トウジンカグラ

百川カサネ

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2話 邂逅編

12 一対三※

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 一見して美しく精緻に造り込まれ豊かな七宝にも、影の部分は存在する。

 七宝の端、『こんこんや』の通りから更に東。あるいは反対側の西宝でも同じだが、七宝の外縁にほど近い一角はほとんど空き家になっている。そこはかつて商いのため七宝の外から移り住んだ人間たち、あるいは参内した武家の供回りたちが一時を過ごすために与えられた区画だった。
 しかしながら今の七宝は定められた人間以外は出入りせず、参内に訪れる行列は羅城の外で退けられ七宝の地を踏むことも叶わない。さりとて宮中が空き家を売り出しているわけでもなく結果として一帯は荒れるがままに放置されていた。こうなれば後は余程の訳ありが廻り方から隠れて住み着いているぐらいだ。餌になる物もないため野良の犬猫すら寄りつかない。

 であれば。火群は昼過ぎに男に耳打ちをされたとおり、一軒の屋敷の前に佇んでいた。
 余程の豪商が我が威を見よとばかりに豪華絢爛にそして頑丈に建てたのだろう、外から見える障子や襖は襤褸と化しいくらか瓦も剥がれているが、空き家にしては上等に元の姿を維持している。上がり込んで中でをするにはうってつけで、実際恒常的に使われ手入れされているのだと知れた。
 であれば、悪い連中の良いように使われるに決まっている。悪巧みや火事に備えて廻り方や町火消しが巡回しているが、暗黙の了解として見逃される建物がいくつかあった。これを悪いとするかは火群の知るところではないが、概ね行き場のない若い男女が逢引きの場としているためだ。つまり今の火群も似たようなものである。
 浅く陽の落ちた空は裾に薄く橙を泳がせ濃藍に染まっている。淡い暗がりに目を細めれば剥がれた障子の向こうにちいさく灯る火が浮かんでいるのが見えた。

 火群は傾いた門をくぐり、煩わしくない程度に切り揃えられた下草の前庭を抜け縁側から直接中へ入った。二間ほど先の部屋で大きく影が揺れている。踏み込めば古びた燭台が部屋の四隅に、毟れた畳の上にはまだ上等と呼べる行灯まで据えてあった。

「待ってたぜ、火群ぁ」

 昼の赤ら顔の男と、あと二人。痩せぎすで忙しなく視線をうろつかせる男と、頬に刀傷のある筋骨隆々とした男。いくつかの徳利を転がして、三人の男が座り込んでいた。
 火群は男たちを見下ろし、転がる徳利を適当に蹴り転がす。粗方場所を空け徐に鞘から紅蓮を引き抜けば、乏しい灯りの中、炎を閉じ込めたような鋼がねろりと光を返している。
 痩せぎすの男が悲鳴を上げるのと彼らの眼前に紅蓮を突き立てるのは同時だった。滓のような藺草いぐさと砂粒が散って、じゃぎりと鈍くか細い音が宵を刺した。

「待ってたァ? ならいつまでも飲んだくれてンじゃねェよ。ヤろうぜ」

 空の鞘を放り投げ火群はどかりと座り込む。紅蓮の背に肩を寄せて、鍔に額を擦りつけるようにして男たちを流し見る。不意にしぐれの声が脳裏を過ぎって、そういえば下に何も穿いていないことを思い出した。この姿勢だと男たちから見えているだろうが、今から何を始めるのかと考えれば一つ脱ぐ手間が減って幸いである。

 赤ら顔の男と刀傷の男がのそりと立ち上がる。今度は火群が彼らに見下ろされる番だった。二人の男は股引を下ろし、あるいは帯を解いて、それぞれ一物を取り出した。酒を飲んでいたせいかどちらもまだ勃ち上がってはいない。
 あ、と火群は口を開く。無遠慮に突き込んできたのは赤ら顔の男だった。むわりとした性臭の割に湿る気配のない肉に火群は舌を絡ませ、湧き上がる唾液を塗り込めていく。刀傷の男は紅蓮を避けるように反対側から近寄り、火群に向かって腰を突き出した。無言に乞われるがまま指先を伸ばして男の着流しを割り、まだ柔らかい肉棒を捕まえる。はふ、と赤ら顔の男の魔羅を一度吐き出し、代わりに刀傷の男の物に舌を這わせた。先の男に比べると臭いの薄いそれに溢れる唾液を纏わせ、粗方濡れたところで手で扱く。にゅこにゅこと肉が掌中でぬめっていく。

