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魔物たる所以 その5

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「お、オーナーが倒されたぞ!」

「ま、まじかあのじじい・・・!ていうか、いろいろな意味で汚ねぇ!!」

「元とはいえSランク冒険者を倒しちまうなんて・・・!」

「ていうか毒霧吹いたよな?とことん人間じゃねーな・・・」

「あそこであんなことするか?空気読めないやっちゃ・・・」



元Sランク冒険者であり、自分達にとって絶対的な実力者であったはずのバットンが倒されたことで、従業員達は大いに混乱した。
仲間であるはずのフローラでさえ困惑しているのだから無理もない。

力によって弱者から搾取してきた人間は、より大きな力が立ちはだかると途端に無力になってしまう。
一人、また一人と動き始めたかと思うと、従業員達は手負いで動けない者を除き全員が逃げて行った。


「ふん、全員顔を覚えておるぞ。今逃れられたからといって、今後この町で平穏に暮らせると思うなよ」


恐ろしいことをつぶやく魔物じじいを見て、フローラは逃げた従業員達に少しだけ同情する。まだ出会ったばかりだが、魔物じじいは言ったからには本当にそれを実行するだろう性格であることはフローラにもわかった。
きっと、逃げた従業員達は魔物じじいがいる限り、この町では二度と平穏に暮らすことはできないだろう。


「・・・ふっ、なんだ気が付いたら皆いなくなっちまってるじゃねーか・・・」


ふと気が付くと、バットンが意識を取り戻して半身を起こしていた。流石は元S級冒険者であるからか、打たれ強さは本物である。
バットンは何やら悟ったような顔をしながら、一人勝手に話し始めた。


「俺はこの短期な性格のせいで昔冒険者として孤立したってのに、そのとき自分で勝手に冒険者稼業は俺の居場所じゃないなんて考えてた。あとであの手下どもに声をかけられて、おだてられて、アイツらがと一緒にいる場所こそが俺の居場所なんだって、思い込んでいた。
だが違ったんだな。それこそが勘違い。あそこは俺の居場所じゃなかった。
やっぱり俺は孤立していても、どうであっても冒険者として生きているほうがずっと生きているって実感できるって、それがさっきやっとわかった」


頭の打ちどころが悪かったのかしら?と独り言を続けるバットンを見ながらフローラは思った。


バットンは憑き物が落ちたかのような顔をしてゆっくりと立ち上がると、フローラと魔物じじいに対して頭を下げる。


「今回のことは申し訳ねぇ。慰謝料払うが、それだけで許してくれなんて言わねぇ。でも俺はもうこんな稼業はもうやめて、もう一度下っ端から冒険者として再出発しようと思う」


「はぁ・・・」


勝手に満足し、勝手に改心し、勝手に再出発しようするバットンに、フローラは生返事しか返せない。
この日一日中、この酒場だけでもいろいろなことが起きており、フローラはすっかり疲れ切っていた。


「まぁ、再出発することは悪いことではないと思いますよ。神様はきっと見守ってくださっています」


疲れたあまり、既に聖女ではないのに聖女業務のくせでついそれっぽいことを言ってしまう。
それでもバットンはフローラの言葉に感銘を受けたようで、感謝の言葉をあれこれ述べている。

だが、そこに横から魔物じじいが気まずそうに会話に入ってきた。


「すまんが、冒険者として再出発するのは無理じゃと思う」


「えっ」


人の新たな船出に何てことを!とフローラは思ったが、次に出てくる魔物じじいの言葉は予想外のものであった。


「じゃって、おぬしの腕・・・もう使い物にならんぞ」


「は?」


魔物じじいが指をさしたのは、先ほど魔物じじいとの戦いのときに引っかかれた左腕だった。
バットンもフローラも気付いていなかったが、バットンの腕がいつの間にか紫色に変色し、膨れ上がっていたのだ。


「儂の爪には強力な毒があっての。一度毒が入ってしまうと、回復することは魔法でも薬でも不可能じゃ。放っておくと、やがては毒が体全体を侵食して死ぬ。命を守るためには、もうその腕は切り離したほうが良いんじゃないかのぅ・・・」


「な、なんだってーーっ!?」


バットンの絶叫が轟く中、フローラはあきれ顔で魔物じじいを見つめていた。
このじいさん、どれだけ邪悪な存在なんだよと。
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