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御前試合
観覧に向けて
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「どうぞ」
コトン、と目の前に置かれたグラスは綺麗なルビー色の液体で満たされている。
今日のオススメだという、レモンとクランベリーのジュースだ。
味の感想を言おうと思っていたのに、泣きすぎて思いの外、喉が渇いていたらしく、味わう前にゴクゴクと飲み干してしまった。
「ゲルト、おかわりよ」
「はい、ただいま」
ようやく入場が許され、到着したマルグリット家の観覧席で、ひとまずドリンクを頂いている。
ゲルトさんには心配をかけてしまった。
馬車のドアを開けたら、私がボロボロ泣いていたから、きっと驚かせてしまっただろう。
私が2杯目のレモンとクランベリーのジュースを味わって飲んでいると、ジュディ様がグラスを置いた。
「あ、そうだわ。ゲルト!」
「はい」
「王国騎士団のバッジをひとつ、手に入れて頂戴」
「王国・・騎士団のでございますか?」
「そうよ。」
「お嬢様、すでにバッジは完売していると思いますが・・早急に必要ですか?」
「ええ。今すぐ必要よ。レイリアに付けさせるから」
「ぅぷっ!私!?」
危うく咽せそうになった。
「言ったでしょ。あなたと婚約者をくっつけるって」
その話、本気だったんですか!?
「無礼女があのブローチを付けてるのに、婚約者が付けてないなんて、有り得ないんだから!」
なるほど、と頷いたゲルトさんが胸に片手を当てて会釈した。
「そう言うことなら、承知しました。少しお待ちいただければ、マルグリット侯爵家の名にかけて、必ずや調達して参ります」
「少しくらい値がはっても構わないわ」
「ちょっと待ってください!」
慌てて腰を浮かせる私を、ジュディ様はジロリと睨みつけた。
「何よ。邪魔しないでくれる」
「待って・・ください。その・・あの・・私、持ってるので・・」
「どこに?」
観念した私は、手にしたクラッチバッグの中から、王国騎士団のブローチを取り出し、ジュディ様に手渡した。
ブローチの図案を考えていた時に作成した試作品だ。
売り物の図案とは細かい部分が少しだけ異なる。
「ふーん、付ける予定のないバッジを、バッグに隠して大切に大切に持ってきたのねぇ」
さっきジュディ様に指摘された、自分の本心と実際の行動のあべこべさが如実に現れているようで、死ぬほど恥ずかしい。
「うぅ・・意地悪言わないで下さい」
「ほら、返すわ」
「あ、はい。え?」
「何よ。付けるように命令でもされると思った?」
返されたバッジを見つめる。
そうだ。私が自分で決めなきゃ意味がない。
胸元にバッジをつけ終えると、ジュディ様がフン、と鼻を鳴らした。
「別に、ムリしてうちのバッジまで付けてもらわなくても結構よ」
「いえ、どっちも、応援してますから」
左胸に並んだ2つのバッジ。
上から手を当てて、深く息を吸い込むと、ようやく気持ちが安らいだ気がした。
ノックの後にマルグリット侯爵夫人が姿を現す。
「まぁレイリアさん、お久しぶりね!先日はうちのお茶会に来てくれてありがとう。」
「はい。本日もお招きいただきありがとうございます」
「そのドレス、王宮騎士団のカラーを意識してくれたの?義理堅いのねぇ。ジュディみたいに熱狂的な応援は今時珍しいのに・・」
そう言う侯爵夫人のドレスは深いグリーンだ。
ここの観覧席に座るなら赤か黒のドレスを着るのが常識なのでは?
