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第2章
第七話 ⑤ ~詩織さんとの初めてのデート~ 悠斗視点
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第七話 ⑤
イートインコーナーにやって来た俺たちは、
『めちゃはやステーキ』
と言うステーキ屋さんでご飯を食べることにする。
詩織さんの強い希望で決まったお店だった。
先程は少しだけ微妙な空気になってしまったが、俺を思って明るく振舞ってくれてる詩織さん。
やっぱり彼女は良い人だと思った。
詩織さんは200g。俺は250gのステーキを頼む。
そこにライスを付ける感じだ。
料金は俺が出すことにしている。
そこそこ良い値段がするので、詩織さんが申し訳なさそうな顔をしていたが、先程の一件もあるので、気にしないで欲しいと言うと、了承してくれた。
やって来たステーキをひと口食べてみると、肉汁が溢れてきた。ソースとの相性も良く、ご飯が進む味付けだった。
「すごく美味しいね、これ」
「はい。インターネットで見かけてから、一度行ってみたいと思っていました。ですが一人で来る勇気が無かったものですから……」
流石にここに一人で来るのは恥ずかしいなと思いましたので……
そう言って詩織さんは少しだけ頬を赤らめた。
「でも、一人でステーキを美味しそうに食べる詩織さんも見てみたかったかも」
「もー。からかわないでください」
悪くない雰囲気だと思った。
このまま話さない方向に行かないかなぁ
なんて思っていたけど、そうはいかないみたいだった。
「それで、悠斗くん。先程の話はしていただけるのですか?」
ご飯を食べ終わり、冷えた水を飲んでいると、詩織さんはそう言って切り出した。
はぁ……この話は、後で朱里にもしないとだな。
「俺の母親は、五年ほど前に亡くなってる」
「……っ!!」
大丈夫。きちんと話せそうだ。
もう随分と前の事だ。気持ちの整理なんてとっくについてる。
「もともと身体の弱い人でね。冬のある日に肺炎を拗らせてそのまま……死んでしまったんだ」
「……そうですか」
「俺はお母さん子でさ。親父にはよく母親の昔話を聞いていたんだよね」
「……はい」
「そして、生前。母親は『ミステリー作家』だった。という話を親父から聞いた」
「……っ!!」
あはは。もうわかったかな。
「そんなに人気のある作家ではなくてね。結婚して、俺が産まれた年に出した一冊が、母親の最初で最後の小説だったんだ」
「悠斗くんのお母さんの本が……」
「そう。俺の母親のペンネームは霧瀬真由。そして、最初で最後の本が、冬の森。詩織さんが一番大切に思っていてくれてた本だよ」
ありがとう。母親の本を読んでくれて。
俺はそう言うと、詩織さんに笑いかける。
「あのミステリー小説は穴が空くほど読んだよ。だけど、このままじゃダメだと思ったから、真逆の小説を読もうと思った」
「それが、ライトノベル……」
「そう。だけどさ、それが読んだら面白かったからさ!!そっからどんどんオタク街道を突き進んで行く感じになったんだよね」
俺は笑いながらそう言う。大丈夫。俺、笑えてるかな。
「詩織さんがミステリー小説を好きだって言ってたからね、母親の形見の小説しか読んでないってのも勿体ないと思ってね。冒険をしてみたんだけど、まさか勧められた本が母親の本だとは思わなかったよね」
「……そう、ですか」
顔を伏せる詩織さん。ダメだ。そんな顔をさせたくて話したわけじゃない。
「詩織さんほどの読書家に認められるような作品を書いていた。俺も鼻が高い……」
「悠斗くん……」
「……え」
詩織さんは俺の手を握る。
「あなたは今、自分がどんな状態か、わかってますか?」
「…………」
「涙を流しながら、無理に笑おうとしないでください」
俺は下を見る。
机の上には、水滴が落ちていた。
俺の……涙だった……
ははは……なにやってんだよ、俺。
全然乗り越えられてないじゃないか……
詩織さんは俺の手を両手で包む。
「……嫌いです」
「……え?」
詩織さんはそう言うと、俺の目を見た。
「そうして無理をして、自分の弱さを見せないようにする。悠斗くんのそういうところ。私は嫌いです」
「……っ」
「辛いなら泣いてください。無理して笑わないでください。助けて欲しいと言ってください。慰めて欲しいと、弱さを見せてください。あなたは他人には手を差し伸べるのに、自分に差し伸べられた手は叩き落とすんですか?」
「い、いや……そんなことは」
詩織さんは俺の手を強く握る。
「まるで昔の私のようです。他人を拒絶して、誰の助けも借りず、一人で生きていく。そういう風に決めた私です。ですが、そんな私に手を差し伸べてくれた人が居ました」
「…………」
「あなたですよ、悠斗くん」
そう言うと、詩織さんは微笑んだ。
「今度は私にあなたを助けさせてください」
「ははは……ずるいな、詩織さんは」
俺は、下を向いた。
やばい。心に響いてしまった。
朱里と付き合っていなかったら……本気で惚れていた。
「ありがとう、詩織さん。俺を叱ってくれて」
俺はそう言うと、詩織さんの目を見る。
そして、正直な心を話した。
「朱里と付き合って居なかったら、今の言葉で本気で君に惚れていた」
「悠斗くん……」
かなり驚いた表情の詩織さんに俺は笑いかける。
「あまり俺を困らせないでくれ」
少しだけ冗談ぽくそういう俺に、詩織さんは微笑む。
「まだまだ、いっぱい困らせてあげますよ?」
