340 / 464
魔物たる所以 その5
しおりを挟む
「お、オーナーが倒されたぞ!」
「ま、まじかあのじじい・・・!ていうか、いろいろな意味で汚ねぇ!!」
「元とはいえSランク冒険者を倒しちまうなんて・・・!」
「ていうか毒霧吹いたよな?とことん人間じゃねーな・・・」
「あそこであんなことするか?空気読めないやっちゃ・・・」
元Sランク冒険者であり、自分達にとって絶対的な実力者であったはずのバットンが倒されたことで、従業員達は大いに混乱した。
仲間であるはずのフローラでさえ困惑しているのだから無理もない。
力によって弱者から搾取してきた人間は、より大きな力が立ちはだかると途端に無力になってしまう。
一人、また一人と動き始めたかと思うと、従業員達は手負いで動けない者を除き全員が逃げて行った。
「ふん、全員顔を覚えておるぞ。今逃れられたからといって、今後この町で平穏に暮らせると思うなよ」
恐ろしいことをつぶやく魔物じじいを見て、フローラは逃げた従業員達に少しだけ同情する。まだ出会ったばかりだが、魔物じじいは言ったからには本当にそれを実行するだろう性格であることはフローラにもわかった。
きっと、逃げた従業員達は魔物じじいがいる限り、この町では二度と平穏に暮らすことはできないだろう。
「・・・ふっ、なんだ気が付いたら皆いなくなっちまってるじゃねーか・・・」
ふと気が付くと、バットンが意識を取り戻して半身を起こしていた。流石は元S級冒険者であるからか、打たれ強さは本物である。
バットンは何やら悟ったような顔をしながら、一人勝手に話し始めた。
「俺はこの短期な性格のせいで昔冒険者として孤立したってのに、そのとき自分で勝手に冒険者稼業は俺の居場所じゃないなんて考えてた。あとであの手下どもに声をかけられて、おだてられて、アイツらがと一緒にいる場所こそが俺の居場所なんだって、思い込んでいた。
だが違ったんだな。それこそが勘違い。あそこは俺の居場所じゃなかった。
やっぱり俺は孤立していても、どうであっても冒険者として生きているほうがずっと生きているって実感できるって、それがさっきやっとわかった」
頭の打ちどころが悪かったのかしら?と独り言を続けるバットンを見ながらフローラは思った。
バットンは憑き物が落ちたかのような顔をしてゆっくりと立ち上がると、フローラと魔物じじいに対して頭を下げる。
「今回のことは申し訳ねぇ。慰謝料払うが、それだけで許してくれなんて言わねぇ。でも俺はもうこんな稼業はもうやめて、もう一度下っ端から冒険者として再出発しようと思う」
「はぁ・・・」
勝手に満足し、勝手に改心し、勝手に再出発しようするバットンに、フローラは生返事しか返せない。
この日一日中、この酒場だけでもいろいろなことが起きており、フローラはすっかり疲れ切っていた。
「まぁ、再出発することは悪いことではないと思いますよ。神様はきっと見守ってくださっています」
疲れたあまり、既に聖女ではないのに聖女業務のくせでついそれっぽいことを言ってしまう。
それでもバットンはフローラの言葉に感銘を受けたようで、感謝の言葉をあれこれ述べている。
だが、そこに横から魔物じじいが気まずそうに会話に入ってきた。
「すまんが、冒険者として再出発するのは無理じゃと思う」
「えっ」
人の新たな船出に何てことを!とフローラは思ったが、次に出てくる魔物じじいの言葉は予想外のものであった。
「じゃって、おぬしの腕・・・もう使い物にならんぞ」
「は?」
魔物じじいが指をさしたのは、先ほど魔物じじいとの戦いのときに引っかかれた左腕だった。
バットンもフローラも気付いていなかったが、バットンの腕がいつの間にか紫色に変色し、膨れ上がっていたのだ。
「儂の爪には強力な毒があっての。一度毒が入ってしまうと、回復することは魔法でも薬でも不可能じゃ。放っておくと、やがては毒が体全体を侵食して死ぬ。命を守るためには、もうその腕は切り離したほうが良いんじゃないかのぅ・・・」
「な、なんだってーーっ!?」
バットンの絶叫が轟く中、フローラはあきれ顔で魔物じじいを見つめていた。
このじいさん、どれだけ邪悪な存在なんだよと。
「ま、まじかあのじじい・・・!ていうか、いろいろな意味で汚ねぇ!!」
