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天才の秘話

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ぼったくり酒場でのゴタゴタは、魔物じじいの独壇場と言える大暴れで壮絶な終わりを迎えた。
ぼったくり行為のリーダーであるバットンは隻腕になることになりそうであるし、引っかかれて毒が回った従業員は命の危険に晒されている。
元はと言えば粉をかけてきたのはバットン達だが、それにしても過剰防衛が過ぎているので、フローラはちょっぴりだけ申し訳なさを感じていた。


(なんて恐ろしい・・・というか、この人は一体何なんでしょう・・・)


フローラは魔物じじいの暴れっぷりに引いていたが、それ以前に魔物のような動きを見せたり毒霧を吐いたり、毒を体内に持っていたりといった人間離れしたスキルを見せたことに、当然ながら疑問を持っていた。


「ふ~む、悪を退治すると気持ちが良いのぅ」


魔物じじいは上機嫌そうにして、街中を肩で風を切るようにして歩いている。ちなみに体はまた元の大きさに戻っていた。
道行く人は変わらず魔物じじいを遠巻きに眺めているか、慌てて道を空けるかしているが、魔物じじいを知る人は酒場での暴れっぷりを見るに「怖い」「関わりたくない」という感情を普通の人が抱くのは当然だろうなとフローラは納得する。
そして、家にコソコソとヘイト満載の落書きをされるのも、これはもう仕方がないことだと思った。恐らくこの日ように暴れたのも一度や二度じゃないんだろうなと。


「この町じゃあ、しょっちゅうああして他所から悪党どもが流れてきおる。飲食店が新しく出来たら、大体半分くらいはああいったぼったくりじゃ。何しろ憲兵も教会も治安維持に貢献しないからのぅ、半端者どもが悪さをするには絶好の環境なんじゃ」


「え、じゃあ今日あのお店を選んだのは・・・」


「もちろん、『どうせぼったくりなんじゃろうな』と確信を持って入った。悪党掃除もかねてタダ酒でも飲んでやろうかと思っての。フローラちゃんとお話したかったのもあるが」


なんて性格なんだとフローラは思ったが、フローラは『大義名分を得て暴れたい』という欲を持つのはシュウにも似たようなところがあるのを知っていたので、特にそこを咎めるようなことは言わなかった。


「あのバットンとか言う男、あんなセコい稼業に身を落とすくらいならば、どの道再起の可能性は無かったじゃろうな。一度暴力に訴えて楽に稼げる味を覚えてしまったらもうダメじゃ。野放しにしてはいけないタイプじゃ。じゃから儂は悪いことはしとらんよ・・・うんうん・・・」


何やら言い訳がましく独り言を言う魔物じじいに、フローラは気になっていることを質問した。


「あの、ところで毒を持っていたり、魔物の動きをしたり、そのスキルはどうやって身に着けたんですか?」


フローラは冒険者としての経験は浅いが、それでも知識がないわけではない。
いつかシュウと二人で旅をすることになり、冒険者として身を立てる可能性も考慮して冒険者の知識も蓄えてきていた。
その知識の中には、魔物じじいのように魔物の能力そのものをトレースして戦うような冒険者は存在しない。

猫族の半獣人でもない普通の人間であるのに猫そのものの身のこなしをトレースし、毒を持つ生物でもないのに毒を体内に持つなど普通ではない。


「あぁ、これね。魔物の研究の一環で食べていたら自然とこうなったんじゃ。なんか取り込んでみると魔物そのものになれたような気がしてのぅ、そうしたら本当に体に変化が起きて、能力から何からトレースできるものが出てきたりしたんじゃよ」


「えっ」


衝撃的過ぎる発言に、フローラの思考が停止する。


「昔あるとき魔物の研究に没頭するあまり『そうだ、味も見てみよう』と魔がさしての。それ以来、生体の数に余裕がある魔物を食べてみることにドハマリしたんじゃ。以来、魔物の研究のために食べてみたり、毒を味わってみたり、淫魔と交わってみたり、体験できるものは全て体験してみたりしておる。命に関わるようなトラブルも一度や二度じゃないが、その経験の積み重ねで今の儂があるんじゃ」


「・・・」


「いずれは有翼化し空を飛んでみたり、スライムになってみたりしたいのぅ・・・」


冗談ではなく本気で言っている魔物じじいを見ながら、フローラは「この人とは仲良く出来なくても仕方ないかもしれない」と考えるようになった。
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