覚悟してくださいね。
そう言うと、詩織さんは俺の手をより一層強く握りしめてきた。
イートインコーナーにやって来た俺たちは、
『めちゃはやステーキ』
と言うステーキ屋さんでご飯を食べることにする。
詩織さんの強い希望で決まったお店だった。
先程は少しだけ微妙な空気になってしまったが、俺を思って明るく振舞ってくれてる詩織さん。
やっぱり彼女は良い人だと思った。
詩織さんは200g。俺は250gのステーキを頼む。
そこにライスを付ける感じだ。
料金は俺が出すことにしている。
そこそこ良い値段がするので、詩織さんが申し訳なさそうな顔をしていたが、先程の一件もあるので、気にしないで欲しいと言うと、了承してくれた。
やって来たステーキをひと口食べてみると、肉汁が溢れてきた。ソースとの相性も良く、ご飯が進む味付けだった。
「すごく美味しいね、これ」
「はい。インターネットで見かけてから、一度行ってみたいと思っていました。ですが一人で来る勇気が無かったものですから……」
流石にここに一人で来るのは恥ずかしいなと思いましたので……
そう言って詩織さんは少しだけ頬を赤らめた。
「でも、一人でステーキを美味しそうに食べる詩織さんも見てみたかったかも」
「もー。からかわないでください」
悪くない雰囲気だと思った。
このまま話さない方向に行かないかなぁ
なんて思っていたけど、そうはいかないみたいだった。
「それで、悠斗くん。先程の話はしていただけるのですか?」
ご飯を食べ終わり、冷えた水を飲んでいると、詩織さんはそう言って切り出した。
はぁ……この話は、後で朱里にもしないとだな。
「俺の母親は、五年ほど前に亡くなってる」
「……っ!!」
大丈夫。きちんと話せそうだ。
もう随分と前の事だ。気持ちの整理なんてとっくについてる。
「もともと身体の弱い人でね。冬のある日に肺炎を拗らせてそのまま……死んでしまったんだ」
「……そうですか」
「俺はお母さん子でさ。親父にはよく母親の昔話を聞いていたんだよね」
「……はい」
「そして、生前。母親は『ミステリー作家』だった。という話を親父から聞いた」
「……っ!!」
あはは。もうわかったかな。
「そんなに人気のある作家ではなくてね。結婚して、俺が産まれた年に出した一冊が、母親の最初で最後の小説だったんだ」
「悠斗くんのお母さんの本が……」
「そう。俺の母親のペンネームは霧瀬真由。そして、最初で最後の本が、冬の森。詩織さんが一番大切に思っていてくれてた本だよ」
ありがとう。母親の本を読んでくれて。
俺はそう言うと、詩織さんに笑いかける。
「あのミステリー小説は穴が空くほど読んだよ。だけど、このままじゃダメだと思ったから、真逆の小説を読もうと思った」
「それが、ライトノベル……」
「そう。だけどさ、それが読んだら面白かったからさ!!そっからどんどんオタク街道を突き進んで行く感じになったんだよね」
俺は笑いながらそう言う。大丈夫。俺、笑えてるかな。
「詩織さんがミステリー小説を好きだって言ってたからね、母親の形見の小説しか読んでないってのも勿体ないと思ってね。冒険をしてみたんだけど、まさか勧められた本が母親の本だとは思わなかったよね」
「……そう、ですか」
顔を伏せる詩織さん。ダメだ。そんな顔をさせたくて話したわけじゃない。
「詩織さんほどの読書家に認められるような作品を書いていた。俺も鼻が高い……」
「悠斗くん……」
「……え」
詩織さんは俺の手を握る。
「あなたは今、自分がどんな状態か、わかってますか?」
「…………」
「涙を流しながら、無理に笑おうとしないでください」
俺は下を見る。
机の上には、水滴が落ちていた。
俺の……涙だった……
ははは……なにやってんだよ、俺。
全然乗り越えられてないじゃないか……
詩織さんは俺の手を両手で包む。
「……嫌いです」
「……え?」
詩織さんはそう言うと、俺の目を見た。
「そうして無理をして、自分の弱さを見せないようにする。悠斗くんのそういうところ。私は嫌いです」
「……っ」
「辛いなら泣いてください。無理して笑わないでください。助けて欲しいと言ってください。慰めて欲しいと、弱さを見せてください。あなたは他人には手を差し伸べるのに、自分に差し伸べられた手は叩き落とすんですか?」
「い、いや……そんなことは」
詩織さんは俺の手を強く握る。
「まるで昔の私のようです。他人を拒絶して、誰の助けも借りず、一人で生きていく。そういう風に決めた私です。ですが、そんな私に手を差し伸べてくれた人が居ました」
「…………」
「あなたですよ、悠斗くん」
そう言うと、詩織さんは微笑んだ。
「今度は私にあなたを助けさせてください」
「ははは……ずるいな、詩織さんは」
俺は、下を向いた。
やばい。心に響いてしまった。
朱里と付き合っていなかったら……本気で惚れていた。
「ありがとう、詩織さん。俺を叱ってくれて」
俺はそう言うと、詩織さんの目を見る。
そして、正直な心を話した。
「朱里と付き合って居なかったら、今の言葉で本気で君に惚れていた」
「悠斗くん……」
かなり驚いた表情の詩織さんに俺は笑いかける。
「あまり俺を困らせないでくれ」
少しだけ冗談ぽくそういう俺に、詩織さんは微笑む。
「まだまだ、いっぱい困らせてあげますよ?」
覚悟してくださいね。
そう言うと、詩織さんは俺の手をより一層強く握りしめてきた。
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