大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

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御前試合

婚約者が、甘え上手なんですが。

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腰の抜けた私を横抱きにしてソファに座らせると、アマンド様は床に片膝をつき、見上げる形で私の顔を覗き込んだ。

「顔が赤いな・・。熱ではないのか?体調は?ちゃんと昼は食べた?」

「あなたのせいです」とも言えず、赤い顔のまま頷いた。

「少し休めば、大丈夫ですから・・アマンド様こそ、ここに居て大丈夫ですか?」

尚も心配そうな顔のアマンド様は、チラリと時計を確認した。

「確かに・・そろそろ戻らないといけない。俺が行く代わりに、バトラーを呼んでこよう。」

「いえ、本当に大丈夫です。ほら、もう立てますから。」

少し腰を浮かせて見せて、ようやく納得してくれた。

でも、彼が試合に行く前に、これだけは、ハッキリさせておきたい。

「あの、アマンド様」

ん?と優しく見上げるアマンド様に、勇気を出して聞いてみる。

「私、ここに来ても良かったのですか?迷惑だったりは・・その、」

今年も来るな、と言われていたはずだ。

それなのにアマンド様の様子を見るに・・どうやら、本当に私は歓迎されているらしい。

「迷惑なわけがないだろう。レイリアに応援されるのが、一番嬉しいんだ。」

一旦そこで言葉を切り、私の手に、彼の手が重なる。

「  ・・・御前試合が終わったら、去年のことをちゃんと話そう。レイリアに聞いて欲しいんだ」

目が潤みそうになるのを堪えて、コクリと頷いた。

何を聞かされるのか、正直怖い。でも、このままではどこにも進めないから。

アマンド様は小さく息を吐いて、その姿勢のまま私の膝に頭を乗せてきた。顔は横に向けている。

「やっとレイリアに会えたのに・・戻りたくなくなってきた」

「だめです・・皆、待ってますよ」

「レイリアも?」

「それは、もちろん」

私の手を掴んで、彼の頭の上に置くと、彼は手を離した。

これは・・撫でろと言うことだろうか。

「アマンド様、時間は?」

アマンド様は目を閉じて微動だにしない。

早く戻らないといけないはずなのに・・。

テラス席を振り返り、ゲルトさんが向こうにいることを確認してから、恐る恐る頭を撫でた。

私のよりも太い、芯のある髪は存外撫でると気持ちいい。

大人しく撫でられているアマンド様。

これ、このまま寝ちゃったりしないよね?

テラスの方から歓声が聞こえる。
余興が始まったのだろう。

「アマンド様?」

「うん」

「余興が始まってしまいましたよ。本当に、もう行かないといけないんじゃないですか?」

「走っていく」

「それもうギリギリじゃないですか」

「うん」

手を止めると、抗議するように頭をグリグリ押し付けてくるので撫でるのをやめられない。集合時間は何時なんだろう。彼の気の済むようにするべきだろうか。いやでもさっきの言い振りからするともう本当に時間がないんじゃ・・

「アマンド様・・この辺にして、本当にもう行きましょう。」

「・・レイリアが応援するのは、俺だけ?」

何だか面倒くさい質問がきた。

実際には同じシーリーウッド騎士団の騎士さんやディフィート様も応援するつもりだけど・・

「はい。」

「負けたら、慰めてくれる?」

「はい・・でもできるだけ、負けないで欲しいです。」

「わかった・・」

アマンド様がようやく顔を上げたので、私もホッとしたのだが・・

「レイリアからもお守りをもらったら行く」

お守り?

アマンド様が、目を閉じて端正な顔を差し出してきた。

お守り。

その意味に気付いて、私は盛大に目を泳がせる。

ここで拒否したら、またさっきの状況に逆戻り、いや、それかもっと面倒くさいことになる。それだけはわかる。

騎士のくせに・・!騎士のくせに何か卑怯じゃないですか・・!?という言葉をグッと飲み込んで、意を決して彼の額に口付けた。

ーーチュッ

静寂が居た堪れない。じわじわ顔が熱くなる。

「こ、これでお気が済んだでしょう!いってらっしゃいませ!」

アマンド様が蕩けそうな笑顔で私を見上げる。上目遣いの破壊力がすごい。

「レイリア、行ってくる。今日の勝利を君に」

握った私の手に最後にキスを落とすと立ち上がり、今度こそ、アマンド様は試合へと向かっていった。
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