学園の聖女様と俺の彼女が修羅場ってる。

味のないお茶

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第2章

第七話 ⑤ ~悠斗くんとの初めてのデート~ 聖女様視点

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 第七話  ⑤




「詩織さんは行きたいお店とかあるかな?お肉系だとステーキ屋さんとかあるよね!!」

 と、悠斗くんが明るく聞いてきました。

 先程の事を少しだけ気にしてるようですね。
 私はそんなに彼を気遣って、そこには触れないようにしました。

「そうですね。実は行きたいと思っていたお店があるんです」

「へぇ、そうなんだ。どのお店?」

「はい。めちゃはやステーキ。というお店です。この間ここに来た時に見つけまして。少し気になっていたお店なんです」

 私は彼に合わせて、少しだけ声のトーンを高くしてそう言います。

「俺も聞いたことはあるけど、食べたことは無かったんだよね。じゃあそこで食べようか。代金は俺が出すよ」

「……その、良いのですか?結構いい値段しますよ」

 私は申し訳なく思いながら、悠斗くんに尋ねます。

「気にしないで平気だよ!!朝も言ったけど、そのくらいはさせて欲しいかな?」

「ありがとうございます。では遠慮なくご馳走になります」

 そうしたやり取りのあと、私たちは料理を注文しました。

 私は200g。悠斗くんは250gのステーキを頼みました。やはり男の子ですね。沢山食べます。

 そして、そこに欠かせないライスを付けました。
 正直を言えば、ガーリックライスにしたかったのですが、流石にお口が気になるので辞めました……

 そして、やって来たステーキをひと口食べてみます。
 わぁ……肉汁が溢れてきます。ソースとの相性抜群です!!ご飯が進む味付けです!!

「すごく美味しいね、これ」

 悠斗くんも私と同じ気持ちのようです。とても美味しそうな顔をしています。

「はい。インターネットで見かけてから、一度行ってみたいと思っていました。ですが一人で来る勇気が無かったものですから……」

 流石にここに一人で来るのは恥ずかしいなと思いましたので……

 そ、そう言えばお二人のデートを覗き見してた時には、一人でステーキを食べていましたが、あれは気にしないことにしましょう……

「でも、一人でステーキを美味しそうに食べる詩織さんも見てみたかったかも」
「もー。からかわないでください」

 意地悪な表情でそう言う悠斗くん。

 とても良い雰囲気だと思いました。


 ……ふぅ。きっと悠斗くんのことです。

『このまま話さないようにしたいなぁ』

 なんて思ってるのでしょう。

 そうは問屋が卸さないです。


「それで、悠斗くん。先程の話はしていただけるのですか?」


 ご飯を食べ終わり、冷えたお水を飲んでいる悠斗くんに私は言いました。


 彼は私の目を見て、少しだけ視線を下に落としました。

 そして、ゆっくりと口を開きました。

「俺の母親は、五年ほど前に亡くなってる」
「……っ!!」

 なんとなく、片親の雰囲気を感じていましたが、お亡くなりになられていたとは。
 私は言葉を失いました。

「もともと身体の弱い人でね。冬のある日に肺炎を拗らせてそのまま……死んでしまったんだ」
「……そうですか」

 肺炎。風邪の延長くらいにしか思っていませんでしたが、人の命を奪う病気なのですね。

「俺はお母さん子でさ。親父にはよく母親の昔話を聞いていたんだよね」
「……はい」

「そして、生前。母親は『ミステリー作家』だった。という話を親父から聞いた」
「……っ!!」

 苦笑いを浮かべる悠斗くん。
 私は表情と言葉で、察しました。

「そんなに人気のある作家ではなくてね。結婚して、俺が産まれた年に出した一冊が、母親の最初で最後の小説だったんだ」
「悠斗くんのお母さんの本が……」
「そう。俺の母親のペンネームは霧瀬真由。そして、最初で最後の本が、冬の森。詩織さんが一番大切に思っていてくれてた本だよ」