(聞いてた話と違う・・)
横目でジトっと見たジュディ様は、涼しい顔でババロアを食べている。
「カンカン帽とドレスを合わせるのも面白いわね。季節感が出て、一気に夏らしく見えるわ!」
この組み合わせが侯爵夫人に好評だとは意外だ。
「こんな変な格好がいいなんて、お母様、冗談でしょ」
「あらー王道好きなジュディにはわからないでしょうね。あなたには遊び心ってものがないのよ。」
・・侯爵夫人に受け入れられたと言うことは、このままかぶっていてもいいだろうか。
正直、ここに来てることをアマンド様に知られたくない気持ちはまだ根強い。
よし、と心の中で気合を入れる。
今日はひとまずこのまま帽子を被って観覧する。そう決めた。
「ほら、レイリア。そろそろ開幕よ」
手を引かれテラス席に移動すると、眼下に満員の観客席が広がった。
コトン、と目の前に置かれたグラスは綺麗なルビー色の液体で満たされている。
今日のオススメだという、レモンとクランベリーのジュースだ。
味の感想を言おうと思っていたのに、泣きすぎて思いの外、喉が渇いていたらしく、味わう前にゴクゴクと飲み干してしまった。
「ゲルト、おかわりよ」
「はい、ただいま」
ようやく入場が許され、到着したマルグリット家の観覧席で、ひとまずドリンクを頂いている。
ゲルトさんには心配をかけてしまった。
馬車のドアを開けたら、私がボロボロ泣いていたから、きっと驚かせてしまっただろう。
私が2杯目のレモンとクランベリーのジュースを味わって飲んでいると、ジュディ様がグラスを置いた。
「あ、そうだわ。ゲルト!」
「はい」
「王国騎士団のバッジをひとつ、手に入れて頂戴」
「王国・・騎士団のでございますか?」
「そうよ。」
「お嬢様、すでにバッジは完売していると思いますが・・早急に必要ですか?」
「ええ。今すぐ必要よ。レイリアに付けさせるから」
「ぅぷっ!私!?」
危うく咽せそうになった。
「言ったでしょ。あなたと婚約者をくっつけるって」
その話、本気だったんですか!?
「無礼女があのブローチを付けてるのに、婚約者が付けてないなんて、有り得ないんだから!」
なるほど、と頷いたゲルトさんが胸に片手を当てて会釈した。
「そう言うことなら、承知しました。少しお待ちいただければ、マルグリット侯爵家の名にかけて、必ずや調達して参ります」
「少しくらい値がはっても構わないわ」
「ちょっと待ってください!」
慌てて腰を浮かせる私を、ジュディ様はジロリと睨みつけた。
「何よ。邪魔しないでくれる」
「待って・・ください。その・・あの・・私、持ってるので・・」
「どこに?」
観念した私は、手にしたクラッチバッグの中から、王国騎士団のブローチを取り出し、ジュディ様に手渡した。
ブローチの図案を考えていた時に作成した試作品だ。
売り物の図案とは細かい部分が少しだけ異なる。
「ふーん、付ける予定のないバッジを、バッグに隠して大切に大切に持ってきたのねぇ」
さっきジュディ様に指摘された、自分の本心と実際の行動のあべこべさが如実に現れているようで、死ぬほど恥ずかしい。
「うぅ・・意地悪言わないで下さい」
「ほら、返すわ」
「あ、はい。え?」
「何よ。付けるように命令でもされると思った?」
返されたバッジを見つめる。
そうだ。私が自分で決めなきゃ意味がない。
胸元にバッジをつけ終えると、ジュディ様がフン、と鼻を鳴らした。
「別に、ムリしてうちのバッジまで付けてもらわなくても結構よ」
「いえ、どっちも、応援してますから」
左胸に並んだ2つのバッジ。
上から手を当てて、深く息を吸い込むと、ようやく気持ちが安らいだ気がした。
ノックの後にマルグリット侯爵夫人が姿を現す。
「まぁレイリアさん、お久しぶりね!先日はうちのお茶会に来てくれてありがとう。」
「はい。本日もお招きいただきありがとうございます」
「そのドレス、王宮騎士団のカラーを意識してくれたの?義理堅いのねぇ。ジュディみたいに熱狂的な応援は今時珍しいのに・・」
そう言う侯爵夫人のドレスは深いグリーンだ。
ここの観覧席に座るなら赤か黒のドレスを着るのが常識なのでは?
(聞いてた話と違う・・)
横目でジトっと見たジュディ様は、涼しい顔でババロアを食べている。
「カンカン帽とドレスを合わせるのも面白いわね。季節感が出て、一気に夏らしく見えるわ!」
この組み合わせが侯爵夫人に好評だとは意外だ。
「こんな変な格好がいいなんて、お母様、冗談でしょ」
「あらー王道好きなジュディにはわからないでしょうね。あなたには遊び心ってものがないのよ。」
・・侯爵夫人に受け入れられたと言うことは、このままかぶっていてもいいだろうか。
正直、ここに来てることをアマンド様に知られたくない気持ちはまだ根強い。
よし、と心の中で気合を入れる。
今日はひとまずこのまま帽子を被って観覧する。そう決めた。
「ほら、レイリア。そろそろ開幕よ」
手を引かれテラス席に移動すると、眼下に満員の観客席が広がった。
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