「ん、ふ」

 再度咥えた赤ら顔の男の物は、火群の唾液だけでなく苦いものを混ぜて粘ついている。舌の上で肉棒が芯を持ち始めるのを感じながら火群は頭を傾け、更に奥へと咥え込んだ。頭を前後させながら手の中の魔羅も扱き、時折撓んだ皮と雁首の境を指先で擽る。息を詰める、あるいは低く笑う男たちの声が頭上から降ってくる。

「本当に好き者だなぁ、こいつ……おら、もっと咥えろ」

 抉るように突き込まれるが、嘔吐くより先に火群は喉奥を開いて太く硬く育った物を呑み込んでいる。がぽ、と空気を含んだ音が一際大きく響いたが、火群は気にせず空気と唾液を混ぜて口内深くに入り込む雄芯を喉で締める。ぬろりと引き出しては頬で吸い、更に硬く育て上げていく。
 手で扱いている物も溢れる先走りで滑りがよくなり、火群は根元から先端まで満遍なく掌を上下させていた。太い根元では濃い茂みを悪戯に掻き混ぜ、先端ではつるりとした亀頭を指の腹でやわく押す。時折鈴口も擽って、あるいは掌でずっしりと重い双珠を揉み込みながら蟻の門渡りまで指先を伸ばせば太い肉棒はぬるんと火群の手から転び出た。代わりと言わんばかりに先走りの溢れる先端が、もう一人の男の雄を咥えて凹む頬を抉って押しつけられる。

「んむ、ぅ、ふっ」

「俺のモンもここに入れてくれよ、なァ――お前はいつまでそうしてんだ、あ?」

 後半の台詞は火群に向けられたものではない。男は肩越しに振り向いて、最初に座り込んだ場所から動かない痩せぎすの男を睨みつけていた。
 口内の肉棒をずろりと吐き出しがてら、火群も混じってこない男を見るともなしに見る。痩せぎすで目の落ちくぼんだ男。火群に魔羅を突き出す男たちよりは草臥れた、裾を短く上げた着流し姿。その下肢が兆しているようには見えず、刀傷の男に睨まれたためか怯えた顔をしている。眼球がぎょろぎょろと忙しなく動いて、外と男たちと火群を往復している。

「お、俺は、いいよ」

「……ッチ」

「放っとけ。どうせこいつは後で、だろ?」

 か細い声に舌打ちと嘲笑が重なる。頭上で男たちがどのようなやり取りをしようが、火群にはてんで興味がない。とりあえず今相手をする棒が二本だということがわかればそれで十分だ。
 毟れて肌に刺さる藺草を感じながら、火群は膝で立つ。にゅこにゅこと掌中で宥めていた魔羅を二本、両手で支え、ぐっと自分へと引き寄せた。触れ合う寸前の亀頭同士を纏めて口に含む。浅く咥え、あるいは伸ばした舌で両方、片方と擦る。大きさも張りも違うつるつるとした感触に、ぐぢゅぐぢゅと唾液が、淫水が溢れて粘っていく。ぱた、ぱたと、口の端を滴り顎を伝った粘りが落ちてゆく。

「はッ……ぁ、ふっ……」

 深く息を吐いて、吸う。膝立ちの姿勢でちいさく腰が震えている。後ろが疼いて堪らないが、二本を纏めて咥えていると弄る暇がない。ならばと始めに咥えていた方は手淫、後から捻込もうとしてきた方を口淫に替えて空いた手を後ろにやれば、赤ら顔の男は酒臭い鼻息を漏らして火群の手中から魔羅を引き抜いた。
 滑る肉棒がべちんと火群の額を打つ。何の痛痒もないが邪魔だ。額からどろりと粘った先走りが伝って視界を割る。
 口の中の肉棒も一度吐き出して、鼻に流れ落ちてきたそれを手の甲で拭いながら男たちを見上げる。唾液と先走りの混じった物と一緒に火群は吐き捨てた。

「ンだよ、後ろ拡げてやろうってンだろォが」

「褌なしでケツ穴晒しといてよく言うぜ。外でヤッてきたんだろうが」

「まあ待てや」

 早くしろとばかりに火群の頬に魔羅を擦りつける赤ら顔の男。その肩を刀傷の男が叩いた。ニヤニヤと笑いながら、縮こまる痩せぎすの男を顎をしゃくって示した。

「俺がケツやってやる。お前、俺の代わりにしゃぶらせてやれ」

「はッ? いや、だ、だから、俺は、」

「そりゃあいい。お前にならクチ譲ってやっていいぜ」
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