 ありがとう。母親の本を読んでくれて。

 悠斗はそう言うと、儚げな笑顔を見せました。
 そんな彼の表情は、初めて見ました。

「あのミステリー小説は穴が空くほど読んだよ。だけど、このままじゃダメだと思ったから、真逆の小説を読もうと思った」
「それが、ライトノベル……」
「そう。だけどさ、それが読んだら面白かったからさ!!そっからどんどんオタク街道を突き進んで行く感じになったんだよね」

 言葉の明るさとは裏腹に、悠斗くんの表情は辛そうでした。


「詩織さんがミステリー小説を好きだって言ってたからね、母親の形見の小説しか読んでないってのも勿体ないと思ってね。冒険をしてみたんだけど、まさか勧められた本が母親の本だとは思わなかったよね」

 その時。悠斗くんの頬を、一筋の涙が伝って落ちました。

「……そう、ですか」

 私は顔を伏せました。見てられません……

 どうして、あなたはそんなに、強がろうとするのですか……

「詩織さんほどの読書家に認められるような作品を書いていた。俺も鼻が高い……」

 そんな私の状態を『自分の失態だ』と思ったのでしょうか。
 殊更明るく振舞おうとする悠斗くんの手を私は握りました。

「悠斗くん……」
「……え」

 そして私は、彼に告げました。

「あなたは今、自分がどんな状態か、わかってますか?」
「…………」

 無言の彼。わかってないのですね。

「涙を流しながら、無理に笑おうとしないでください」

 悠斗くんは私の言葉を聞いて、下を向きました。

 そして、机の上に落ちた、涙の雫に気が付いたようです。

 その時の悠斗くんの表情は、この期に及んでも

『私に迷惑をかけてしまった』

 とでも言いたげなものでした。

 この人は、どこまで行っても、他人のことしか考えていないのですね。

「……嫌いです」
「……え?」

 私は彼の目を見て、言いました。

「そうして無理をして、自分の弱さを見せないようにする。悠斗くんのそういうところ。私は嫌いです」
「……っ」

『大好きです』『惚れ直しました』

 軽い気持ちで好意を伝えてきたことはありました。
 ですが、『本気』で伝えた最初の言葉が『嫌い』と言うのは、なかなか皮肉が効いてますね。

 それでも、私は彼に伝えなければなりません。

 どこまで他人を慮り、自分を蔑ろにする、そんな、とてもとても優しくて、愚かな男の子に。

「辛いなら泣いてください。無理して笑わないでください。助けて欲しいと言ってください。慰めて欲しいと、弱さを見せてください。あなたは他人には手を差し伸べるのに、自分に差し伸べられた手は叩き落とすんですか?」
「い、いや……そんなことは」

 私は悠斗くんの手を強く、握り締めました。

「まるで昔の私のようです。他人を拒絶して、誰の助けも借りず、一人で生きていく。そういう風に決めた私です。ですが、そんな私に手を差し伸べてくれた人が居ました」
「…………」




「あなたですよ、悠斗くん」





 そう。私はあなたの『優しさ』に救われました。


「今度は私にあなたを助けさせてください」

 私は、あなたの支えになりたい。



「ははは……ずるいな、詩織さんは」

 悠斗くんはそう言うと、下を向いて、唇を噛みました。

 私の言葉は、届いたでしょうか……



「ありがとう、詩織さん。俺を叱ってくれて」

 悠斗くんはそう言うと、私の目を見つめました。
 先程とは違う。力のある目でした。

 そして、少しだけ恥ずかしそうに、言いました。

 この時言われた彼の言葉を、私は一生忘れません。



「朱里と付き合って居なかったら、今の言葉で本気で君に惚れていた」



「悠斗くん……」

 私は、言葉を失いました。
 そんな言葉を彼から聞ける日が来るとは、思ってもいませんでした。

「あまり俺を困らせないでくれ」

 そして、そう続けた悠斗くんの言葉は、初めて見せてくれた彼の『弱さ』でした。

 なので、私は言いました。

「まだまだ、いっぱい困らせてあげますよ?」

 覚悟してくださいね。

 そう言って私は、彼に笑顔を向けました。
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