「皆、ここからゼロニウスは北東の方角だよ!それと、『エアボード』のこの外膜は『元素障壁(フィアガドス)』でできてるから落ちる事はないよ!それに、魔物からの攻撃も防いでくれるおまけ付き!」
「へぇ・・・便利だな・・・」
ユーガが呟くとルインが、ふむ、と何かを考えているようだった。
「・・・外膜に元素障壁を利用しているとは・・・なるほど・・・」
「ルイン君はやっぱり真面目だねぇ・・・まぁそれが良いとこなのかもしれないけどさ・・・」
リフィアはどこか呆れたように言って、行こう、と北東の方角を目指して進んでいった。ユーガはポケットの中にあるトビに渡すためのもう一つの『エアボード』の卵の感覚を感じながら、間に合ってくれ、と強く願いを込めて持ち手を前に倒し、既に前に進み始めている仲間達を追いかけた。
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 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
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「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

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