「元とはいえSランク冒険者を倒しちまうなんて・・・!」
「ていうか毒霧吹いたよな?とことん人間じゃねーな・・・」
「あそこであんなことするか?空気読めないやっちゃ・・・」
元Sランク冒険者であり、自分達にとって絶対的な実力者であったはずのバットンが倒されたことで、従業員達は大いに混乱した。
仲間であるはずのフローラでさえ困惑しているのだから無理もない。
力によって弱者から搾取してきた人間は、より大きな力が立ちはだかると途端に無力になってしまう。
一人、また一人と動き始めたかと思うと、従業員達は手負いで動けない者を除き全員が逃げて行った。
「ふん、全員顔を覚えておるぞ。今逃れられたからといって、今後この町で平穏に暮らせると思うなよ」
恐ろしいことをつぶやく魔物じじいを見て、フローラは逃げた従業員達に少しだけ同情する。まだ出会ったばかりだが、魔物じじいは言ったからには本当にそれを実行するだろう性格であることはフローラにもわかった。
きっと、逃げた従業員達は魔物じじいがいる限り、この町では二度と平穏に暮らすことはできないだろう。
「・・・ふっ、なんだ気が付いたら皆いなくなっちまってるじゃねーか・・・」
ふと気が付くと、バットンが意識を取り戻して半身を起こしていた。流石は元S級冒険者であるからか、打たれ強さは本物である。
バットンは何やら悟ったような顔をしながら、一人勝手に話し始めた。
「俺はこの短期な性格のせいで昔冒険者として孤立したってのに、そのとき自分で勝手に冒険者稼業は俺の居場所じゃないなんて考えてた。あとであの手下どもに声をかけられて、おだてられて、アイツらがと一緒にいる場所こそが俺の居場所なんだって、思い込んでいた。
だが違ったんだな。それこそが勘違い。あそこは俺の居場所じゃなかった。
やっぱり俺は孤立していても、どうであっても冒険者として生きているほうがずっと生きているって実感できるって、それがさっきやっとわかった」
頭の打ちどころが悪かったのかしら?と独り言を続けるバットンを見ながらフローラは思った。
バットンは憑き物が落ちたかのような顔をしてゆっくりと立ち上がると、フローラと魔物じじいに対して頭を下げる。
「今回のことは申し訳ねぇ。慰謝料払うが、それだけで許してくれなんて言わねぇ。でも俺はもうこんな稼業はもうやめて、もう一度下っ端から冒険者として再出発しようと思う」
「はぁ・・・」
勝手に満足し、勝手に改心し、勝手に再出発しようするバットンに、フローラは生返事しか返せない。
この日一日中、この酒場だけでもいろいろなことが起きており、フローラはすっかり疲れ切っていた。
「まぁ、再出発することは悪いことではないと思いますよ。神様はきっと見守ってくださっています」
疲れたあまり、既に聖女ではないのに聖女業務のくせでついそれっぽいことを言ってしまう。
それでもバットンはフローラの言葉に感銘を受けたようで、感謝の言葉をあれこれ述べている。
だが、そこに横から魔物じじいが気まずそうに会話に入ってきた。
「すまんが、冒険者として再出発するのは無理じゃと思う」
「えっ」
人の新たな船出に何てことを!とフローラは思ったが、次に出てくる魔物じじいの言葉は予想外のものであった。
「じゃって、おぬしの腕・・・もう使い物にならんぞ」
「は?」
魔物じじいが指をさしたのは、先ほど魔物じじいとの戦いのときに引っかかれた左腕だった。
バットンもフローラも気付いていなかったが、バットンの腕がいつの間にか紫色に変色し、膨れ上がっていたのだ。
「儂の爪には強力な毒があっての。一度毒が入ってしまうと、回復することは魔法でも薬でも不可能じゃ。放っておくと、やがては毒が体全体を侵食して死ぬ。命を守るためには、もうその腕は切り離したほうが良いんじゃないかのぅ・・・」
「な、なんだってーーっ!?」
バットンの絶叫が轟く中、フローラはあきれ顔で魔物じじいを見つめていた。
このじいさん、どれだけ邪悪な存在なんだよと。
10
お気に入りに追加
206
あなたにおすすめの小説
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる